第5話 結局ロックてなんだろう

 金曜日、ライブ当日。



 俺はライブに行く気なんかこれっぽっちもなかった。

 だけど行かなければ行かないでゼミでグダグダ言われるのも嫌だ。



 行くめんどくささと、行かないでグダグダ文句を言われるのを、天秤にかけたとき後者のほうがめんどくさい感じがしたので結局行くことにした。



 ライブハウスは大学の近くの繁華街にある所で、自分の家から近いのがせめてもの救いだ。



 街に着きスマホを見ると予定より早く着すぎてしまったようだ。

 どこかカフェでも入って時間を潰そうかと思ったが、好きなバンドの新譜が出ることを思い出したのでいつものCDショップに向かうことにした。



 「おっ、あったあった」



 自分の目的のCDを見つけ、手に取るとその隣に見たことある顔が写ってるCDがある。そのCDをみると昔のことを思い出した。



 ロックが好きでギターヒーローに憧れていた中学時代。

 音楽の授業でバンドを組むことになった。

 音楽が好きな友達と、とあるバンドのコピーをすることに決まったのだが、初めてのバンドということもあり、練習の時点でうまくいかない。



 音楽が好きな友達以外は自分も含め楽器が弾けない。

 俺はエレキギターを持っていたがろくに練習はしてきていない。



 彼は俺たちにテンポが早いだとか、ちゃんと音を聴いてとか色々言ってきた。

 俺はそのとき中学生だったということもあり、なんにもできないのに自信だけは誰よりも持っていて、プライドはエベレストよりも高かったような気がする。今考えるとゾッとするが思春期でもあるから仕方がない。



 「うるせーな、ロックはテンポなんか気にしねーよ。練習なんかしたらロックじゃねーわ」



 そう友達に言うと、



 「楽器もできねーのはロックじゃねーだろ」



その一言で俺はキレた。



 友達に正論を言われ、恥ずかしいし情けないしでキレることしかできなかった。



 それ以来その友達とは会話せずに中学を卒業してしまった。

 彼は今でもバンド活動をしているようで、地元のラジオ番組などにも呼ばれるほどの人気ロックバンドらしい。



 そこには自分が否定したロックがロックとして認められていた。



 「あー、俺もあいつみたいにちゃんと練習してたら今頃バンドでも組んでたのかな」



 そんなことを考えているとそろそろライブの入場の時間が近づいていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る