第2話アキ姫

そこで、ヒデが鼻でにおいをかぐ。

皆もにおいをかぐ。


(カズ)「いい匂いだ」

(アキ)「ほんとにいい香り。体が深く沈んで行きそう」

(ヒデ)「重たーい。体がなまりのように重たくなってきた。

海の底に沈んでいくみたいに気持ち良い・・・・・」


マッサージで両肩を叩くような心地よい音が続く。

音が次第に大きくなる。

ヒューと穴倉に吸い込まれる音。

ドサッ、ドサッと四人が底に落ちる音。


(カズ)「(エコー)いてーっ!」

(アキ)「 (エコー)いたーい!」

(ヒデ)「(エコー)おーいてて、洞窟のような穴倉のような?」


(トラ)「シー。人の声が聞こえる。静かにして」

(ヒデ)「ほんとかよ?」

(トラ)「シーッ!」


ゆっくりと歩む音。水の雫が落ちる音。

小声が聞こえてくる。少しずつ大きくなる。

遠くの声で、


(仙人)「なりませぬ、なりませぬ。

わがままを言ってはなりませぬぞ、アキ姫」


近くの声で、

(アキ)「あき姫て私にそっくり」

(トラ)「シーッ!」


遠くの声で、

(仙人)「五百年に一度のこの機会を逃すと、次は

二千五年まで、この四人は地上をさ迷うことになりますぞ」


(アキ)「それでも姫はもう一度あのお方にお会いしたいのじゃ」

(仙人)「だだをこねてはなりませぬ!」

(アキ)「どうしても会いたいのじゃー(泣く)」

(仙人)「五百年でござりまするぞ。姫には耐えられませぬ!」

(アキ)「絶対に耐えて見せますー(泣く)」


近くの声に変わる。


(仙人)「しょうがないのう。それほどまでに言われるならば、

・・・ならば若武者三人を付けまするゆえ。和之進!」

(カズ)「ははっ!」

(仙人)「秀次郎!」

(ヒデ)「ははっ!」

(仙人)「虎之助!」

(トラ)「ははっ!」

(仙人)「五百年間、アキ姫を守り続けるのじゃぞ」

(三人)「ははっ、かしこまって候!」


(仙人)「では、この四名に、天界のコンピューターに

地上の歴史をインプットする仕事を仰せ付ける。

その間に、姫の一目ぼれした若者を探し出せればよし。

探せなくとも、2005年のこの日この場所より、

天空へ飛び立つ。よいな!」


(三人)「ははっ!」


声が遠のいていく。

(仙人)「これに間に合わなければ、四人とも永遠に地上を

さ迷うことになる。よいな!絶対に遅れることなかれ!」


(四人)「ははっ、かしこまって候!」


遠くで大きな電源スイッチの入る音。

大画面が起動する音。

すぐ近くの声で、


(ヒデ)「すげえ!大画面!」

(カズ)「シーッ」


遠くの声。

(仙人)「それでは、天界の第一指令。川中島の戦い!」


大画面の音高まる。声近づいて、

(仙人)「よいか、この大画面をよく見るのじゃ。

現場に落とされたらもう仕舞いじゃ。徹底的に

情況を頭に入れとくこと。よいな!」


(四人)「ははっ、かしこまって候」

(仙人)「ここの城が武田軍。その数2万数千。その半分が

今動き出す。こちらの山に上杉軍。その数2万。濃霧の中を


息を殺して全軍山を下り川を渡る。武田本隊も城を出て川を渡り

平原に陣を張る。1万2千の別働隊は山の裏手に進軍する。山の

上杉軍を追い出そうという戦法だが、上杉軍はもう山を下りている。


濃い霧の中、両軍間近で合間見えることになる。そこでじゃ。

四人は武田軍の本陣、旗本にのり移る。別働隊の合流を見るや、

謙信は自らの旗本数騎とともに、武田の本陣を中央突破してくる。


謙信が馬上より信玄に打ちかかる名場面。この場に姫の慕う若者が

おるやも知れぬ。しかと確認されたし」


(四人)「ははっ、かしこまって候」


小型宇宙船の来る音。ピポパピポパピポパ。

空中で停止、ホーバリングの音。


(仙人)「これぞ特製超小型時空宇宙船。スペシャルスペースサテライト。

略称3Sじゃ。近くまでわしが送っていく。さあ乗り込むぞ」


ホーバリングの音が続いている。

3Sの乗り口が開く音。

ステップがセットされる音。


(仙人)「さあ、このステップを登って」


ステップを登る音。

(アキ)「いつのまにか鎧を着てる」

(カズ)「ほんとだ」

(ヒデ)「やっぱりUFOだ」

(トラ)「あの香りは、マリファナ?」


(仙人)「何をしゃべっておる。早くベルトを締めよ。

その若者が見つかったら、姫、オーイクモ!と叫んで

下され。その場にこの船が現れ申す。おっとその前に、


大事なことを言い忘れておった。この四人は、意識と

生命は共有しておるが、体は別々である。一人が死ぬと、

この洞窟基地へと全員瞬間移動し振り出しに戻る。

軽はずみな行動は厳に慎むように。よいな!」


(四人)「ははっ、かしこまって候」


3S発進の音。

音、遠のいていく。


ほら貝の音と馬のいななきが遠くに聞こえる。

群馬疾走の音、近づき遠ざかる。


近くの声。

(勘助)「おやかた様」

(信玄)「ふむ、車がかりの戦法か?」

(勘助)「勘助一生の不覚。裏をかかれました」


群馬疾走ひづめの音、近づく。

遠くで絶叫が聞こえる。


(トラ)「きたぞーっ!」

(謙信)「それ!一気に突き崩せ!」

(ヒデ)「撃てーっ!」


一斉射撃の音。

うまのいななき。絶叫。


(謙信)「ひるむな!突っ込め!」


絶叫。剣槍のかみ合う音。

矢の放たれる音。

馬のいななき。阿鼻叫喚。

ドバッと切られる音。

ブスッと刺される音。

断末魔の叫び。


(謙信)「信玄はあそこだ!」

(勘助)「うおお!山本勘助見参!謙信覚悟!」


弓矢の一斉発射の音。

遠くの声。

(ヒデ)「山本勘助殿!討ち死に!」


阿鼻叫喚。

遠くの声。

(トラ)「武田信繁殿!討ち死に!」


戦闘の音、遠のく。

近くの声。

(カズ)「おやかた様、今第九の陣が破られました」

(信玄)「ふむ、あと三陣を残すのみか。・・・・

  ・・・・・・・ 別働隊は、まだか?」


遠くで絶叫。

(ヒデ)「いま、風林火山の御旗が見えましたーっ!」

近くの声。

(信玄)「おお、やっと来たか!」


馬一騎のひづめの音、急速に近づく。

(信玄)「誰じゃ?あ奴は?」

(カズ)「なにやつぞ!」

(謙信)「どけどけい!謙信参上!狙うは信玄ただひとりぞ!」


馬のひづめの乱れる音。

(アキ)「おやかた様!幕の外へ!」

(信玄)「逃げも隠れもせぬわ!」


馬のいななき。剣戟の音。

(謙信)「南無毘沙門天!信玄覚悟!」


刀で軍配を切りつける音。

馬のいななき。乱れるひづめの音。

(信玄)「何をこしゃくな若造め!」


刀と軍配の切りあう音。

馬のいななき。乱れるひづめの音。

(謙信)「信玄覚悟!」

(カズ)「そうはさせじ。謙信、お命頂戴!」

(アキ)「あっ、カズの進!だめーっ!」


ドバッと体を切られる音。

(四人)「あっ、あああーっ!」


叫び声、遠のき消える。

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