第13話 スカート丈が短すぎます④

 口づけを交わす、二人。


「こんな、非常識な……女子校で、こんなことが起こるなんて」


 そう言って、教頭は頭を振った。非常識、という言葉が、二人に向けられたのが不思議だった。


「動画を撮影したのは……」

「まだ、誰か分かっていません」


 イライラとした様子で告げる教頭。私は、二人の口づけよりも――動画を投稿した者が、どのような思いで、そのようなことをしたのか、そちらの方が気になったのでした。



 HRの時間に、私はクラスの皆さんの前で、例の話をしました。


「ご存じの通り、わが校は世間の皆様からの注目度の高い高校でして……」


 だから、何なのでしょう。自分で言っていて、意味が分かりません。ただ、私たちは何か問題が起きたとき、必ずこの枕詞を使うのです――私がこの学校の生徒であった時代から受け継がれる、枕詞。


「だからこそ、SNS等、インターネット上に何かを投稿する際には、細心の注意を払わなければなりません」


 間違ったことは言っていません。――ただ、これはわが校生徒だけでなく、私たちも、そしてわが校となんら関係のない一般の方々にも当てはまる話。


「映像の内容と投稿時刻を見るに、これは校内で撮影され、校内で投稿されたもの。――生徒手帳にも書いてあるはずです、携帯電話の類を、校内で使用してはいけないと」


 私が本当に問題だと思っているのは、映像を投稿した者が、一体どんな思いで、二人に無断で、極めてプライベートな内容――顔、学校、女性同士で一種の恋愛関係にあることを、全世界に知らしめようと思ったのか、ということなのです。


 しかし、『キスをする動画をSNSに投稿してはいけない』なんていう決まりはありませんし、『女性同士の恋愛を馬鹿にしてはいけない』なんていう規則もありせん。――だから、既存の校則に頼るしかないのです。


「でもさあ、先生。それを言ったら、『不純異性交遊は禁止』っていう校則もありますよね。……あ、同性だからセーフ? それはそれで、偏見~」


 宮下 七海さんが、クスクスと笑いながら、茶化すのでした。校長室に呼び出され、増田さんと篠田さんは、教室に居なかったのです。宮下さんと仲のいい桜井さんが、ちょっとやめなよとたしなめる。


「なによー、いい子ぶっちゃって。動画投稿したの、美緒じゃん」

「……ちょっと!」


 宮下さんは相変わらずヘラヘラと笑っていたけれど、桜井さんは、少々焦った風。――あくまでそれは、私に校則違反がバレたから、くらいのものでしょう。この年になるとなんとなく分かるのですが、桜井さんには一切の罪悪感が見られなかった。



 教師って、難しいと思うのです。生徒の目、親御さんの目、世間の目に挟まれながら、生徒を良くするために、将来を潰さないように、何をどのように伝えるか、取捨選択していかなければならない。――中高一貫6年という時間は、長いようでいて、全てを伝えるには短い、と感じます。

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