三ノ罪 《夜食》

 宿に戻ると、先客が居た。

 長い茶髪を後ろで一つにまとめている女性が一人、何故かブラーズの泊まっている部屋で、食事を摂っていた。



「おいルシフ、勝手に部屋に入るなとあれほど...」


「ん、おかえりブラーズ。お前の分もあるから食べるか?」



 その女性はブラーズの方を振り返った。真紅の鋭い双眸がこちらを覗いている。

 彼女はルシフ。ブラーズが旅を続けるきっかけとなった人間だ。彼女との出会いについては、またいつか。


 さて、取り敢えずブラーズは溜息を吐くと、ルシフからの誘いに乗って部屋に入る。そして少しするとベルも部屋に入った。

 さっきからこの通り、明らかに物理的に距離を置かれている。何かしてしまったのだろうか。



「...ブラーズ...。」


「...ん?」



 迂闊だった。

 ルシフが突然立ち上がり、ブラーズの目の前まで来ると頭を思い切り叩いた。同時にベルがビクッと震える。

 一瞬視界がぐわんと揺れ、よろけてしまう。

 ルシフは頭を叩くとすぐに手を引き、左手でその手を抑えて目を逸らした。



「す...すまない...。だ、だが今回はお前が悪い...と思うぞ?」


「あ、いや、確かに無断で客を連れてきたのは俺が悪かったよ、すまない。」


「その...だ。幾ら私に女っ気が無いからって、年端も行かぬ乙女に手を出すのは......」


「いや違う違う!お腹空いてたから何か食べさせようとしただけだから!」


「...そ、そういう事なら先に言ってくれればよかったのに...。」


「あ、あぁ。という事で、何か恵んでやってくれ。」



 理由を聞かずに殴ったのはお前だろ、と言うツッコミは入れない。言う事が出来なかった。彼女は、仕方ないのだ。


 ルシフはそれを聞くと直ぐに、ベルを席に促した。この部屋に椅子は二脚しかない。ルシフも既に椅子に座っている為、ブラーズは仕方なくベッドに寝転がった。


 ベルはルシフの向かい側に立つと、椅子を机から離して座る。

 どうやら距離を置いているのはブラーズにだけでは無かったようだ。

 ブラーズは自分に非がない事に安心する。



「さあ、沢山食べろ。...と言ってもそんなに量は無いが...。」


「あ、ありがと...。」



 ルシフからいくつかの食べ物を貰い、ベルは緊張気味に礼を言う。

 その食べ物の渡し方も、ルシフがいくつか食べ物をまとめて机の端においた後、少し席を離しているベルが手を伸ばして取りに行くスタイルだった。



「さて、少しお腹に入れたら幾つか質問がしたい。...いや、すまない、ブラーズからしてやってくれ。」


「あぁ。面倒だけど、やっぱ気になるもんな。」



 と、言いつつブラーズ達は、ベルが食べ物を最後まで食べ終えるまで待っていた。彼女は食べ終えると椅子をブラーズの方に向けて聞く姿勢を作った。

 それに合わせてブラーズもベッドから起き上がり、彼女に向き合う。



「まずは簡単な疑問から。どうして俺たちに助けを求める?人助けなど、王都に行って訴えた方が確実な筈だが...。」



 それに彼女は王都にいる友達、と言っていた。ならばこれから王都に向かうブラーズ達より、スピードも早いだろう。



「二人じゃないと、駄目なの...。」


「...俺たちじゃなければ、駄目?」



 ベルはコクリと頷く。

 と言うことはもしかしたら...。

 という考えは一旦置いて、次の質問に移る。



「俺たちに助けを請う理由はまあ分かったよ。釈然とはしないけど...。

 さて、次の質問だ。」


「う、うん...。」



 森の中であったかも時からずっと感じていた疑問。一時は自分のせいかもしれないと思っていた。



「どうして、俺達を避ける?」


「...。」



 ベルは項垂れてしまったが、直ぐに私に向き直った。



「信じて、くれますか?」


「あぁ、少し事情が変わったかもしれないからな。。ほら、言ってみな。」



 ベルはコクリと頷くと、衝撃の事実を伝えた、



「私、人に近付けないの...。」




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