第7話恐怖の男?

石川名足(いしかわなたり)という人物である。

曽我氏系列の名門出身。

最終的には、従三位まで出世した。

延暦7年(788年)に死去。

続日本紀に人物評が書かれている。

名足は、記憶力が抜群で弁舌が優れていた。

物事の判断力、頭の回転が速い切れ者。


ところが、性格が実に悪いとされている。

始終、他人の過ちをあげつらい責め立てる。

弁官局という要職(事務方のトップ)に所属し、太政官への決裁書類のチェックをする仕事だった。

官人たちが業務報告をする際に、少しの欠点でも口を極めて、徹底的に罵倒した。

あちこちの役所で、弁官局に書類を提出する際、名足が担当者と聞くと、震えあがったとか、なんとか避けようとしたとか。

あらゆる役所は、弁官局に書類を携え、行列を作っていた。

その際に、名足の顔が見えたら絶望的な気分になったらしい。

徹底的に書類をチェックされ、厳しく確認され、さんざん罵倒され、すごすご自らの役所に戻り、上司の冷たい目にさらされ、書類を再作成しなければならない。


続日本紀のなかで、これほど文句を書かれる官人も少ないけれど、名足は名足なりに、職務を真面目にこなしたのだと思う。

そういういい加減なことをしない、させない官人がいたから、平城京の時代の乱れが、ある程度は収まったのかもしれない。


そういう「うるさい名足」に、文句を言われない書類をつくった官人は、どれほどうれしかっただろうか。


平城京に暮らす(天平びとの泣き笑い)馬場基著よりの私見

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