第26話「潜入!侵入!Brand New!」

 その日の深夜1時、気づけば僕はバルナレア大使館のすぐ近くまで来ていた。

 逃走手段として車が不可欠だったので、畑からクルーズコントロール機能のついてる車を借りてきて、その車でそこまでやってきた。

 クルーズコントロールとは高速道路で自動運転ができるというシステムである。クルーズ機能がある車ならば自動車を完全にコンピューター制御できるので、コンピューターにソラ自身を直結させてしまえば、ソラによる運転が可能になるということだった。実際に大使館までは、ソラの運転でやってきた、僕も免許は持っているけど正直運転に自信がないです。

 

 さて大使館といえば何となく洋館を思い浮かべるが、この大使館は近代的なビルで、すこしスタイリッシュに5階あたりから上がせり出すようなかたちをしている。つまり、4階までの面積より五階からの面積の方が広いのだ。不安な形状だなあ。

 (全く関係ないけどファミコン版のドラクエ3の主人公の家って2階の広さが1階の5倍くらいあった気がするけどいったいどういう構造だったんだろう。ぜひ外観を見たかったものだ。)

 近隣のビルに同化しながらも、その特殊な形状と黒塗りの外観で、10階建ての建物はそれがただのビルじゃないという存在感を示していた。

 確かバルナレアは小国のはずだが、よくこんな立派な建物を建てられたなと思う。

 

 周囲が塀に囲まれてないということで圧迫感こそないが、入り口には2人警備員が配置されていて、さらに露骨に監視カメラが多数設置されてるのが見受けられる。ふつうに考えて潜入するとかは難しそうだ。


 警戒のため、僕らは今200m以上離れた地点から、ソラが持ってる高倍率カメラによって状況を確認している。ちなみにソラは今、いつものケータイモードではなく、先日マキナに頼んで作ってもらったディアゴスティーニを基にするロボット状態で僕の隣にいる。そのロボの目から映る景色を僕は自分のケータイを通してみている。

「さてまずは、姫がいるかどうかを確認しなきゃいけない。」

ソラは行動を確認するかのようにそうつぶやいた。


「大使館の中のコンピューターをハッキングするんだな?」

ソラなら楽勝だろう。


「それができるなら現地に来ないさ。見事に大使館のセキュリティは、ネットワークから独立している。大使館内でのネットワークは構築されているが、外とはつながっていないようだ。こうなると、一度大使館内に直接侵入してそのネットワークに入り込むしかない。」

 …いくらソラでもつながってないものに入り込むのは厳しいか。しかしこんないかにも警備が厳重そうなビルに侵入するって、ずいぶん難易度高いのな。


「警備員とかぱっと見るだけでも3人以上いるけど、その目をかいくぐって潜入する技術は僕にはないよ。」

 スネークじゃないんだからさ。そういえば、メタルギアシリーズは全部やってるので、普通の人よりは得意かもしれないけど……関係ないね。


「スニーキングミッションはないから安心してくれ、太陽に任せたいのは、物理的に姫を奪って逃走するという仕事だ。そればかりは身体のない俺じゃどうしようもない。姫の居場所を特定して、そこまでの侵入経路を確保する作業は任せてくれ。」

 というと、車の後ろに積んでおいてあったドローンが起動した。

 このドローンは、またもマキナが用意して魔改造したものらしい、大きさは30㎝×30㎝で割と大型だが何とロボ状態のソラが上に乗れるくらいのパワーを持っている。

 さらに、カメラ機能はもちろんのこと、エアーライフル用のペレット、超強力の麻酔銃の発射も可能である。ただし機能をつけすぎたせいで、行動可能時間は15分になってしまったらしく、使いどころが難しい。もっとも、操作するのはソラ自身なので、その場でコンセント見つけて充電すればいいだけだ。


「とりあえず、ドローンモードで、大使館の侵入場所を探してくる。」

 そういってソラドローンは、警備員の目に入らないように大使館の屋上の方へと飛び立っていった。僕もその間ドローンのカメラを通してケータイで状況をチェックする。さすがに金がかかってるだけあって、いいカメラを使ってるのか、画像が鮮明にくっきりとしている。


 このビルは遠くからでもわかったが、極端に窓が少ない。1階あたり6個くらいの窓があるだけで、それも採光とか換気用のためだろう。何というか外観も黒塗りだし、まるでやくざの事務所とか、悪の組織の秘密基地みたいな印象を受けた。これはなかなか、入るのは苦労しそうだ。

 もちろん堅固な外観から想像できるように、セキュリティは厳しく、開いてる窓など一つもない。と思ってたが、最上階のトイレかなんかの換気用の窓が半分だけあいてるのが見えた。半分あいてるといっても換気用の窓のいわゆる滑り出しタイプというやつで、完全に開くタイプの窓ではない、45度くらいまでしか開かないやつである。

 

「よし、あそこから入ろう。」

 ソラはそういったが、ソラドローンの大きさがとても入るような窓ではない。

 と思っていると、ソラドローンから手のようなものがせり出して、小さなボールのような物体をその窓の隙間に投げ込んだ。


 ケータイ越しにソラが説明してくれた。

「ボール型自走パソコンってとこだね。テニスボール位のサイズで、本来は外部から操作してボールが転がるだけのものだが、その中に通信機能や簡単なコンピューターを仕込んでみた。ドローンと違って一時間は電池が持つし、ショック等にも強い。もっとも構造上カメラはついてないが、音声は拾えるので内部を調べるには十分だ。たとえ誰かに見つかってもぱっと見はただのテニスボールだからな。」

 これもたぶん設計してマキナに作ってもらったんだろうけど、なんだかとんでもないアイテムがどんどん出てくるな。これを作るくらいなら、超小型のドローン作ればいいと思うのだが。

 というかあのビルの中でテニスボールが転がっててもそれはそれで怪しいと思うけどね。


「というわけでこのボール型でしばらく、内部を探ってみる。姫の居場所もそうだが、まずはビルの管理室だな。そこにアクセスできれば、ビル内のカメラや電源装置すべてにアクセスできるはずだ。そうすれば、姫を安全に連れ出すのも難しくない。太陽は少し車の中で待っててくれ。」

 そういうと、空を飛んでいたドローンは僕の方に戻ってきて、一人でにって言ってもソラの意思ではあるが、車に設置していた電源装置に接続して充電を始めた。

 カメラ映像もないので僕はボール状態のソラが探索を終えるのをしばらく待つことにした。


 その間周囲を観察してみたが、都内なのに以外に車通りは少なく、まあ、もっとも今の時間が深夜一時なので、当然と言えば当然だが、このくらいなら大使館にイエンカが連れ込まれても分からないかもしれなかった。ましてや、大使館の車で大使館に入っていったならば、全く警戒されないだろう。


 大使館の駐車場は地下にあり、入り口は地上から下っていったところにある。ゲートではなくシャッターが閉まっているので、ここをぶち破って潜入するというわけにはいかなそうだ。


 さて、脱出するとき車を使うのだと思うのだがどこに配置する気なんだろう。いま車は300メートル位離れた地点の駐車場に止めてある。さすがに、路駐だと目につくからだ。

 しかしいくらなんでも、遠すぎないだろうか。あのビルからこの車まで全力で走っても四十秒以上かかると思うけど、その間に捕まらないかな。

 そのへんはソラはなにも言ってなかったけど。


10分ほど過ぎたくらいで、ソラから通信が入った。

「ビル管理室を見つけた、最上階だ。すでに管理下においてある。そして姫の存在も確認できた。五階にあるVIP用の客室に監禁されているようだな。中にいるスタッフ同士の会話でわかった。あいつら完全に油断してて、なんでも話してたぜ。太陽は、今から指示に従って動いてくれ。」

 はやいっ、さすがソラさんです。


「まずケータイが邪魔になるから、ダッシュボードに入ってるワイヤレスヘッドセットをしてくれ。それはちゃんとヘッドセットをしてても外の音もきこえるやつな。」 

 早速、ダッシュボードを探ると真黒なヘッドホンがあった。ヘッドセットといってたがマイクは見当たらない。


「マイクは内蔵されてるから心配するな。こちらの合図で、あのビルの照明をすべて落とす、太陽はそこのスターライトスコープを使って侵入してくれ。俺は監視カメラで警備員とか内部の人間の位置を把握して、絶対に見つからないルートを探すから、それに従って行動してほしい。」

 スターライトスコープってあの軍用のやつだよな、星の光程度の明かりを増幅させて暗闇でも周囲を見ることができるスコープだ。

 どこで手に入れたんだよと思ったけどそういやトイザらスでも扱ってたな。でもこれはそういう遊びのやつじゃなくてだいぶガチな奴っぽいな。強力なフラッシュとかあっても大丈夫な奴だ。


「途中までは見つからずに行けるかもしれないけどさ、姫のいる部屋の前には警備員いるんじゃないか?それはどうするつもりだよ。」


「君は確かキックボクシングやってて強い設定なんだろ、なんとかしてくれよ。」

おいおい古い話を持ち出してきやがったな。やめろ、それはもう僕の中で黒歴史みたいなセリフだ。


「そ、そりゃ僕は強い設定だけどさ。相手は銃とか持ってるんだぞ。」

「心配しなくても銃は持っていないようだ。それに、太陽に倒せっていうのは冗談だよ。それに関してもなんとかするから心配するな。」

 そういや、麻酔銃とか持ってるんだったよな確か。じゃあその辺は心配ないのか。

 いや、まてよ。

「そもそもどうやって潜入するんだよ。さすがに正面からは無理だろ。照明落としてようが何だろうが、警備員から丸見えだし、鍵かかってるだろうし。」

 ビルの周りは多くはないが街灯があって光に照らされてる。さすがにソラも街灯まではいじれまい。ましてや今日は満月でそこそこ外が明るい。


「幸い屋上にドアがあって、しかもそこが電子制御だ。」

 なるほど屋上って手があったか!

「って、どうやって屋上まで登るんだよ!?」

 まさか、ドローンで俺を運ぶわけにもいくまい。

 と思ってると、充電中のドローンが動き出した。


「こんなこともあろうかとラベリング用のロープを用意してある。ドローンでリード用のストリングを屋上まで運びそれを屋上にフックしてロープを吊るそうじゃないか。」


 ……えっ、なになに僕ロープを使って屋上まで登るわけ?

 というわけで大使館潜入はSASUKEもびっくりの20mの綱のぼりをしなければいけないようだった。



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