地下からの問ひかけ

柊 撫子

はじめ

 町外れのとある山奥。


 暗い山々にそびえる樹林を掻き分けるように大きな屋敷はある。

眩い太陽に照らされても、鋭い刃のような雨に打たれても、全てが静かに凍てつく時でさえもこの屋敷は変わることがない。不自然なほどに。


 まるでこの屋敷だけ時が止まっているかのように、何もかもが変わることがないのだ。


 この屋敷ではもう一つ絶対に変わらないことがある。

それは、いつからか屋敷の地下から聞こえてくる声だ。

その声は人のような、人ではない生き物のような、もしかすると生き物ではないような音。

けれどもその音は言葉を紡ぎ、屋敷に訪れる人の脳裏に焼き付けるのだった。


「アランを知っているか?アランは知っているのか?」


悲しむような、怒るような、


寂しいような、嬉しいような、


 そんな抑揚で問ひかけてくる声。

勿論、その声を聞いた人間は今まで数え切れないほどいるが、その声に返事をした者は誰一人としていない。


 それでも変わらず問ひかける。


 変わらない声で、同じ方向から、見知らぬ誰かへと……



 誰かが返事をしてくれるまで……。

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