【夜の帳―――2014年2月28日午前1時ころ・板宿】

ぷに

―――ほへ?

過去の夢から目を覚ました角禍の、柔らかな―――金属とは思えぬほっぺたをつねる手が一本。

「……むにゃ」

「……」

それは、銀髪の少女の真横で眠っている少年。彼のものであった。

角禍はしばし無言。

……このショタはああああ!?

可愛い!かわいすぎるぅぅぅっ!?

なんというハイスペック生物なんだこれは。

などと考えていたのかどうかは分からないが。彼女が次に述べた事柄は、以下の通りである。

「……はっ!?これは敵!これは敵!!

夢に見たばかりだろ!!こいつは私たちの母星を焼き払ったんだぞ!?

でもショタだしなあ。可愛いしなあ……

……夜風に当たろ」


  ◇


ベランダには先客がいた。

「先ほどはお楽しみでしたね」

「やかましい」

ベランダの手すりに座っているのは平凡な顔立ちの少年。

少女の人間体同様、遠隔操作されるサイバネティクス連結体。つまり分身だった。なお名前はない。

角禍はナナシと呼んでいたが。

彼は楽しそうに口を開いた。

「いや、失礼。そうですね。せっかく最後なのだから楽しまなければ、という気持ちは分かります。そういう感情がある事はね」

「悪かったな。人間にどっぷり染まって」

「いえいえ。仕事さえしていただけるのであれば。どのような経過をたどろうが関係ありません」

「分かり切った事だ。私は同胞を裏切る事はしない」

「信頼しておりますよ」

それだけ告げると、少年の姿をした機械はベランダから跳躍。向かいの家を飛び越し、姿を消した。

―――行ったか。

「ふん。慇懃無礼な奴め。同胞でなければぶっ殺してるところだ」

―――私たちの種族が、個々の意志を持つように進化したのはいつの頃からだったのだろう。今では、我々のような上位個体はほぼ明確な自我がある。それは、すべてを導く標を失ったからには当然の進化だ。

そうだ。

そのはずなのに……

「ええい。悩むなんてアホらしい。どうせ明日にはすべて終わる。寝よ」

少女は、窓を閉め部屋へ戻った。

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