【褥にて―――2014年2月27日深夜・板宿】

「―――僕を、殺すの?」

問いかけられた銀髪の少女は、その一言で動きを止めた。

夜の寝室。

少年に馬乗りになり、そしてその首を絞めつけていた角禍は、不思議そうに少年を見下ろしていた。

潤んだ瞳。それはまっすぐ、少女の姿をした金属生命を見つめ返している。

「私は―――」

そうだ。

まだ殺せない。殺してはいけないはずなのに。私は何を。

記憶が曖昧だった。

いや、覚えてはいる。金属生命体の記憶力は優秀だ。ただ、この瞳。己を見つめる目をどこかで見た覚えがして、それで―――

「まだ、歴史は、変わらないよね?」

少年の言葉。

そうだ。変わらないのだ。今殺しても。

変えられない。いや。

「そうか。私は。歴史を変えたく―――」

少女は―――かつて禍の角と呼ばれた超生命体は、言葉の後半を飲み込んだ。

それは決して口にしてはならないものだったから。

代わりに、彼女は違う事を言葉にした。

「もう、寝ろ。わたしも寝る」

ごろん。

少年の横に転がると、布団をかけてやる角禍。

「……角禍?」

銀髪の金属生命体は無言。

やがて、寝息が聞こえて来た。

返事が返ってこないことを知った少年は、自らも目を閉じた。

夜は更けていく―――

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