少年と少女の狭間

露月 ノボル

第1話 前編

 記憶にあるのは赤い炎と銃声。そして、聴いたことのある声の悲鳴。よくお菓子を買ってた、行商人のおじさん。名前は…忘れた。手に温かい感触がある。引っ張られるように走ってる、僕と…そう、母と。母の顔を見上げようとすると、悲鳴とともに母が倒れ、繋いだ手がすり落ちた。母の胸に赤い血の染みが、それがどんどん大きくなり……。


「はぁっ、はぁっ!」すごい嫌な汗をかいて飛び起きる。何か、嫌な夢を見たようだ。こんな時はコークが一番。隊長から支給されたのが残っていたはず…あった!手探りで簡易ベッドの下に隠してあるパケを取り出す。上の段のオピエトが寝返りを打ちながら舌打ちする音が聞こえる。だが気にしていられない。

 

 僕は戦場では珍しく綺麗に残っていた、この前倒れてた外国人の死体の財布から取ったクレジットカード…ここじゃドル札でなきゃそんな物使えやしないけど、何だか自分がVISAのカードを持ってるとハイソな気になるのだ…で、敷いた紙にコークを綺麗にラインに整える。そして、丸めた100万リンデル札で、一気に鼻から吸い込む。

 

 キーン!と音がした気がした。…さっきのはなんだっけ、あはは、なんだっていいさ。コークさえあれば常にゴキゲン。何でもできる気がする。隊長達は良い人だ。「ガキ共、今日の報酬だ、くれてやる」とコークの入ったパケを渡してくれる。1人殺すたびに0.02g。実際はそれより軽いらしいが気にしない。殺して右耳切り落として渡せば、それだけコークがもらえる。ここは実に良い所だ。僕はお気に入りのアメリカのバンド、「Phoenix」をカセットテープで聞きながら興奮状態が絶頂でノリまくりだった。


 明日は朝令だっけ。「新生エルメニア国歌」を歌って、偉そうな奴の退屈な話を聞かされる。と言っても、勝手に僕らが国歌と言っているだけらしい。


「若き諸君!君たちは栄えある英雄である!我々エルメニア民族解放戦線が勝利した暁には、諸君らは英雄として未来永劫に渡って讃えられる!不当に資源輸出で得た巨額の金を人民に配らず収奪する腐りきった政府軍を打倒し…」いつもこんなところだ。まあ、英雄と言われるのは悪くない。


 「若き諸君」って、アンタらが歳食ってるだけじゃないか。僕達の部隊は下は11歳、上は17歳ほど。僕は…何歳か知らない。14歳だと隊長から聞かされたが、みんな本当はさっきのも正確な年齢なんて判りはしない。


 ただ、政府軍が拠点にしてた村で泣きながら「まだボクは14歳だよお願い助けて」と言ったガキが居たが、僕もそれくらいの背丈だから、大体そのくらいなのだろう。勿論その後ガキの頭を撃ちぬいて右耳を頂いたけど。

 

 …コークの効き目が落ちてきた気がする。あのガキの目…小動物が怯えるような、すがる目を思い出したから。人間なんてのは、肉の塊で、敵の言う事に耳なんざ貸してられないし、撃ち殺して黙らせた方が遥かに早い。BADが入ったら良くない…気分を変えよう。


僕はコークが高揚感が覚めないうちに、隠してある例の外国人が持ってた流行りの電話、それを起動させ、新着がないかチェックした。「TACky」から届いてるのに気がついた。TACkyはニッポンに住む14歳の女の子だ。


ニッポン人なんて、僕にとっては雲の上の人だ。自動翻訳で「Echo、こんにちは。今日、Phoenixを曲、買いました。私が、とてもうれしいです。風邪を流行ってます。Echoと気をつけて」数千キロ離れた知らない人間と話せるのだ…僕は言いようのない興奮感、コークの作用もあっただろうが、返信した。


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「…と岸部総理は、改正少年法案の今国会での成立を目指す、と述べました。続いて次のニュースです。ベネズエラへの有志連合としてに派兵された日本陸軍は13日、上陸の末、カルバノにて有志連合の同盟軍、オーストラリア軍と合流し…」


 あ、アタシ、テレビつけたまま寝てた。しかも今人気のジャニグループ、「F6」の特番が、つまらないニュースになってるし。って、宿題やらないと。今日の宿題は「公共」の授業のプリントだったな。もう中2だから受験勉強そろそろ始めないと母親うるさくてヤバイ。でもとりあえず宿題をやろう。まあ、ウィキペか何かググればすぐ終わる。そう、木村貴子は思い、テレビを消そうとしたが、メンドくさいので止めた。

 

「…とエルメニアのクレティダ大統領は国際社会の食料支援を呼びかけました。これに対しウェイン国連事務総長は、可能な限り尽力したいとした上で、エルメニアの政府軍、反政府軍の残虐行為や少年兵の徴用など、先の人権委員会総会での勧告に応じるよう求め…」


 どうでもいいから聞き流す。なんたらって国がどうこうって。今はアタシは宿題と、あと明日トモと遊びに行くワンダーウェイの新作ガンシューティングにしか興味ない。そしてその後もっと遊ぶのと。ワンダーウェイで遊んだ後、どこで遊ぶか考えなきゃいけないし、とっとと終わらせよう。

 

【問3】

 国民の六大義務とは(  )と(  )と(  )と(  )と(  )と(  )であり、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、(  )と( )に反しない限り基本的人権は尊重される。


 

 ああ、これ簡単。まず納税でしょ、あとは勤労?それと…なんだっけ?スマホを取り出しウィキペを調べてみる。あ、あった、「教育を受けさせる義務」と「憲法尊重義務」、「国旗国歌尊重義務」、「家族尊重義務」、ウィキペが便利すぎて覚える意味ない気がする。

 

 あとは、ウィキペか何かで…って、これ検索出たの、「古いの」じゃん!「旧憲法」っていうんだっけ。そういう昔の古いの、まだネット上で沢山変わらず残ってたり、「憲法は死んだ!」「平和憲法への回帰を!」とかデカデカとしたフォントやら画像のブログやらなにやらヒットして、邪魔臭い事この上ない。あ、あった。そう、「公益」と「公の秩序」だ。


「…これに対して、ロシア政府は15日、アメリカの物資・兵器が中央アジア三国へとインド経由で流れている、と非難する声明を出し、これに対してホワイトハウスは…」


 まずはちょっと宿題やった。明日の予定でも立てようかな?と耳に入るのを聞き流した。

って、ツイッターの着信音が鳴った。またエミかな?と思ったら、Echoからだ!Echoとはアタシのお気に入りの2010年代の古い洋楽、「Phoenix」のタグで知り合った、日本でない海外の人らしいが、今年に入ってから意気投合できて仲良く話をしてる相互フォローの男の子だ。


ただ、外国語では140文字だとあまり内容が送れないらしくて、それが残念に思う。1万字に増えた事があるらしいけど、色々あってすぐ元に戻ったらしい。

どこの国か分からなくて困惑したけど、ツイッター自動翻訳で「ロシア語」になってたから、ロシアなのだろう。ロシアでもどこでも、今のケータイは衛星ネットだから繋がるので問題ないけど。「私、仕事で忙しいです、Phoenixが私の頼りになっています。Victory Loveが良い曲です」


私もその曲がお気に入り!やっぱりEchoは分かってるなあ!気が合って色々話してたけど、仕事、何やってるか聞いてみたら、「警備員」と前に翻訳された。かなり治安が悪いとこらしいから、そういうのも必要なのだろう。でも14歳で警備員に慣れるのかな?外国だとバイトは年齢関係ないのかも。


私は「今度、友達とガンシューティングで遊びに行きます。結構私は射撃の腕は得意です。ExFoxもお勧めです」と送った。Echoは同い年と思えないほど純粋で大人びてて、話してると短い文でも楽しい。もっとお話したい。いつか会えればいいのにな。

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