ある純文学愛好家とホラー小説愛好家の対話

黒煙

第1話 戸村純の章

人物設定 

戸村純 トムラ ジュン 30代前半 サラリーマン

六道凛音 リクドウ リンネ 20代前半 大学院生


「こんばんは。純文学愛好家の戸村純(男)です。」【以下(戸)】

「はじめまして。ホラー小説愛好家の六道凛音(女)です。」【以下(六)】

(戸)「今日は我々二人が、独断と偏見と個々の自己満足に基づいて、お互いの好きな文学いついて話していこうと思います。」

(六)「なんか昔のテキストサイトでこういうのありましたよね、戸村さん」

(戸)「いきなり楽屋ネタっぽいこと言うのはやめてください六道さん」

(六)「あと戸村さん、名前が戸◯純さんみたいですね。私好きですよ、レーダーマーーーーーーンっっって!一番好きな曲は赤い戦車なんですけどね」

(戸)「いきなり脱線するのもやめてください。あなたの名前の方が凄いですからね。おシャカ様が出てきそうですからね」

(六)「すいません、わかりました。では早速本題に移りましょう。まず戸村さんから自己紹介をお願いします。

(戸)「戸村純です。好きな作家は安部公房、太宰治、夏目漱石です」(歴史的人物なのでここでは敬称無し)

(六)「太宰治と夏目漱石は有名ですけど、安倍公房先生はあまり知らないですね。どこかで名前は聞いたことがあるような・・・」

(戸)「多分高校の現代文の教科書に載っているかもしれないですね。代表作に「箱男」「砂の女」「燃えつきた地図」等があります。海外二十数ヶ国で翻訳されるなど、国際的にも評価が高い方なんですよ」

(六)「あー!確か教科書の著者近影ですごい顔のおじさんが載ってた気がするんですけど、その人かもしれませんね」

(戸)「そうですね(笑)見た目は無骨で毎日ワンカップ大関とか飲んでそうな印象なんですけど(笑)、すごい人なんですよ」

(六)「なるほど。あとでじっくり伺いましょう。では次に私の自己紹介をさせて頂きます。六道凛音と申します。好きな作家は鈴木光司先生、貴志祐介先生、加門七海先生です(皆様ご健在なので「先生」付き)

(戸)「鈴木光司先生といえば・・・」

(六)「そう。日本が誇るジャパニーズ・ホラーの原点「リング」を書いた方です。原作と映画とでだいぶ異なる部分があるのは結構有名ですよね。言わずもがな、映画版でテレビから貞子が這い出してくるシーンは超有名ですよね。これで全国の老若男女を恐怖のズンドコに陥れたんですね!」

(戸)「なんですかズンドコって(笑)!私はホラーはあまり得意じゃないですが知ってます。もう知らない人の方が少ないですよね」

(六)「そう!私はホラー映画も好きでよく観ますが、あくまで個人的な意見ですが未だにリングを超えるホラー映画はありません!呪怨も映画公開時に観に行きました!確かにエライ怖かったですけどリングの方がストーリーがしっかりしてて好きですね!」

(戸)「呪怨公開時って、六道さん何歳だったんですか?まだ小学生だったんじゃないんですか?」

(六)「細かいことはいいじゃないですか!ちなみに世界的に観てもやっぱり「リング」がナンバーワンのホラーだと思いますね(あくまで個人の感想です)。2位はエクソシスト。こちらは古いですがオープニングからきっちり観ると、イスラムとキリスト教の宗教的な問題が絡んでいて、グロテスクな映像だけにとどまらない深い作品だと思います。あとイギリスの「黒衣の女」(The Woman in Black)という映画がオススメです!最近リメイクされましたがオリジナルの方がオススメです。まだ画質が悪かったり、映像技術が古かったりすることを逆手にとって不気味さを引き立たせているのが「リング」と共通している感じがしますね。このオリジナルの方は多分80年代の作品なので「リング」よりだいぶ前ですね」

(戸)「水を差すようで悪いですが、映画評論になってしまっているので、そろそろ文学の評論にしたいんですがよろしいですか?」

(六)「あっ、はい。すいません(笑)では戸村さんからどうぞ」

(戸)「はい。私のイチオシは何と言っても先刻お話しした故・安部公房先生ですね。私が好きなのは何と言っても代表作「砂の女」です」

(六)「ググってみると、映画化もされてたようですね」

(戸)「そうです。映画も観ました。しかしやはりこの作品は活字で読んでほしいですね。最後のドナルド・キーン氏の解説の中に「世界の真相を最も小説的な方法によって描いている」とありまして、まさにその通りなんですね。どこの文章をとっても落とし所がない。出版から50年以上たった今でも、何か世の中の真理に直結する文章ばかりで色褪せていないんですね」

(六)「うー、なるほど。それほどすごい小説なんですね。でもパッと見ると情景描写が難しそうなんですが」

(戸)「ご心配なく。私も4、5回読み返さないとうまく情景描写できませんでした。」

(六)「ケッコー読み込んでますね(笑)」

(戸)「そうですね。今でも携帯して読み返したりしてます。もう8周目くらいになりますね。何度読んでも味があるんですよ。はじめ物語の舞台は砂丘なので、安直に鳥取かと思いましたが、千葉のようですね。東京も近い場所のようなので。そこへ昆虫採集に来た男が現地の家に一泊お世話になろうとしたところ、気づけば砂の穴の一軒家に女と一緒に監禁されてしまう。そこから脱出しようとする男達とそれを妨害する村人達のお話です」

(六)「脱出系ミステリーっていう感じですか?」

(戸)「確かにそんな感じなんですが、現代のそういうのと違って、なんというか、注目すべきはストーリーではなく、文章の中に秘められた作者からのメッセージという感じなんですよ。一つ原文から例を挙げると、『性関係も、通勤列車の回数券のように、使用のたびに、必ずパンチを入れてもらわなければならないことになる。しかもその回数券が果たして本物であるかどうかの、確認がいる。−———あらゆる種類の証明書、契約書、免許証、身分証明書、使用許可証、権利書、認可証、登録証、携帯許可証、・・・———思いつく限りの紙片れを、総動員しなければならないありさまだ』というのがあります。日本の慣習への皮肉の中に、人間のあり方を考えさせられますね。こう言うフレーズがこの本の全域に散りばめられているんですよ」

(六)「すごいですね戸村さん。とても難しいですがなんとなくわかります」

(戸)「ふふふ。この本は個人的にいたるところに線がビッシリ引かれていて、まだまだ説明したりないのですが、六道さんに引かれてしまう前に次に行こうと思います」

(六)「いえいえ(笑)おきになさらず」

(戸)「今回はもう一つ、安倍先生の代表作の「箱男」について述べたいと思います。」

(六)「こっちも、映画化してるみたいですね」

(戸)「そうですね。すいません。こっちの映画はまだ見ていません(苦笑)。「砂の女」では世界の真相に触れているなら、こちらは世界のタブーに触れている、振れまくっている小説ですね。また、当時の小説とは思えない斬新な演出をされてますね」

(六)「あ、これ・・・連続して挿絵が入ってるところがある。そこに文章も入ってますね」

(戸)「そうです。まずそこ気になりますよね。紙質そこだけ違うし、意味深な文章だし。この本はズバリ浮浪者の話です。それに関連したような文章がそこに入っています。おそらく、作者の意図としては、先にその挿絵のページを見るもよし、ページ通りに読むも良し、読み手の自由!って感じなんでしょう」

(六)「斬新ですねー」

(戸)「私は正直挿絵を先に見ました。そしたら小説のストーリーが気になっちゃったのなんだっての!」

(六)「確かにホームレスネタとかって、男の人は食いつきそうな感じですね。」

(戸)「そう!今でいう実話ナッ◯ルズとかS◯A!的な匂いが漂ってるんだよね」

(六)「怖いですー(涙)」

(戸)「あ、心霊モノ好きでもそういうのはダメなんですね(笑)。あとこの本は中身も非常に斬新です。文章があくまで「ただの浮浪者のメモ書き」というスタンスなんです。そして各章の時系列がバラバラなのです。時系列がバラバラとか、きっと六道さん好きですよね!?」

(六)「好きです!めっちゃ好きです!呪怨みたいにですよね?あとゲームのバイオハザードで犠牲者たちの残したファイルだけを見ているようなそんな感じですよね?」

(戸)「(よくわからんが)きっとそうです!そこで読み手の想像力と推理力がくすぐられるわけです。なので「砂の女」よりこっちの本にミステリー要素があると言った方がいいと思いますね。ちなみに「砂の女」と同じく安倍先生はエロスもお忘れではないので、女性看護士の生着替えの描写があったりするんですよねええ」

(六)「完全に男性向けですねー。ちなみに「箱男」って何者なんですか?」

(戸)「ああ、失礼しました(笑)。タイトルの「箱男」とは、つまりは浮浪者のことなんですが、普通の浮浪者ではなく、体をすっぽり完全にダンボールの箱で包まれた、全く異質な浮浪者のことなんです」

(六)「え、すっぽり包んだら前が見えないじゃないですか」

(戸)「視界の所にはしっかり四角い穴が開けてある」

(六)「なるほど」

(戸)「さらに箱の外の表面には透明なビニールが張ってあって雨で濡れても大丈夫。さらには箱の中に生活道具を入れる収納スペースやフックが取り付けてある代物だ」

(六)「すごーい。実用的。私一回入ってみたいかも」

(戸)「そうなんだよ!みんな入ってみたくなるんだよ!今君は物語に登場する女性と同じことを言ってるんだよ!箱に入れるなら生着替えするかい!?」

(六)「いや、それはちょっと・・」

(戸)「この本はそんな箱男を取り巻く出来事が五月雨式に描かれている。ちょっとヤバめなお話が好きな方にはオススメの本だ!」

(六)「ちょっとヤバめってなんですか(笑)(戸村さん、熱くなりすぎてキャラがどんどん変わってきている・・!)

(戸)「では時間がアレなので今回はこの辺で!」

(六)「次回は私が好きなホラー小説についてお話ししますよー!」

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