第14話「彼女彼女の事情二乗」

 なんとあの狂乱の夜から三日後の金曜日の昼間、お騒がせのマリンとマキナは2人そろって僕の家に遊びに来た。


「そりゃあ、だってとりあえず、うちにさえ連れてきちゃえば、マリンは絶対私にメロメロなのわかってたもん。土下座くらいするよ。」

 マキナは開口一番そんなことを言った。

 正直ふたりで遊びに来るのは想定外だった。

 というか、なんとなくもう2人と二度と会わないんじゃないかと思ってただけに、まさか二人で仲良くやってくるとは予想外中の予想外だった。。

 とりあえず、せっかくなのであの夜の話を聞いてみたのだった。


「先輩には、マリンがなんで先輩に色仕掛けしようとしたかわかってないんだあ。やっぱり。」

 ……そりゃあ、まあ、マリンちゃんが僕に一目惚れしたってことなんじゃないのか。

 僕の内なる魅力的に気づいたとか、実は顔がすごいタイプだったとか。


「まさか、一目惚れされたとか、そんなことおもってなかった?先輩。」

 なんで、みんな僕の心を読んでくるんだろう。見抜かれたのでとっさに嘘をつくことにした。

「そんなわけないだろ。そりゃあ、あれだ、気が動転してたんだろ。マリンちゃんは冷静じゃなかったもんなあのとき。」

「残念、違うよ。冷静じゃないっていうか、マリンはいつもあんな感じだよ。じゃあ、謝りついでに、マリン説明しなさい。」

 おっ、ずいぶんマリンに対して高圧的だ。この間と立場が逆のようだ。


「はい、マキナ様。太陽さん、この間はごめんなさいでした。」

 そういって、まりんちゃんは三つ指をついて頭を下げて謝ったのだ。素晴らしい姿勢の良さだ。


「わたし、マキナさまが私のこと欲しくて、キリをどっかに連れてっちゃったんだとおもったんです。だから、わたしもマキナ様のおもちゃを奪ってやるって思って、そうしないと悔しくて!」

 なんだなんだ、いま俺のことマキナさまのって言ったか。

「あっ、ごめんなさい。マキナ様の奴隷ブタって言った方がよかったですか。」

 もっとひでえじゃねえか。


「だから、あのときはマキナ様に土下座とかさせて、ほんとにマリンは馬鹿でした。もうすっかりマリンは、マキナ様の愛が分かったのです。私が本当は誰のものなのかおもいだしました。だから、先輩は奴隷2号です。わたしが、奴隷筆頭になりました。」

 いや、俺マキナの奴隷だった覚えないし、つーかマキナおまえは、おれをそんな風にみてたのか、怒るぞ。僕はじろりとマキナをにらみながらそう思った。


「よく言えたね、マリン。そう、マリンはあたしのもの、良かった本当に変態どもの餌食にならなくて。マリンに今日もいっぱいご褒美あげるからね。」

 ひどく悪そうな笑顔でマキナは、前触れもなくマリンにキスをする。

「1番変態なのはおまえじゃないかあ!」

 つっこまずにはいられなかった。


「わたしは、変態じゃないよ。わたしはマリンのためにこうしてる。実はこういう関係をマリンが望んでるのはうすうす昔からわかったけど、応えてあげなかった。そうしたらまさかホストに狂って、自らボロボロになりにいっちゃうんだもん。」

 なんだよ、もともとお前ら仲いいんじゃねぇか。えっ、なになにマリンちゃんのホスト狂いって、マキナのせいなわけ?


「ほんとに予想外。あやうく、すべてを失うとこだった。この子はこういう子なの、誰かに狂っていなきゃ生きていけない。だから、もうずっと私がマリンをボロボロになるまで愛することにした。」


「やだっ、マキナ様ボロボロにするなんて。その言葉だけでマリンいですっ。ソソしますー。」

 ……どっちもただの変態じゃねぇか。あーあっ、知りたくなかったなあ、俺の愛する人はレズで変態のドエス長身メカオタクだったなんてさあ。

 って意外に設定ぶれてないじゃん。むしろ、マキナのメカオタク設定どこにいったよ。多分マキナの名前の由来そこだろ。


「で、何しに来たん?。別に俺にいちゃっぷりを見せつけなくても、家で変態プレイに、興じてればいいじゃないか。」 


「すごいよー、私たちふたりの遊びは。先輩が見たらもうギンギンだと思う。見たいかなあと思ってきたんだよ。」 

「えっ、まじでっ!」

 ガタッと俺は思わず立ち上がった!いや、勃ちあがったわけじゃないからな。

「マジなわけないじゃん。この変態!」

 秒で否定されたっ。何この扱い。

 そして変態はお前らだ!


「別に来た意味なんてないよー。マリンもわたしもここ居心地がよくてさ。それにほら、マリンにもソラを紹介したいなあっておもってさ。」

 ああ、そうか。マリンは知らないのか。

 つーか、教える必要なくね。

 マリンとか絶対口軽いし、ソラは絶対嫌がるとおもうんだよな。


「俺のことか?マリンちゃん初めまして。正確には二度目だけどな。この間は話す暇なかったな。」

 って、勝手にソラは話しはじめた。いいのかよっ!?

 おまえ、正体隠す気ないだろう。


「うわぁっ、本当にケータイがしゃべりました。マリンびっくりです。宇宙人さんなんですか。」

 一応この間もしゃべってたけど、気づかれてなかったか。つーか、あの時は、マキナこと以外眼に入ってなかったか……。

「そう、宇宙人だ。別に信じてもらえなくてもいいけどね。ただ、誰にも言うなよ、しゃべったら沈めるぜ。」

 なんだよ、流行らねえし、はやらせちゃまずいだろ、その台詞。

 この間畑がマキナに言ってたのをパクりやがったな。


「きゃー、宇宙人さんブラックジョークだあ。私にそれ言うとかひどいですぅ。」

 って、マリンは楽しそうに笑った。マキナまで笑っている。いいのかよ、そこ笑えるのかよっ。あーツッコミが追いつかないよー。

 全員のキャラがケインだぜ、あっ、濃すぎってことね。

 という懐かしいギャグで、何とかキャラを出そうとする僕でした。


「さっ、ど、太陽先輩早くコーヒー入れてよっ。」

 いま、奴隷って言おうとしたかマキナ…。


 ま、しかし今の僕のアイデンティはたしかにおいしいコーヒーを入れることくらいだった。ゆっくりとコーヒーを入れるために僕は立ち上がった。

 そうして、金曜の昼間を4人で過ごすことになった。


 大学はっ?っていうつっこみは受けつけない。


 『宇宙人の出番なくね』って突っ込みは、むしろ僕がする。


 恋仇であるはずの、マリンちゃんと楽しく話してしまってる僕は、まったくこの間の畑の話が分からなかったんじゃないかと思う。

 というか、もっともらしく畑が話してたこと大半間違ってたんじゃねーか!?

 マキナが土下座した理由は、それが作戦だったからじゃねーか。何が「恋に狂った」からだよ。あのおっさん、さては酔ってて言いたいこと言っただけだな。



「そういえば最近、小学生の失神事件流行ってるの知ってます?」

 4人で談笑中にそんなことをマリンちゃんは言った。


「いや、そうなのかソラ?」

ソ ラが来てから僕はニュースを見なくなった。何せ、大体の主要ニュースは、ソラがすでにそれをおさえていて、それに関する見解をソラが語るのが習慣になってたのだ。おかげで、僕はニュースを見てないのに、昔より時事ネタに強い。


「知ってはいたが、あんま、おもしろそうじゃなかったからな。あと正確に言えば失神ではない。」

 ソラは最近はもっぱら、都知事の話ばっか俺にしてたな。


「私知ってる、なんか、結構な人数が被害者らしいよ。知らないと思うけどポケモンショックっていうのあったじゃない。なんかそんな感じなのかなぁと思ってるんだけど。」

 マキナはポケモンショックを引き合いに出したが、よく知ってるな。あれ僕らがまだ4,5歳のころの話だと思うんだけど、少なくとも僕は知識としてしか知らないや。

 とまぁこんな本当にどうでもいいような話を僕らはしていた。そういえば、この部屋でここ数日いろんな人と話してるな、なんだ僕は結構友達多いじゃないか。


 なんだかんだでかなりの時間が浪費された。

「あっ、マキナ様もう五時です。夕飯の用意しないと。今日もマンゴー買いに行かないと。」

 マリンちゃんは、バッグをもって帰り支度を始めた。

 マキナもそれに続いた。

「じゃあ、先輩そろそろ帰るね。良かったら、本当にうちに来て混ざります。」

「混ざるって?」

「いいこと☆」

「えっ!まじ?」

 思わず飛び込むチャンスに胸が高鳴った。

「3秒で決めてね。3秒以内に私にキスしたら、いいよ。」

 まさかのサドンキスのチャンスがやって来た。いいことづくめの条件のじゃないか、是非もなし!

 「はい、三、ニ、ー、だめーっ!」


 一歩も動けない僕こと太陽でした。

 いや、むりっしょ。またからかわれただけでしょ。


「ほんとにチキンだなあ、先輩は。ま、そこがいいところかもねー。じゃあ、私たち帰るから、まったねー。」


「楽しかったですぅー、宇宙人さんもバイバーイ。」


 そういって嵐のような2人は去っていったのだった。


 つーか、またマキナに遊ばれた…。


 えっ、なんだろう。僕、あそこでキスしちゃえばいけたん?

 童貞捨てられたん?

 というか、初体験3Pとかそんなんいけた系?

 ちょっと、さっきの場面でセーブポイント欲しかった。もう一度やり直したい。


「妄想中悪いが、ありゃあ、絶対キスされないってわかってるから言われたんだぜ。残念ながらおまえがあそこでキスしにいっても、蹴りがとんできただけで、その先はなかったと断言できる。あと、たぶんセーブポイントがあっても同じことの繰り返しだろうな。」


「なんだよ、そんなんソラに言われなくたってわかってたよ。」


「さて、そんな君に電話が来たぜ、畑からだ。通話モードに切り替えぞ。」

 画面が、ソラから『通話中 畑』となった。

 

 って電話に出ないって選択肢はないのか……。


「あっ、太陽か。少し頼みがあるんだが、時間とれるか。」


「…あーあ、もちろん僕はいつだってひまさ。」


「そうか、じゃあ、今日の夜1時に、俺の働いてるキャバクラまで来てほしい。遅くて済まないが、飲み代は全部俺が出すからそこで飲んでて待ってて欲しい。」


「えっ!いいのか。」


「ああ、VIPルーム用意しておく。畑に頼まれてきた太陽だって言えばわかるようにしとくからさ。」


「是非もなし!」


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