チョコクッキー

神木 ひとき

チョコクッキー

昼休みを告げるチャイムが鳴った。

教室の中は春の穏やかな陽気で満ち溢れていた。


教室の窓は開けられていて心地よい風が入ってくる。


「春なんだな‥」


外の景色を見ながら、ぼんやりと物思いにふけっていた。


「お〜い健美たけみ、昼休みだよ、お弁当食べないの?」


瑠璃子るりこ‥そっか、もうお昼なんだ?」


親友の瑠璃子の声にハッと我に返った。


「どうしたの?最近の健美、ボーッとして変だよ」


「そうかな?‥」


「そうだよ、何かあったの?」


「別に‥何も」


「まさか〜、好きな人でも出来た?」


「そっ、そんなこと、ある筈ないでしょう!」


瑠璃子が含み笑いを浮かべて言った言葉に思わず声を荒げた。


「そんなに大きな声出さなくても聞こえるって、で相手は誰なの?」


「‥」


「名前も知らない、どこの誰かもわからない相手か‥こりゃ厄介だな」


「‥」


「で、どこで出会ったの?」


「‥」


「聞いてるの?健美!」


「瑠璃子‥勝手に一人で話しを進めないでくれる?まったく‥」


「な〜んだ、好きな人ができたのかと思った、違うんだ?」


「違うとは言ってないよ‥」


「結局どっちなの?」


「‥」


「話す気ないなら、話題変えるけど?」


瑠璃子がしれっとした顔で突き放すように言った。


「好きな人‥できたみたい」


「ふ〜ん、で、どこの誰なの?」


「わからない‥」


「やっぱり‥そうだと思った」


「わたし、今月から予備校に通い始めたでしょ?」


「予備校が一緒の子か‥不真面目ふまじめだな、何しに行ってるんだか‥」


瑠璃子は呆れた顔をしている。


わたしの通う桜山さくらやま女子高校は中学、高校、大学まである一貫校だ。


中学からこの学校に通っているけれど、二年生の終わりに進路面談で女子大には進学しないことを伝えたばかりだった。


友達は皆、何のために付属に入ったのかって言うけど、理数系の学部に行きたかったのと、何より女子校の雰囲気にきとしていた。


高三になったのを機に受験のため、予備校に通い始めたんだけと‥

そこで一人の男の子に心惹かれてしまった。


瑠璃子は不真面目だと言うけれど、彼だけが教室で輝いて見えた。


共学ってこんな雰囲気なんだ‥

中学から女子校だったわたしには、男子が教室いる風景がとても新鮮だった。


机に向かいながら講義を真剣に聞いている彼の横顔に胸がときめいて、頭から離れなくなっていた。


「それで?」


「それでって‥」


「どんな感じの人?」


「どんなって、ただカッコいいとしか‥」


「もしかして健美、初恋なの?」


「多分‥」


「ふ〜ん、で、どうするの?」


「どうするって‥」


「告白するの?」


「名前も知らないんだよ‥」


「関係ないよ、予備校に行けば会えるんでしょ?」


「そうだけど‥」


「水曜と金曜に予備校行ってるんでしょ?今日は水曜だから会えるじゃん」


「だからどうしようって考えているんじゃない」


「簡単だよ」


「簡単?」


「そうだよ、予備校って席とか決まってないんでしょう?『隣空いてますか?』とか言って座ればいいじゃん」


「そうだけど‥」


「その子、友達と来てるの?」


「いや、一人だと思うよ」


「じゃあ、できるよ」


「簡単に言うなあ、瑠璃子は‥」


「簡単に言うよ、所詮は他人ごとだからね」


瑠璃子の言葉を聞いて後悔した。

やっぱり話さなければよかった‥



放課後、予備校のある新宿に向かって小田急線の車内にいた。

つり革につかまって車窓の風景をボンヤリと眺めながら、瑠璃子の言った言葉を思い出していた。


みんな勉強するために通っているのに、隣に座って声なんか掛けたら何て思われるんだろう?

そもそもわたしに、そんなことをする勇気があるのだろうか?そう思った。


夕暮れの新宿の街は人で溢れていて、帰宅を急ぐ人の群れに逆らって歩いた。


居酒屋からかおる美味しそうな匂いと賑やかな看板に、わたしも大人になったら仕事の帰りにこんなところに行くようになるのかと考えた。


お酒なんて飲んだことがないのに‥

そんなことを思ったことが不思議だった。


予備校のビルに入ってエレベーターを10階で降りると、数学の講義の受講を証明するカードを10A教室の壁に設置された機械にかざしてドアを開けて教室に入った。


200人程入ると思われる大きな教室は既に4割程埋まっていた。


わたしは教室内を見渡して彼の姿を探してみた。


‥いた、教室の真ん中より少し前の通路側の席に彼は座っていた。


少し悩んだけど、彼の座っている席の方へあゆみを進めながら、


『自然に、あくまでも自然に』


心の中でそう自分に言い聞かせながら、彼の座っている席のすぐ側までやって来た。


彼はテキストを見ながら講義の予習をしていた。


「あの‥隣空いてますか?」


思い切って声を掛けると、彼はテキストからほんの少しだけ視線をわたしの方に向けて、


「空いてるよ」


そう言って通路に立ち上がって奥に入れるようにしてくれた。


初めて聞く彼の声は容姿から想像していたより低い声だった。


「ありがとう」


そう答えて奥の席に入った。


チラッと見た彼のテキストは繊細な文字で数式がギッシリと書かれていた。


隣の席に座ると、彼も席に座り再びテキストに視線を戻した。


わたしもカバンからテキストと参考書、筆記用具入れを取り出して講義の準備をした。

その間、彼はわたしを気にする様子もなくテキストを黙って見ていた。


結局、彼のことについてさしたる収穫もなく講義は終わり、彼はカバンにテキストをしまうと、スッと立ち上がってすぐに教室を出て行ってしまった。



翌日の昼休み、瑠璃子に昨日の報告をした。


「で、収穫は思っていたより彼が低い声だということと、繊細な文字を書くってこと?」


「‥」


「健美さ、何しに予備校行ったのよ?」


「何しにって‥数学の講義だよ」


「あ〜あ、もったいないね、せっかく隣に座ったんだから話とかしなかったの?」


呆れたと言わんばかりに瑠璃子が声を上げた。


「そんなの無理だよ、真剣に勉強してるんだよ、声なんて掛けたら迷惑だし、嫌われちゃうよ」


「じゃあ、これで終わり?」


「終わりって?」


「だって、次は同じ手は使えないよ、また隣に行ったら絶対に変に思われるよ」


「そうかな?」


「そうだよ、話でもしてたら『この前はどうも』とか言ってまた隣に座れたじゃない?」


「そっか‥瑠璃子って天才!」


「あんたがアホなだけだよ、まあ隣に座ってきただけでもすごいけど‥」


「すごいんだ?瑠璃子が簡単だって言ったから‥」


「健美‥あんたやっぱりアホだわ、本当にやるとは思わなかったよ」


「次はどうしたらいいのかな?」


「知るか、そんなの自分で考えな!」


瑠璃子は半ば呆れ顔をして言った。



次の金曜日も学校が終わると予備校へ通うため新宿へ向かっていた。

金曜日ということもあり、小田急線の車内はいつもより混雑していた。


新宿駅の西口を出て予備校へ向かって歩くと夕暮れの街はとても賑わっていた。

新入社員同士の懇親会なのか、真新しいスーツ姿の男女が大勢で楽しそうに歩いていた。


わたしもあんなふうになるのかな?

いつか社会に出る日が来るんだ‥


予備校に着くとエレベーターに乗って8階で降りた。


8C教室の壁の機械に物理の講義のカードをかざして教室に入った。


水曜日の数学とは異なり、この教室は100人程度の教室なので、席は既に5割程埋まっていた。


いつものように彼を探したけど、彼の姿はどこにも無かった。


さほど大きくない教室を何度も見渡したけど、やっぱり彼はそこにはいなかった。


諦めて後ろ寄りの通路側の席に座ってテキストをカバンから出しながら思った。


まだ数回目の講義だけど、彼がいなかったことは一度も無かったのに‥

今日は来ないんだ、何かあったのだろうか?


講義の開始を伝えるチャイムの音と共に物理の講師が教室に入って来てしまったので、ガッカリして黒板に目を向けた。


その時、教室のドアが開いて一人の男子が慌てて入って来るのが見えた。


彼だ‥彼は講師に頭を下げると空いている席を探しながら通路を歩いてきた。

わたしの横で立ち止まると、わたしに中に入れてと合図をした。


席を詰めて彼に通路側の席を譲ると、彼は頭を下げてその席に座った。


走って来たのか息を切らせて、少し苦しそうな顔をしていた。

わたしはカバンの中からペットボトルのお茶を出して彼に勧めた。


彼は少し驚いた顔をしていたけれど小声で、


「ありがとう」


と言ってペットボトルのお茶を美味しそうに口に含んだ。


彼は落ち着いたのか、カバンからテキストを取り出して講義を受ける準備を整えていた。


わたしも、


「どういたしまして」


と一言だけ言って講義に集中した。


講義が終わると彼はカバンにテキストをしまって帰る準備をしていた。


わたしは勇気を出して彼に声を掛けた。


「水曜の数学も隣だったよね?」


彼はわたしの方を見て、


「そうだったね」


と言った。


わたしのこと覚えてくれてたんだ‥

そのことがとても嬉しかった。


「桜山女子なんだね?」


「えっ?」


「その制服、そうでしょ?」


「あっ、うん」


わたしはそう応えた。

何でうちの学校の制服を知ってるんだろ?


「お茶、ありがとう」


彼はそれだけ言って席を立つと行ってしまった。


今日の収穫は彼がわたしを覚えていたこと、何故だかわたしの学校の制服を知っているということ‥

学校の近所に住んでるのかな?



週が明けた月曜日の昼休み、わたしは瑠璃子に金曜日のことを報告をした。


「で、向こうから隣の席にやって来て、お茶を飲んで、声を掛けたら健美のこと覚えてて、うちの学校の制服を知ってたと‥」


「うん」


「よく話し掛けたよね?」


「話しをしろって、瑠璃子が言ったんだよ」


「わたしの言うことなら何でもするのか?」


「だって‥」


「彼は健美が桜山女子って知ってるんだよね?」


「そうみたい‥学校の近くに住んでるのかな?」


「‥アホ、本当に健美はアホだな」


「瑠璃子‥」


「普通、女子の制服見てどこの学校かなんてわからないよ、健美は男子の制服見たら学校とかわかる?」


「わからない‥」


「でしょ!つまり‥」


「つまり?」


「そんなの女子校オタクか‥」


「女子校オタク!?」


わたしは瑠璃子の言葉を遮って思わず叫んだ。


「人の話は最後まで聞けっていうの‥」


瑠璃子が少し口を尖らせて言った。


「ゴメン‥」


「女子校オタクか、うちの学校の誰かと付き合ってるに決まってるじゃん」


「え〜っ、そうなの?」


「そうだよ、そうに決まってるよ」


「何で?」


「そうじゃなきゃ、制服見ただけで学校なんてわかる筈ないよ」


「そうかな?」


「彼って、見た目イケてる、それともオタク系?」


「物静かそうでいかにも理数系って感じだけど、オタク系じゃないと思う‥カッコいいと思うけどな」


「ふ〜ん」


「瑠璃子、どう思う?」


「顔見知りになれたんだから、これからどうにでもなるよ。だけど、彼にはうちの学校に彼女がいたっておかしくないってことだよ」


「そりゃ‥そうだけど、これからどうすれば良いのかな?」


「毎回言わせるな、そんなの自分で考えな!」


瑠璃子が声を上げてわたしを突き放した。


どうしようかと考えているうちにあっという間に水曜日が来てしまった。


答えがまとまらないまま、その日の授業が終わってしまった。


仕方なく予備校に通うため最寄りの経堂駅に向かって歩くと、うちの学校の生徒の列が駅に続いていて、駅のホームも生徒で溢れていた。


車内は沿線の高校生で一杯だった。

車窓から見える景色は、ついこの間までピンクの花びらで満開だった桜の木がいつの間にか青々とした緑の葉っぱに変わっていた。


いつものように新宿駅の西口から予備校までの道を歩いた。


予備校に着くとエレベーターに乗って10階で降り、10Aの教室にカードをかざして入った。


彼はどこ?

わたしは彼を探した。


彼はいつもと同じ真ん中より少し前の通路側の席に座っていた。


残念なことにその辺りの席に空きは無かった。


仕方ない‥

わたしは彼の列から5列程後ろの席に座った。


彼はいつもと変わらずテキストを見ながら予習をしていた。


案の定講義が終わると彼は、荷物をまとめてすぐに教室を出て行ってしまった。

わたしは他の受講生に阻まれて大分遅れて教室を後にした。


エレベーターを降りて予備校のビルから外へ出ると、夜の新宿の街は高層ビル群の灯りがとても綺麗だった。


「今日は収穫無しか‥」


仕方なく新宿駅に向かって歩き始めると、誰かに肩を後ろから叩かれ、振り返ると彼が立っていた。


「あっ!」


驚いて思わず声を上げた。


「わたしに何か?」


「この前のお茶のお礼をしてなかったから‥」


「お礼?」


「うん、これ良かったら食べて」


彼はリボンのついた赤い包装紙に包まれた箱を差し出した。


「何これ?」


「何だろう?多分クッキーかな?」


「多分‥?」


「母さんに話したら何かお礼しなくちゃって、母さんが持って行けって、だから中身はわからない。でもクッキーだって言ってたから‥」


「こんなのもらえないよ」


首を横に振って彼の申し出を断った。


「受け取ってよ‥」


彼が少し困った様子で言った。


「本当に良いのかな?」


「もちろん」


仕方なく彼から包装紙に包まれた箱を受け取った。


「それじゃこれで」


そう言うと彼はクルリと向きを変えて歩き始めた。


「ちょっと待って?」


呼び止めると、彼は足を止めて再び振り返った。


「わたし、沢井健美さわい たけみあなたの名前は?」


「仁藤‥仁藤衛にとう まもる


「仁藤君‥仁藤君って学校どこ?」


彼に質問した。


「学校‥?」


彼は少し戸惑った表情を見せた。


「ゴメンね突然変なことに訊いて‥」


訊かなければよかったと後悔した。


「東‥新宿、都立東新宿高校」


彼が小さな声で答えた。


「仁藤君、わざわざありがとう。お母さんにお礼を言っておいて」


彼は頷くと、また向きを変えて反対方向へ歩き出した。


今日は予想外の大収穫だ‥と思った。




翌日の昼休み、いつものように瑠璃子に昨日の報告をした。


「へ〜っ、クッキーと仁藤衛、東新宿高校ね、健美、大収穫だね?」


「うん、わらしべ長者の気分だよ、ペットボトルのお茶が、クッキーと彼の名前と通ってる学校の名前になったんだから」


「東新宿高校ってどんな学校なの?」


瑠璃子が訊いた。

わたしも瑠璃子も高校受験をしていないから、都立高校のことなんてまったくわからなかった。


「調べたら、かなり優秀な学校みたい」


「へ〜っ、彼は頭良いんだ。でもお母さんに言われて持って来たって、マザコンの気があるんじゃない?」


「そうかな?」


「で、中身は何だったの?」


「だから、クッキーだったよ」


「それは聞いたよ、どこの店かってこと?」


「手作りだよ、多分お母さんの」


「手作り?何それ」


瑠璃子が訝しげに言った。


「瑠璃子、今日持って来たんだけど、ちょっと食べてみない?」


「何でわたしが?遠慮しとくよ」


「騙されたと思って食べてみてよ」


わたしは彼からもらったクッキーの箱をカバンから取り出して瑠璃子に見せた。


「信じられないくらい美味しいんだ」


「また、単なる欲目でしょ?」


箱からクッキーを一つ取り出して瑠璃子のてのひらに置いた。


「まったく‥」


瑠璃子は仕方なさそうにクッキーを口に入れた。


「何これ‥」


瑠璃子が驚いた顔をして声を上げた。


「どう?」


「どうって‥メチャクチャ美味しいじゃん!こんなに美味しいクッキーは中々お目にかかれないよ」


「でしょ?」


「彼のお母さんって何者なの?これは素人の手作りお菓子じゃないよ、わたしお菓子好きだから色々と有名なお店の食べてるけど、それと比べてもダントツものすごく美味しいよ!」


「ね、言った通りでしょ?」


「健美、こりゃ当たりだよ、彼を絶対逃しちゃ駄目だよ」


「何それ?」


「こんな美味しいクッキーを作る人の子供に悪い人なんていないよ、健美もう一つ頂戴、お願い!」


瑠璃子が手を合わせて頼み込むので、


「わたしがもらったんだよ、まったく」


渋々箱からクッキーを取り出して瑠璃子にもう一つ手渡した。


「ありがとう健美!大収穫だよこのクッキーの味は!」


瑠璃子はクッキーを口にしながら興奮気味に声を上げた。


わたしはますます彼のことが気になってしまって、勉強どころではなくなってしまった。



次の金曜日、8C教室にカードをかざして入室して彼を見つけると、彼の側に歩を進めた。


「仁藤君、隣の席いいかな?」


彼は頭を上げわたしの方へ視線を向けると、どうぞという仕草をして奥へ通してくれた。


「この前はありがとう、今日の帰りって時間あるかな、ちょっと話しがあるんだけど」


「話し‥?」


「うん‥」


「わかった」


そう言うと、彼はまたテキストに視線を戻した。


講義が終わってわたしは彼と一緒に教室を出て、予備校の一階にあるラウンジの椅子に並んで座った。


「話しって‥」


彼が戸惑った表情を浮かべて言った。


「もらったクッキーってお母さんの手作りなの?」


「そうだよ」


彼は頷いた。


「とっても美味しかった。感動的な美味しさだったよ」


「そう‥」


「これ、お母さんに」


わたしは彼に封筒を一通手渡した。


「これは?」


「お礼の手紙」


そう言うと、彼は封筒を受け取ってカバンにしまった。


「一つ聞いてもいいかな?」


「何?」


「わたしの制服見て桜山女子高だって言ってたけど、うちの学校知ってるの?」


「‥小学生の頃、近くに住んでたんだ。経堂でしょ?」


彼の言葉に、やっぱりそうだったんだと思った。


「その制服を見ると、あの頃のこと思い出すんだ‥良いことも、悪いことも」


「そうなんだ‥」


「話しはもう終わったのかな?」


彼の言葉にわたしは自分を奮い立たせた。


「わたし、この四月からここの予備校に通い始めたんだけど、最初の講義の時から仁藤君のこと気になって‥なんて言うのかな?仁藤君に一目惚れしちゃったんだよね‥」


彼は表情を変えず、わたしから視線を外した。


「‥」


彼は何も答えず黙っていた。


「受験生なのに予備校来て恋愛なんて‥何してるんだって思うよね?でも、わたしは仁藤君が好きで、もっともっと仁藤君のこと知りたくて‥」


彼への想いをハッキリと伝えた。


彼は再びわたしに視線を向けて言った。


「僕なんかのどこか良いの?それに、僕のこと知りたいって?知ってしまったら、多分好きじゃなくなると思うよ」


「どういう意味?」


「そのままだよ、君みたいな人に僕は相応しくないってこと」


「相応しくないって‥遠回しに断ってるってこと?」


「そうじゃない‥気持ちは嬉しいけど」


「けど‥?」


「相応しくないってことだよ」


「どんな人なら相応しいの?」


「どんな人も相応しくないよ」


「好きな人がいるとか?」


彼は他に好きな人がいて遠回しに断っているのかと思って訊いてみた。


「そうじゃないけど‥こんなところで説明なんかできないよ‥」


彼は困った表情をして歯切れが悪そうに答えた。


「じゃあ、どこでなら説明できるの?」


彼の言葉が納得出来ず、わたしは彼に食い下がった。


好きじゃないって言われたなら仕方ない、でも相応しくないって、わたしは相応しいと思ってるのに、そんな理由で諦められなかった。


勇気を振り絞って行動してやっと告白まで結びつけたと言うのに。


「‥明日の土曜日は時間あるかな?」


彼は仕方なさそうに声を出した。


「えっ、明日?午前中は学校があるから午後からなら‥」


「わかった、僕も午前中は学校だから、場所は君の好きなところで良いよ」


「 じゃあ、わたしの学校の前に来てくれる?」


「えっ?桜山女子高にかい?」


「うん、どこでも良いんでしょ?」


「でも‥」


「前に近くに住んでたんでしょ?」


「わかったよ、行くよ」


「何時なら来れるかな?」


「2時なら」


「うん、それで良いよ。待ってるから」


わたしはそう言って彼と別れた。


新宿駅から小田急線の車内で考え込んだ。

勢いであんなふうに言ってしまったけど、良かったのだろうか?


明日、彼はどんな話しをわたしにするつもりなのか‥

気がつくと電車がまもなく経堂駅に着くとのアナウンスが流れた。



翌日の土曜日、瑠璃子に昨日の報告をした。


「うちの学校の近所に住んでいた、告白した、自分には相応しくない、ってことだね」


「どう思う?」


「よく告白したね?」


「このままじゃ勉強も手につかないから‥」


「どうしてそこまで?」


「わからない‥」


「恋は盲目か‥よく言ったものだね、で、どうすんの、今日来るんでしょ?普通うちの学校に呼ぶかね」


「彼はこの辺のこと知ってると思ったから」


「そっか‥まあ悔いなく会ってきな、振られたら慰めてあげるからさ」


「瑠璃子‥」


「感激した?」


「しない!縁起でもないこと言わないでくれるかな‥」



みんなが帰った後わたしは一人教室で彼が来るまでの時間を潰していた。

土曜日の午後の校舎内は閑散として、窓からは部活をする人の声や吹奏楽部の発する音色が聞こえていた。


振られたらって‥

もう振られたようなものじゃない。


約束の2時になるまでの時間がとても長く感じられ、10分前になったので教室を出て校門へ向かった。


彼はまだ来ていなかった。

本当に来るのかな?


彼は来る、少なくとも約束を破るような人ではない、そうでなかったらわたしの方から願い下げだ。


時計が2時を少しまわったけど、彼の姿はなかった。


「沢井さん~」


彼がこっちへ走って来るのが見えた。

来てくれた‥

正直ホッとした。


彼は息を切らせながら、


「遅れてゴメンね、ちょっと寄り道してたから‥」


と言った。


「寄り道?」


「うん、ちょっとね、どこで話を?まさか女子高の中じゃ無いでしょう?」


わたしは彼の質問に、


「ちょっと歩いたところに緑地公園があるんだそこでいいかな?」


と提案した。


彼はわたしの提案にうなずいて歩き出した。


そっか‥

この辺りに住んでいたから土地勘があるんだなよね‥


わたしも彼の後について歩き出した。


緑地公園は学校から5分程度歩いた場所にあり、緑道が整備された綺麗な公園だった。


わたしと彼は公園のベンチに座った。


「何から話したらいいのかな?」


「何からでも構わないよ」


「この公園、住んでた頃に来たことあるんだ」


「家族で?」


「うちがお店をやってたから土日は忙しくて、なかなか時間が無かったけど‥」


「そうなんだ、わたしも家が近くて来たことあるよ、どっかで会ってたかもね?」


「‥」


「ごめんね、話を続けて」


「両親は僕が小学六年生の時に離婚したんだ」


「そうなんだ‥」


「父さんと母さんと二人でお店をやってたんだけど、父さんは不倫してたんだ」


「不倫‥」


「相手は、よくお店に来てた奥さんだったみたい‥その時はよくわからなかった、母さんは細かいことは教えてくれなかったから」


「‥」


わたしは何て答えて良いかわからなかった。


「『パパはもうママのこと好きじゃないんだって』それが小学生の僕に母さんが言った言葉だった、父さんと母さんがどういう話をしたか分からないけど、離婚が決まって僕は母さんに引き取られることになった、お店も閉めて、僕は引っ越しをしてこの街を離れたんだ。父さんとは、それ以来会っていない」


「そうなんだ‥」


わたしはただ相槌を打って聞いているしかなかった。


「あんなに仲の良かった両親が離婚するなんて‥僕には信じられなかった」


「ご両親の離婚がわたしに相応しくない理由なの?」


彼は首を横に振って答えた。


「あれ以来‥僕は人が信じられないんだ」


「どうして?」


「怖いんだ、いつか裏切られてしまうんじゃないかって、その逆も、僕も人を平気で裏切ってしまうんじゃないかって」


「‥」


「数学みたいに不変の答えじゃないから、人の気持ちは変わってしまうんだ、簡単に変わってしまうんだよ」


「そんな‥」


「友達も信じられなくなった、小学校の親友達は同じ中学に行かないことがわかると急に冷たい態度になって僕から離れていった。引越した先の中学では周囲に全く馴染めなかった、上手く人付き合いができなくなってしまったんだ」


「だから相応しくないの?」


「人間嫌いで、人を信じることができない奴と付き合う気になるかい?」


「ならない‥かな」


「普通はそうだよ、だから‥」


「そっか‥わかった」


そう返事をした。

彼の話を納得した訳ではなかったけど、今の彼と付き合っても上手く行く気がしなかった。


「せっかく好意を寄せてくれたのにすまないと思う、でも‥嬉しかったよ君に好きだって言ってもらえて、これ受け取って」


彼は持っていた手提げ袋を差し出した。


「これは?」


「母さんが持って行けって」


「わたしに?わたし振られたんだよね?」


「昨日の手紙のお礼だって」


「お礼?何言ってるの、お礼をしなくちゃいけないのはこっちだよ」


「良いんだ、受け取ってよ、沢井さんありがとう、君は変わらないね、さようなら」


彼はそう言うと、ベンチから立ち上がって、一礼をして公園から出て行った。


一人残されたベンチに座って考えていた。


わたしは振られたんだ‥

なのに何だろうこの違和感は‥


彼の最後の言葉が引っかかった。


『君は変わらない‥』


どういう意味なんだろう?

いくら考えても答えは出なかった。


仕方なくベンチから立ち上がると家に向かって歩き出した。

日差しが気持ちよくて穏やかな晩春の日の午後だった。



家に帰っても言いようのない違和感が頭の中を漂っていた。


自分の部屋で机に向かってボンヤリとしていた。


忘れよう‥

彼とは縁が無かったんだ。

そう思うことにした。


机の上に置いた彼が手渡してくれた手提げ袋を手に取ってみた。


一体何のつもりだろう?

息子に振られた哀れな女の子にお詫びの品とでも言いたいのだろうか?


「やっぱりマザコンだったのかな?」


手提げ袋の中から箱を取り出して開けてみた。


「またクッキー?」


箱の中にはクッキーが綺麗に詰められていた。


「美味しいって書いたお礼の手紙のお礼って、意味がわかんないよ」


クッキーを箱から一つ取り出してマジマジと見ると、わたしが一番大好きなチョコクッキーだった。


個別包装を開けて口に入れた。


「美味しい!!」


チョコとナッツの風味が最高だった。

こんなに美味しいチョコクッキーは今まで食べたことない‥


ない?


いや、このクッキー‥

どこかで‥


わたしはハッとした。


思い出した!

あの時の‥


あの時のまもる君だ。



月曜日が待ち遠しかった。

月曜日、午後の授業を気分が悪いと言って途中で早退した。


どうしても彼に会って確かめなくちゃいけないんだ。


小田急線で新宿へ出ると都営大江戸線に乗り換え、東新宿駅で降りると、スマホを片手に東新宿高校を目指した。


学校はまだ終わっていないと思うけど、彼に会えるのか?

それが心配だった。


高校の正門から少し離れた場所で彼を待つことにした。



子供の頃からうちの近くにある洋菓子のお店が大のお気に入りだった。


住宅街の中にある小さなお店は近所で評判の人気のお店だった。


誕生日、クリスマス、ひな祭り、七五三、入園式、卒園式、入学式、卒業式、ありとあらゆるお祝い事があると、お母さんにそのお店に連れていってとおねだりをした。


そのお店は夫婦二人だけで切り盛りしていて、ご主人がケーキを、奥さんが焼き菓子を作っていた。


ケーキはもちろん美味しかったけど、わたしは奥さんが焼くクッキー、取り分けナッツが入ったチョコクッキーが大好きだった。


そのお店に行く度、チョコクッキーを買ってもらって大事に毎日少しづつ食べていた。


その店の夫婦にはわたしと同い年の男の子がいて、お母さんとお店に行った時、偶然学校から帰って来た男の子に会った。


「おかえりなさい、まもる」


「ただいま」


「お子さんいくつ?」


わたしの母が奥さんに訊いた。


「小学六年生なの」


「そうなの?うちの健美と一緒ね、でも学校違うわよね?」


「そうなの、勉強が好きみたいで私立に行ってるのよね、わたしは公立でもいいと思ったんだけど主人がね」


奥さんはそう言った。


「健美ちゃん、いつもありがとうね」


「うん、ここのチョコクッキーは世界一美味しいよ、わたし毎日食べても飽きないと思う」


「ありがとう、ところで健美ちゃんは今日は何のお祝いなの?」


「うん、わたし勉強頑張って、桜山女子中学に合格したの、今日はそのお祝いなんだ」


「そう、それはおめでとう!良かったわね」


「うん、ありがとう」


「まもる!まもるも健美ちゃんにご挨拶して、桜山女子中学受かったんだって」


「‥おめでとう」


「健美ちゃんごめんね、この子無愛想で‥」


「ううん、ありがとう、まもる君がうらやましいな」


「うらやましい?どこが健美ちゃん?」


奥さんがわたしに訊いた。


「だって毎日こんな美味しいクッキーが食べられるんだよ、うらやましいなって」


「そう、でもこの子わたしの作ったお菓子あまり食べないのよね」


「え〜っ、もったいないな」


「この子、算数しか興味なくて無愛想で将来が心配なのよね、クッキーなら毎日作ってあげるから、まもるのお嫁さんなんてどう?」


多分奥さんは冗談で言ったんだと思うけど、わたしは真面目に答えた。


「いいよ、わたしはまもる君さえ良かったらね」


「あら、そうなの?まもる良かったね!お嫁さん見つかったよ」


その時、まもる君は顔を真っ赤にして下を向いていた。



それからしばらくして、お店は突然閉店してしまった。

桜山女子中学入学式当日の我が家のお祝いは別なお店のケーキだった。


わたしはあのチョコクッキーが食べられないと思うと残念で仕方がなかった。


確かそのお店の名前はKATAGIRIだった。


片桐衛君‥それが仁藤衛君なんだ。


鐘の音が鳴り響いてしばらく経つと、校門から生徒が下校し始めた。


更に一時いっときすると、見覚えのある顔が校門から出て来るのが見えた。


彼、仁藤君は一人で校門から出てきた。


彼がこっちに向かって歩いて来るのを確認して電柱の陰に隠れて待っていた。


彼がわたしの横を通り過ぎると、思い切って声を掛けた。


「仁藤君!」


歩いていた彼は不意に名前を呼ばれ、振り返った。


「沢井さん‥」


彼は驚きを隠せない表情をしていた。


「どうしたの‥」


「どうしても伝えないといけないことがあって‥」


「伝えないといけないこと?」


「うん、水曜日の予備校まで待っていられなかったから来ちゃった」


下校途中の他の生徒達がわたし達を横目で見ながら通り過ぎていく中、わたしと彼はしばらく見つめ合ったままでいた。


その様子を見ていた生徒の男子グループの一人から、彼は声を掛けられた。


「仁藤!学校の前で待ち合わせなんて隅に置けないな、お前みたいな奴に彼女なんかいたのかよ?」


クラスメイトらしい彼をバカにしたような言い方にわたしは腹が立った。


彼は目を伏せながら、


「友達だよ‥」


と言った。


「友達?お前に友達なんかいるんだ?」


「予備校の友達だよ‥」


彼は小さな声を絞り出して言った。


「わたし、友達なんかじゃないよ」


わたしは仁藤君に答えた。


「プッ、ハハハ、仁藤、聞いたか?友達じゃないってさ、お前みたいな変わり者に彼女どころか友達すらできる筈がないよ、ましてこんな可愛い子がお前なんか相手にする筈ないだろう!」


クラスメイトの言葉に仁藤君は拳を震わせ、黙って耐えていた。


わたしは猛烈に腹が立って思わず叫んでいた。


「あなたが仁藤君の何を知ってるって言うの?彼はあなたが思ってるような変わり者なんかじゃないからね、口数は少ないけど、とっても優しくて思いやりのある素敵な人なんだから!彼女のわたしが言うんだから間違いないよね!人を小バカにして悪口言うなんて、どんなに勉強が出来たって最低だね、あなたは絶対に女の子にモテないよ!」


わたしの剣幕と彼女という言葉に驚いたのか、そのクラスメイトはバツが悪そうにしていた。


「仁藤君、行こう」


そう言って彼の手を引っ張って歩き出した。


「沢井さん‥どこへ」


わたしは振り返って彼の顔を見てウインクをした。


彼の手を握ったまま離さなかった。

そして、どこだかわからなかったけど公園を見つけるとベンチに彼と座った。


「ごめんね、なんか迷惑かけちゃったみたいだね?」


彼に頭を下げて謝った。


「いや、そんなことないよ、さっきはありがとう」


「お礼なんて、本当に頭にきて、つい言葉が出ちゃった‥」


「沢井さんておしとやかなイメージだけど、意外とおてんばなんだね?」


「おてんば?仁藤君、言葉古いよ」


彼と顔を見合わせてお互いクスクスと笑ってしまった。


「仁藤君、わたし変わってないでしょ?あの頃から」


彼が顔を強張らせた。


「思い出したんだ、もらったチョコクッキー食べたら‥忘れる筈ないよ、わたしの世界で一番のお気に入り」


「沢井さん‥」


「そうだよね?‥片桐衛君」


「そっか、覚えてたんだ‥」


「わたしのこと、いつから気づいてたの?」


「随分前からだよ、予備校で君を見て、最初は制服が桜山女子だったから懐かしいなって、顔を見たら、ああ、お店に来ていた健美ちゃんだって‥」


「そうだったんだ‥」


「でも、声を掛けても覚えている筈ないって思った。人は変わっていくものだからね、だから君の方から話しかけてくるなんて夢にも思わなかった。名前を聞かれた時、気づかれないかなって思ったけどね‥好きだって言われて、本当に驚いたけど、正直すごく嬉しかった」


「でも、受け入れてくれなかったよね?」


「さっきの見ただろう?僕は話した通り友達すらできやしないんだ。君みたいな素敵な人に僕は相応しくないよ」


「そんなことないよ、さっき言ったこと本当だからね、仁藤君は優しくて思いやりに溢れた素敵な人だよ」


「沢井さん‥」


「チョコクッキーどうしてくれたの?」


「人は好みだって変わっていく、けど君は最初にあげたクッキーをとても美味しいって喜んでくれた。お礼の手紙を母さんもすごく喜んでた。あの健美ちゃんが立派になってって‥僕を好きだって言ってくれたお礼かな、君と会って話しをするのはもう最後だと思ったから母さんに言って特別に作ってもらったんだ」


「お母さんはお元気なの?」


「うん、店を閉めてから、知り合いの人のお店で働かせてもらっているんだ、いつかまた店を出したいって言ってるけど‥」


「そう‥」


「母さんは離婚して僕が私立の学校を辞めなければならなくなったことを今でも悪いと思ってるみたいなんだ、あの頃のお菓子は今はまったく作ってないんだ、多分、あの頃のことは思い出したくないんだろうな‥」


「それなのにわざわざ‥」


「母さんから健美ちゃんによろしくって言われたんだよ、君のことは特別思い入れがあるみたい‥」


「ねえ、覚えてる?わたしと仁藤君が最初に会った時のこと?」


「うん、覚えてるよ」


「わたし、仁藤君のお母さんからまもる君のお嫁さんにって言われたよね?」


「そうだったね」


「あの時わたし、クッキーが毎日食べられるからお嫁さんになっても良いって言ったんじゃないからね」


「えっ?」


「あの時、まもる君を見て素直に素敵だなって思ったんだ。周りの同級生に比べて大人びていて、いつかこんな人と付き合えたらって、でも、女子校だったから出会いなんてまったくなくて‥予備校通い出したら素敵な人を見つけてすぐに好きになっちゃった。まさかあの時のまもる君だとは思わなかったけどね」


「そうだろうね‥」


「仁藤君は人の心は数学みたいに不変じゃないって言うけど、でもね、わたしは思うんだ、変わらないものもあるし、変わらなきゃいけないものもあるってね、いつまでも子供のままではいられないし、大人になるってそういうことだってね」


「それは僕もわかってはいるんだ‥」


「わたしもあの頃から変わった、せっかく入った付属なのに女子大には行かないって決めた。好きな教科もいつの間にか理数系になってた。でも、変わってないところもあるんだなって、大好きなチョコクッキーと好きな男の子は変わってないな〜って」


「沢井さん‥」


「わたしはどうしても仁藤君と付き合いたい、変わらない自分を信じてるから、そして仁藤君はそんなわたしに、とっても相応しいって思うから‥わたしも、少し人付き合いが下手な仁藤君にピッタリの彼女だって思うから、少し自意識過剰かな?もし、わたしのこと嫌いじゃなかったらこれから一緒に‥」


何故だか言葉が出でこなくなった。

ちゃんと最後まで想いを伝えようと思って来たのに、何でこんな時に涙なんか出てくるんだ‥


「ありがとう沢井さん。僕も沢井さんのことが大好きです。僕なんかで良かったらこれからもよろしくお願いします」


そう言って仁藤君が右手を差し出した。


わたしも右手を差し出して、


「仁藤君、ありがとう。わたしの方こそよろしく‥」


わたしは涙声で応えた。

溢れてくる涙を拭って見た彼の笑顔は予備校で最初に見た時のように輝いていた。


 ー終わりー

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