第23話 『たべられたやまんば』をリメイクしてみた
「切り札って熱いわよね」
「いきなりどうした」
その右手に持った少年漫画は何だ、部長よ。
「ここぞとばかりに持ち出す切り札。そして切り抜けるピンチ。まさに主人公の展開よね」
まあ確かに、古今東西バトル物では熱くなる要素として魔法や武器、技による切り札は用いられている。大抵は反動が強かったり、回数制限があって頻繁に用いることができない代わりに威力が絶大なものだ。
「と、言うわけで。今回も良い題材、探して来たわよ!」
「『たべられたやまんば』?」
何だこのネタバレ満載なタイトルは。
「あれ、知らない?」
「いや、どこかで見たような記憶があるんだが……」
「別名の方が有名かもしれないわね」
「何だ、他のタイトルがあるのか」
「ま、その内わかるわよ」
しかし、どうやって山姥を食べる気だ。その切り札とやらも気になる。
「『ある日、小僧が和尚様にお願いをしました』」
「ほう?」
「『山に栗を拾いに行きたいんです』『駄目じゃ、山姥が出て危険じゃぞ』」
なるほど、定番の始まり方だ。
「『小僧が駄々をこねると、和尚様はしぶしぶ許してくれました』『仕方ないなぁ、のb』ゲフンゲフン『これを持っていくのじゃ』」
「待て、今何を言おうとした」
「悪ノリが過ぎたわ」
今更ではないだろうか。
「『お~ふ~だ~』」
「やっぱりドラえもんじゃねえか!?」
おまけに今ので思い出した。この話は「三枚のお札」だ。
山姥に襲われた小僧が和尚様から貰った三枚のお札を使って逃げる展開がある。最後は和尚様が山姥を騙して小さくなったところを餅で包んで食べてしまうというお話だ。
「この話、地域ごとに違いがあって『鬼婆と小僧』とか他にも呼び方があるのよ」
「そうなのか」
元々はローカルな昔話らしいので、地域によってバリエーションがかなりあるらしい。
「でも、この話ってちょっと問題あるんじゃない?」
「何がだ」
「タイトルが『三枚のお札』なのに活躍してないじゃない」
「……確かに」
この話では、小僧がお札を使って三回山姥を妨害するのだが、いずれも乗り越えられてしまう。
「現代人として、タイトル詐欺は良くないと思うの」
「どの口が言うか」
元ネタを跡形も無くしている輩が何を言う。
「そこで、今回はこのお札をもっと演出を加えて
「
部長は「ふっ……」と鼻で笑って遠い目をする。
「さあ、行くわよ! 『小僧が山に入ると、山姥が現れた!』」
「早えよ!?」
何たる急展開。
┌─────┐
│コマンド?│
│ たたかう│
│ おふだ │
│ ぼうぎょ│
│▶にげる │
└─────┘
「ドラクエ風にすんな!」
いきなりドット絵の世界でイメージしちまったじゃねえか。
「『小僧は逃げ出した。だが、山姥に回り込まれてしまった』」
「いや、確かにそうだけど!」
「『山姥の攻撃、痛恨の一撃! 小僧に238ポイントのダメージ。小僧は倒れた』」
「しかも山姥強えな!」
「『ふたたびよみがえらぬよう、そなたのはらわたをくらいつくしてくれる』」
「魔王かよ!」
そこまで再現しなくていい。
「『糞がしたい!』『むむ……あれは臭いからのう、仕方ない。早く行って出して来い』」
魔王の台詞が原作の台詞に押し切られたぞ、おい。
「『山姥は小僧の腰に縄をつけて便所に行かせてくれました。しかし、小僧はそれを解くと柱に結びました』」
「やっとお札の登場か」
「『
「カードゲームかよ!」
確かに切り札だけど!
「『この効果で山姥は3ターン攻撃不能になる』」
しかもどこかで聞いたことのある効果だった。
「『おのれ、待たんか小僧!』『くそっ、2枚目の
そういえば次の札の効果は……。
「『大洪水を起こして貴様のライフは0だ!』」
「普通にガチなの来た!?」
「『死ねええええ、山姥ああああ!』」
おい、仏教徒。
「『すると、突然小僧の後ろに川が出現しました。しかし、小僧が後先を考えずに発動した魔法の力によって、山の生態系が破壊され、森の動物たちが流されて行ったのです』」
「大惨事じゃねえか!」
「人間のエゴが自然を破壊するのよ」
取ってつけたように寓話っぽくするんじゃない。
「『甘いわ、わしの
「山姥強えな!?」
「『山姥は身を挺して水を飲み干し、大洪水を防ぎ切りました』」
どっちが正義だかわからなくなって来た。
「『ならば3枚目の
「……ということは」
「『小僧の力によって、山に火は燃え広がり、動物たちは
「そりゃそうなるよ!」
「『山姥は、山を守るため、今飲み込んだ水を吐き出そうと指を喉奥に』」
「言わんでいい!」
水を吐くのは原作通りだが、具体的に言われると気持ち悪い!
「『オエッ……この山はわしが守る!』」
「余計なことを入れんでいい!」
お陰でまるでキメきれてない。
「『おのれ、ならば最後の切り札だ! 俺は、和尚様を召喚!』」
「モンスター扱いになってるぞ」
「『そして和尚様は、山姥を食べてしまいました』」
「過程を飛ばすな!」
本当に化物っぽくなってしまった。
「『おお、やまんば。しんでしまうとはなさけない』」
「蘇った!?」
いや待て、そう言えばこの話は地方ごとに違いがある。
確か山姥は生まれ変わって……。
「『次回、和尚様に食べられて転生したらハエでした』」
「夢も希望もねえラノベになった!」
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