第7話 一人暮らしをはじめた日

麻耶子が26歳になるとしの事


優秀な麻耶子は卒業後

2年間の研修もしっかりこなした


就職先の総合病院は実家から少し遠くて

通勤に負担を感じていた


帰宅時間が遅くなると弟が駅まで迎えに来ることもあった

きっと心配性な父の指示だろう

そんな時の悠介はふて腐れた顔で前をスタスタ歩くからよく分かる



母も何時になろうと待っていた

”しっかり食事しなさい”

と体のことを気にかけてくれていた


何だか家族を振り回してしまっているようで

心苦しかった


そんな理由から

職場に徒歩でいける距離のマンションに一人暮らしをはじめる

事になった


引越しの日

家から持っていくものは身のまわりのものだけなので

業者に頼まず悠介に手伝ってもらう


一人で抱えきれないほどの荷物はないというのに

悠介は栞も連れてきた


栞とはあのキス以来 何も無い

家に入り浸ることは変わらなかったので廊下ですれ違ったり

同じ食卓を囲むこともあったが

何事もなかった様に・・・・・・


今となっては私が夢でも見ていたのか?と自分の記憶を疑ってしまうくらい・・・・・・




悠介と栞はリビング・キッチン・寝室・浴室などをチェックする

クローゼットや収納も全部開いて確認


「何してるの?」麻耶子


「隅々までチェックしろって父さんがうるさく言ってたからさ

父さん姉ちゃんに対しては過剰に心配性でしょ?

しかしさ

リッチなマンションだよね

セキュリティーもしっかりしてるし・・・・・・広すぎない?」悠介


「私はワンルームで良いって言ったんだけど

パパがここにしなさいって・・・・・・ちょっと広いけど」麻耶子


そんな会話をしながらダラダラとした割には午前中で引越しはで終わった


麻耶子は悠介と栞に引っ越しソバのかわりに

ピザを注文して振る舞った

それを食べ終わると

二人は次の予定のため帰る支度をはじめた


今から友達と合流してカラオケにいくらしい


麻耶子は今日のお礼を兼ねて

悠介にお小遣いを渡す


「今日のお礼だから

今から行った先で栞ちゃんのぶんも払ってあげて」麻耶子


少し多目の金額に悠介はニヤリと笑って


「有り難う❗助かります」悠介


そう言って遠慮なくお金を受け取った


帰り際

麻耶子は玄関から顔を出して二人がエレベーターの前に立つまで見送った

そしてドアを閉め鍵をかけようとした時

”ガチャ”

勢いよくドアが開いた


栞が一人戻ってきて


「忘れ物した!」栞


「あっそうなの?」麻耶子


麻耶子はリビングのほうを見る


「麻耶ちゃん 一人で淋しい時は言ってね

遊びに来るから」栞


そう言って栞は麻耶子の細い手をグッと引っ張って

”チュッ”

と唇にキスをした


キス!!!


栞は小悪魔的な笑顔を浮かべて呆然とする麻耶子を置いて帰っていった


ドアが閉まってもしばらく麻耶子は立ち止まる


意味が分からない


あの子の意味が分からない


やっぱりあの時のキスも夢なんかじゃないんだと確信するけど

それはそれで収まりの悪い気持ちで一杯になる


だって悠介の友達で小さな頃から知っているし

まだまだ子供だし

あれから何にもなくって


2年越しにまたこんなことをするなんて

きっとからかっているんだろう


そう思うと少し腹が立った


少し冷静になった頃

下駄箱の上においたハートの形の小物入れに2つに折ったメモの様なものが置いてあることに気が付く


麻耶子はそっと手に取り

それを開くと


″麻耶ちゃん

今日から一人暮しだね

俺の連絡先です


★★★★★★(携帯番号)


いつでも連絡ください❗

栞″


麻耶子はその紙をお財布のなかに入れた


″どういうつもりなのよ❗″

と少し怒ってはいたけど

なんとなくゴミ箱には入れる事ができなかった





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