第7話 学園祭二日目(一)

 学園祭二日目の日曜日は、一般客が入ってくる。

 そこで俺は、始まる前のミーティングでコスプレに断固反対したが、三対一の即決で却下された。

 雅治の監視の中、着替えさせられ水晶のテーブルの前に座らされる。

 俺は囚人か!


「雅治。この裏切り者」

「ワトソン君、それは勘違いって言うものだ。占いコーナーを盛り上げるのに、コスプレは必要アイテムの一つだと思うんだよな」

「言ってろ。と言うか、俺の心が折れそうなのだが」


 ホームズオタクに突っ込む気にもなれず、水晶の前に顔を伏せる。


「安心しろ。心は物質ではないから、折れることはない」

比喩ひゆだ。比喩。真面目に返すな」


 始まりのチャイムと共に、廊下が騒がしくなり生徒の出入りが始まった。

 俺たちの恋の水晶占いは、当たっていると口コミになって女子生徒たちが、切れ目がない感じにやってきた。

 午前の客引きは雅治で、裏方は麻衣が受け持ち、椎名は臨時要員で休みになる。

 そんな中、男女のカップルの一般客が混じってきた。

 まだ中学生風な感じだが、黒ずくめで背が低く肩までかかった髪のツインテール少女が前に出てきた。


「私だけ占ってほしい」


 男の方はほっそりした外観に、長髪で片目が隠れている。

 連れの彼女に、椅子を引いたりポシェットを持ったりと、実にかいがいしい。


「当たるって聞いたんだけど、本当? ねえ本当ーっ?」


 可愛く言いながら、椅子に座ったゴスロリ風のツインテール。

 だが、なぜか言葉尻に見下されている感じを受ける。


「占いだから、としか言えないかな」

「ふーん。じゃあ、私のこと当てなさいよ」


 上から目線のツインテール。


「後ろに立っているのカレシだろ? 二人の今後ってことか?」

「カ、カレシじゃないわよ。恋愛じゃなくて、私の今の状況を当ててみてってこと」


 手を前面に振って慌てだした。

 そこまでの関係にいたってないってことか。


「それ占いじゃないだろ? 探偵の仕事だな」

「当るってのは、何か見えるんでしょ? どうやったら視えるの? やってみてよ」


 冷やかし半分で見に来たやつだな。

 ここは大きく外しておこう。


「この水晶に手に触れてもらい、俺が手を重ねてお前の恋愛成就を占うんだ」

「手を重ねるんだ?」


 俺を見てから、口に笑みをこぼすゴスロリツインテール。


「儀式だ。セクハラじゃないぞ」

「ふーん。とにかく、何でもいいから占ってよ」


 まったく、上から目線のめんどくせえやつだ。

 片手を出させて、俺は自らの手を乗せる。


「あれっ? この紫水晶」


 ツインテールは水晶に顔を近づけて、しげしげと眺め始める。

 別に仕掛けがあるわけじゃないんだが。


「うーん」


 何か考え込んでいるツインテールの記憶映像が、前面にいくつも現れていた。

 手前の動画を意識してのぞくと、中学校の教室が見えた。

 俺が卒業した学校だな。

 黒板の前に男子が顔を 真っ赤にして騒ぎ立てている感じだが、喧嘩のシーンだろう。

 何か投げつけてきて胸に当った。

 本人目線で見下ろした映像は、黒板消しが足元に落ちていて、胸部分からスカートにかけて制服が真っ白になっていた。

 前を向くと、投げつけた生徒は鞄を持って肩を怒らせて出ていく。

 チョークの粉を払っていると、別の男子生徒が来て粉を落とし始めると、自分は払うのをやめて身を任せた。

 今占っているツインテールと、一緒に来ている片割れじゃないか。

 同じ同級生か。

 このツインテールも胸とか、手で払って触られているのに無頓着過ぎるだろ。

 麻衣なら、顔面にパンチが飛んでくるぞ。

 この二人やっぱりカップルだな? 

 もう一本のぞこうとしたら、呼び戻される。


「ねー。いつまでやっているの? 瞬時に視れないの?」

「そう焦るな。じゃあ、今の見立てを話すとだな。恋愛は成就している。今を大事にすることだ。後は喧嘩は慎むように以上」

「えっ。それだけ? ……なんだ、くだらない、がっかりだわ。手を抜いてるんじゃないでしょうね?」

「心外な。ここは水晶で恋愛を占うコーナーだからな」

「まあ、わかったからいいわ。ところでさ、何でそんな変な服着てんの?」

「えっ、いや、このコーナーの名物になっているらしくてな。ははっ」

「名物? ぷっ。おっかしいの。マジ大丈夫?」


 ツインテールはそれで満足したのか、笑いながら偉そうにして男と一緒に出ていった。

 黙っていたら美少女なのに、このーっ、ちんちくりんが。 



 ***



 昼近くになると、椎名が戻ってきて雅治と外で話していた。

 そこにもう一人が加わり、椎名と一緒に入ってくる。


「広瀬の知り合いだよ」

「ちわーっ、来ちゃった♪」


 明るい声で話すのは夢香さん。

 椎名はそのまま奥へ引っ込んでいくと、うしろから麻衣が顔を出す。


「あっ、先輩。こんにちは」


 彼女は喫茶店ショコラのバイトで、夢香さんと一緒だったとかで知り合いらしい。


「こんちは。みんな手作りなのね。すごーい」

「さっ、夢香さん座ってください」

「はい」


 そう言って椅子に座ったかと思ったら、突然椅子が後ろに飛んでいった。

 次の瞬間、彼女は勢いよく尻餅をついてしまう。


「あいたた」

「先輩大丈夫ですか?」


 麻衣も音に驚いて、うしろから出てきて声をかけた。


「だ、大丈夫。というか、忍君のその格好! 驚いて脱力起こして座り損ねちゃったわよ」


 椅子の先端の部分だけに腰かけて、床に倒れたようだ。


「あっ、はあ。そうなんですか?」


 夢香さんは椅子を引き寄せて、今度は優雅に座った。


「その服いい。似合ってるよ♪」

「こ、これは謀略にはまっただけです」


 コスプレの話題に、また羞恥心が表に出てきた。


「なんですって?」


 うしろから奇声が飛んでくる。

 監視されてたんだ、変なことを話せない。


「あっ、ははは。じゃ、始めますか」

「ええっ、恋愛を占うのよね? えーと、どうしようかな……そうだ。知り合いの男性と上手く続けたいんだけど、どうしたらいいかな」


 んんっ、例のカレシか?


「片手を水晶に当ててください」

「んっ? 右手でいい? はい。ワクワク」


 俺は彼女の手に、自分の手を重ねて触れる。

 すぐ耳鳴りとともに映像が浮き上がってきたので、手前からピックアップ。

 数をこなしているせいかフラメモの起動が素早く、頭痛も少なくなってきた気がする。

 そして目の前の広がった映像は、湯気が立ち込める空間に水の反響音。






 ――いかん、浴室のシーンを選んでしまった。夢香さんごめん。


 湯気で視界がみえない、と思ったが彼女の顔が現れる。

 バスタブの備え付け鏡に、彼女目線で顔の部分が映し出された。

 水に滴る色っぽい夢香さんだ! 

 鏡にお湯をかけたようだが、なぜ全身見えないのだ。

 いかん、いかん。

 夢香さんごめん。

 頬に手を当ててる。

 どうやら鏡を見ながら顔を洗い始めたようだ。

 鏡についた水滴が下に垂れて胸部分が少し見え出した。

 もしかして拝める?


「こ、こら」


 夢香さんの声と左頬に痛みが走る。


「いてっ」


 平手打ちを頬に食らってしまった。


「なんか、あまりににやけた顔してたから、なぜか手が出て。ごめんね」

「ええーっ?」


 見透かされた? 

 やっぱり俺って、顔に出るタイプ?

 気分を変えて、夢香さんが水晶に手をかけるところからやり直して別の映像を探す。






 ――ここは? 


 駅前だな。

 夕方? 

 下校途中かな。

 携帯が見えた。

 また、歩きながら携帯でメール打ってるよ。


「うん?」


 ああっ、鞄を店前のスタンド看板に引っ掛けた。


『きゃっ』


 夢香さんと一緒にスタンド看板が、看板店側に倒してしまった。

 あ~あっ、やっちゃったよ。

 戻そうと焦ってスタンド看板に飛びついたが、外に構えてた携帯展示販売の台も押し倒した。

 また、ドジ炸裂。

 携帯がいくつか散乱してる。

 夢香さんの携帯も混じって大変だ。


「あ~あっ」


 店から定員が出てきて彼女の前に立つが、呆気にとられている。


『ごめんなさい、ごめんなさい。店の皆さん、ごめんなさい』


 彼女、平謝り。

 新品の携帯電話は展示してないだろうが、展示品が壊れていれば弁償だな。

 合掌。

 この映像は視なかったことにしよう。

 うん。






 次にピックアップして広がったシーンは、どこかのレストランのようだ。

 前に男性がいて食事をしてる。


 ――昨日視たフラメモの再現だ。


 付き合ってる相手なのだろうか。

 男に思い当たる。

 知ってる顔だが誰だっけ。


 ――ああっ、夏にバイトしてた店の金田先輩じゃん。


 H大のイケメン学生。

 でも、先輩とは会話こそなかったけど。

 俺の知ってる先輩の彼女は、夢香さんじゃなかったぞ。

 夢香さんの視線は、真っ直ぐ彼に向きっぱなしだ。

 でも。

 あっ、まただ、彼はよくよそ見をする。

 落ち着きがないというか。

 今度は携帯電話かけてるし、その気がないんじゃないのか? 

 うーん。

 雰囲気が違う二人だし、合ってないような。

 とにかく夢香さんなら、俺は応援しないとな。






「水晶に占いイメージが観えてきました。えっと、ですね。彼との関係では、強くなるチャンスです」

「そっ、そおっ?」


 占いに心踊らしている夢香さんの口から、奇異な声が発せられた。


「んっ。……相手を立て過ぎていませんか?」

「う、うん」

「まずは普段の夢香さんを、相手に見せるんです」

「普段?」


 夢香さんは、顔を横に傾けて疑問符ポーズを取る。


「俺と接しているときの夢香さんですよ」

「そうかな……」

「彼の前では、大人し過ぎます」

「そ、そんなことまでわかるの?」

「えへへっ、占いですよ。それでですね、強気で攻めれば、彼はもう夢香さんの物になるでしょう」

「もーっ、忍君ったら、あいつのこと物扱いしないでよ」

「あっ、これは失言でした」


 俺にとって、相手なんてどうでもいいんですよ。

 なんたって姉を取られた感じだし。

 グスン。


「でも、忍君。本当のこと言ってる?」


 夢香さんが座りながら、両手を腰に当ててお姉さんスタイルになっている。

 何かに感づいたようだ。


「ええっ?」

「その驚きよう。何か隠してるね」

「いや、あの……はははっ」

「いい。私は大丈夫だから、はっきり言っていいよ」


 ばれちゃった。

 夢香さんは、心を見抜く能力を持ってるようだ。


「じゃあ、怒らないで聞いてくださいよ」

「うんうん」


 ショックを与えないように、さりげなくそっと。

 声を潜めて、ささやくように言ってみる。


「彼の近くに別の……影が見えます」

「えっ? よく聞こえなかったけど何の影?」


 しかたなく普通に話す。


「彼に別の女性が近づいてます」

「嘘っ?」


 やべーっ、かえってさりげなさが逆に強調してしまった。


「本当? それ本当?」

「ええっ、残念ながら。近いうちに三角関係に発展なんてこともあるかも」


 それを聞いた夢香さんは、頭をたれて肩を落とす。


「夢香さん?」


 意気消沈した彼女だが、ゆっくり話しだす。


「んーっ。……わかったわ。忠告ってことで聞いとくよ。実はね、なんとなく私も感じてたんだよ。コイツ他にできたかなって」


 あーっ。

 当事者が一番わかるのかも。


「だから、逆にビックリよ」


 夢香さんが復活して言った。


「えっ?」

「さっきから驚いているんだよ。忍君、これ向いてるよ」

「は、はあ」

「まあ、冗談だけど」


 ふうっ。

 ショックがないようで良かった。


「また占ってね」


 俺の思いとは裏腹に、夢香さんは右手を差し出してあっけらかんと素直に言った。

 好きだな、こう言うの。


「ええ」


 俺が答えるとお腹も鳴った。

 うっ、これは能力行使のせいでエネルギー不足が発生したんだ。

 休みだ! 

 休憩、休憩。



 ***



「もうすぐ昼休みになるんで、学園祭ガイドしますよ」

「じゃあ、一緒に食事しようか」

「はい、廊下で待ってて下さい。すぐ出て行きます」


 俺は裏にいる麻衣に声をかける。


「おーい麻衣。昼だ交代」

「まだ予定時間になってないわよ」

「休ませろ。不当な労働に抗議する。受け入れなければ、徹底抗戦の構えがある」

「あによーっ。まったく!! 口だけは達者ね」

「マジに疲れたから、お願いっス」


 夢香さんを待たせることになるので、平身低頭をしてみた。


「しようがないわね。二十分早いけど、私が代打をやってみるわ」


 途中から戻ってきていた椎名が、麻衣をなだめるように言ってくれた。


「やりーっ」

「じゃあ、五十分後には戻ってきて」

「OK」


 二人に後を頼んで外に出ると、また数人反対側に並んでいたが、夢香さんを連れて廊下に出る。

 恋の水晶占いと書いてあるプラカードを持った雅治が、俺を呼び止める。


「あれれ。もう休みか?」

「椎名に代わったから、手伝ってくれ」

「ほう、面白そうだ。見に行こう」


 教室に戻った雅治を見送り、夢香さんと歩き出す。


「やっと開放されたーっ」

「はははっ、その格好でいいの?」


 夢香さんが指で俺の服を突っつく。


「あっ、しまった」

「そのままで行きましょ。時間もったいないよ」


 そう言って彼女は、携帯電話を出して写メを撮る。


「あーっ、夢香さん。撮りましたね」

「だってーっ、可愛いんだもん」


 かっ、可愛い? 

 そんな感じで見られてるのか?


「消去してください、恥ずかしい」

「ダーメ! 待ち受けにしちゃおうかな」

「マジでやめてください」

「冗談よ。それで、今日は何人位占ったの?」

「ああっ、二十人くらいかな」

「あら、けっこうやったのね、偉い」


 喫茶店を出してるクラスは、どこも人だらけの大盛況。

 何とか空いてる席のある喫茶店店舗を見つけて、二人分の席を確保。

 夢香さんと一緒にナポリタンを注文するが、受付の執事スタイル男子が堂に入っていた。

 ここはメイドじゃなくて執事喫茶か? 

 夢香さんは執事男子に目が釘付けである。

 ここから早く出よう。

 昼後は彼女をガイドすべく連れ立って廊下を歩き、いくつかのクラスの展示を見て回った。

 何かいいな、この感じ。

 夢香さんとプチデートしてるようだ。

 歩いていると人の目の視線に気づく。

 俺とすれ違う生徒たちが、好奇の目線を送ってくるので、また服装のことを思い出し恥ずかしくなる。


「みんな気に入ってるのね。振り返ってるわ」


 夢香さんも他の目線に気づいてたようだ。


「もの珍しいだけです」

「コスプレみたいで面白いよ」

「みたいじゃなくて、コスプレです」

「そーなんだ。私その手のこと知らないから教えてよ」

「俺も知りません。ただ、はめられただけです」

「ははーん、それで機嫌悪いんだ」

「べ、別に普通ですよ」

「そーお? ふふふっ、コスプレさせた子の気持ちわかるなーっ。だって、忍クゥン可愛い♪」

「可愛いはよしてください」


 唐突に夢香さんが、抱きついてきた。

 こ、これは祝福を。

 いやいや、この公衆の面前で大胆な。


「ああっ、夢香さん。ま、ま、まずいですよ」

「そーお? 可愛いから、つい独り占めしたくなっちゃったのよ♪」


 目立ちすぎ……でも、夢香さんの温もりが伝わってきて。


「コラーッ!!」


 廊下の端から大柄な教師が、声を上げて大またでやってきた。

 担任教師の島田だ。


「きゃっ」

「夢香さんが、お、重い」


 驚いた夢香さんが、俺に抱きつくように一緒に倒れる。

 そのとき何か金属の当る音がした。


「わわわっ、押し倒しちゃった?」


 首元に口づけしちゃったよ。

 ちょっと幸運。

 夢香さんって柔らかい。

 いっ、いかんまた能力が出るかも。

 じゃなくて、能力出るな。


「君たち何をしているんだ。離れなさい」

「えっ?」

「うるさい担任なんだよ」


 夢香さんに小声で話しながら立ち上がり、二人で後退する。


「逃げるよ、夢香さん」

「うん」

「ふざけてただけです。すいません」

「おっ、おい」


 廊下を走り出たあと、庭に回ってポプラ並木で足を緩める。


「はあっ、はあっ……びっくりした」

「運悪く通りかかったのが、担任だったとは。どうやら不純異性交遊として目に入ったらしいね」

「忍君をからかってただけなのに」


 そういえば夢香さんの腕を握ってたのに、フラメモは起こらなかった……焦ってたからな。


「おやっ」


 うしろで声をかけたのは、一昨日の用務員のおじさん。


「君は確か」

「はい、一昨日はありがとうございました」

「うん、手の方はもう大丈夫かな?」

「ええっ」

「あれっ、お隣の子は昨日とは違うようだね」

「ああっ、彼女はクラスの出し物の行事に出てます」

「ほう、そうか。若いのはいいなあ。ははっ」


 用務員のおじさんは、俺たちに深々と頭を下げてそのまま去って行った。


「何、手がどうしたの?」


 夢香さんが少し心配顔で言った。


「占いの工作でちょっとお世話になってね」

「あの占い部屋のベニヤ板のパーティションだね? 苦労してるんだ、偉い偉い」


 一時前の予鈴のチャイムが鳴りだして、休み時間をオーバーしたのに気づく。


「ヤバッ、俺戻らないと」

「あっ、そろそろ時間なのね? 今日はありがとう。私は一人でもう少し回ってみるよ。バイバイ♪」

「それじゃ、夢香さん」


 彼女と別れて教室に戻るため廊下を歩いていると、後ろから呼び止められる。


「先輩、あの~っ」


 振り返ると、見た覚えのある背の高い女子が右手を差し出していた。

 そのうしろに、ボクっ子発言の背の低いポニーテール女子もいた。


「これっ、連れの方が落として行きましたよ」

「ん? イヤリングの片方?」

「ええっ」


 夢香さんが耳につけてた装身具だ。

 倒れたとき落としたんだな。


「君たち昨日の占った子たちだね」

「は、はい。昨日はありがとうございました」


 和美が言った。


「昨日ね。和美ね。甲斐とつきあうことになったんですよ」


 うしろのポニーテール女子が、少し興奮したように話した。


向葵里ひまりちゃんが、放課後のとき彼にバラしたんですよ。ひどいと思いませんか?」


 好きってことをバラした? 

 昨日のポシェット見つけたあと、ボクっ子が強制介入したってことか。


「でも、ちゃんと前進したでしょ。いいよ、つきあおうって言ってもらえたんだから、ボクはほめられて当然のことしたんだよ。そうですよね先輩」

「当然なんてことないよ、向葵里ちゃん。私に相談してから言って欲しかった。あの後、甲斐君と恥ずかしくて一言も話せなかったんだから、穴があったら入りたい気分よ」

「あの、つきあうことになったんだね。良かった。じゃあ、俺行くわ。拾ってくれてありがと」


 彼女たちの話が、終わりそうもないので退散することにした。


「ねえねえ、和美たちあの先輩と知り合いなの?」


 少し離れたときに声が耳に入ってきた。


「昨日ね。占いが当ったのよ。それでね……」

「キャーッ、ウソーッ」


 歩いていても、背後から彼女たちの話が聞こえてくる。

 占いが有名になってきている。

 これはまずい。

 やっぱり占いにフラメモを使ったことで、興味を持たれている。

 午後は、外しまくろう。

 うん。

 バレないためにも。

 それで、このイヤリング。

 夢香さんを探す暇はないし、まあ後で返しとけばいいか。

 家が隣なんだし。

 午後は評判を落とすため、占いに嘘を散りばめるため俺は教室に戻った。

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