第7話 『走れメロス』をリメイクしてみた

「ちょうどいい話が教科書にあったわ」

「何を魔改造する気だ」


 こいつの行いは最早リメイクの域を超えている気がする。

 俺は全力で作者たちに謝意を捧げたい。


「『走れメロス』よ!」

「どうリメイクすると言うんだ」

「この作品、昔書かれたから現代じゃ使わない言葉が多いと思わない?」

「それも醍醐味の内だろう」


 邪智暴虐とか、普通使わないからこそ味があるのだと思う。


「なので、今回は現代風の言葉遣いにリメイクします」

「まあ、その方が親しみやすいかもしれんが……」


 この女がやることだから不安を覚える。


「嫌な予感しかしないがやってみろ」

「『メロス鬼おこ』」

「軽すぎるわ!」

「『オレ決めた。あのヤベえ王殺してくる』」

「太宰に謝れ貴様」


『かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した』がえらい変形したものだ。


「『政治は知らねえ! 遊んで暮らしてえ! でも悪い奴許さねえ!』」

「何故韻を踏む」


 これだけ見たらただの頭の弱い現代の若者だな。


「ディオニス王はどうする気だ」


 本来は平和を求める王だが、人が信じられないあまりに孤独を感じているという複雑な立場だ。

 この後はメロスが王を殺しに行って捕まり、そこで人の心を疑う事の愚かさをメロスが問うシーンだ。


「『フッ……お前には俺の孤独がわからぬ。このエターナルダークキング・ディオニスの孤独がな』」

「中二病かよこの王!」

「『孤独とかwwwマジ使えねえこの王www』」


 煽ってどうする。


「『下賎の者め……俺には人の心が読める。貴様も闇の審判が下される刹那、その慟哭を以て贖いの証と成しても無意味と知るがよい』」

「普通に喋れ!」

「『バカじゃねえの。命乞いとかダセェし。あ、ワリィ、妹嫁がせるからちょっと時間くれねえ?』」

「阿呆かお前は」

「『疑うってんなら俺のダチ置いてくんで、帰って来なかったらヤっちゃっていいぜ』『よかろう。その愚昧な所業に於いて、かの男を依り代と成すもまた一興』」


 こいつらよく会話が成立するな。


「この後は『セリヌンティウス捕まる』『メロス、帰る』『メロス、結婚式後に出かける』でお送りします」

「サザエさんの予告風にするな」

「この後はちょっと展開が長いから簡潔にまとめるわ」


 確か昨日の雨で増水した川を渡るのと山賊に襲われるシーンだったな。

 どうする気だ。


「『川が溢れてるけど泳いで渡ったら王の命令受けた山賊に襲われたんですけど』」

「ラノベのタイトルかよ!」

「『疲れた。もう無理。もうゴールしていいよね……って、うっそぴょーん!』」

「緊張感が欠片もねえ!」


 己の限界に瀕して諦めかけるも、もう一度立ち上がるシーンが酷いことになった。


「『色々あったけど気にせず走れメロス。全裸で』」

「いや、確かに全裸になるけどさ!」

「『なんやかんやでメロスは間に合った。全裸で』」

「全裸から離れろ!」

「『セリヌンティウス殴って!』」

「言葉が足りねえよ!」

「『メロス、私を殴r』『メロスはセリヌンティウスを殴った』」

「早いわ!」

「『暴君ディオニスは二人に近づき、顔を赤らめて言った』『仲間に入れて』」

「だから言葉が足りねえんだよ!」


 字面だけでは完全に危ない奴だ。

 人の心を信じる信じないはどこへ行った。


 ともあれ、これでラスト。

 少女がマントをメロスに捧げ、セリヌンティウスの指摘でメロスが赤面するシーンだ。


「『前くらい隠せよメロスw』」

「もうちょっとソフトな言い方を覚えろ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る