スカートの秘密

 夏夜と美優は学校帰りに川沿いを歩いていた。

 いつもと同じ通学路、いつもと同じ相手。何一つ変わらないはずなのに、二人は何故か、同じことを考えていた。


 もう少し、一緒にいたいな……。


 だから、なのか、川原へと降りる階段まで来ると、二人は自然と足を止めた。

「美優、立ち止まってどうしたの?」

「えぇ?夏夜が先に立ち止まったんじゃん」

「違うよ。美優が先だった」

「……」

「……」

 二人は自分が先に立ち止まったと思っていた。けれども、さっきの感情を知られたくなくて相手のせいにしようとした。

 その結果、二人の間に微妙な沈黙が流れた。見つめあったまま。

「あぁ、あの、さ、そこで座って話、していかない?」

 沈黙を破ったのは見つめあっていることに耐えられなくなった夏夜だった。だから、視線を階段へと向けながら。

「え?うん、いいよ。あ!もしかして、恋バナ?相談?相手は誰?」

「……違うから」

 美優はいつもと変わらない調子で答えているが、その頬は少し、赤くなっていた。そして、視線を逸らしている夏夜はそれに気付くことなく、静かに答えた。


 二人は階段へと行き、横に並んで座った。その際、スカートをおさえるように腰の辺りから裾までに手を当てて。

「それで、夏夜って好きな人とかいないの?可愛いし、コクられてるのたまに見るけど、全部断ってるじゃん。もったいないなぁ、ってあたし、思ってるんだよ?」

「そういうのはないよ。ただ、男子に興味ないだけ」

 夏夜はそう答えると、美優へと視線を向けた。しかし、顔を見ることができず、顔を伏せた状態で。

 すると、視線は自然と美優のスカートへと向けられることになった。そこで、信じられないものを見た。

 二人の高校のスカートの丈は大半のそれがそうであるように短くなっている。そのスカートの裾が太ももから離れていた。夏夜は一度、自分のスカートを見る。そこにはしっかりと太ももについて、下着が見えないようになっていた。

「美、美優、スカートガード、どうしたの?」

「あぁ、昨日ちょっと、壊れちゃったんだよね」

 美優は腰の後ろから二つに割れた透明のプラスチックの器具を取り外した。

 それは、スカートガードと呼ばれるもので、普段は腰に取り付けてあり、座る際にスカートの裾の辺りまで移動させ、太ももに固定させるものだった。そうすることにより、ミニスカートであっても下着を見られる心配をなくす女性の味方である商品。

 それが壊れているということは下にいる人たちからはもしかしたら、美優の下着が見えてしまうのではないか、と夏夜は心配した。

「ねぇ、美優、移動しよ」

「あぁ、大丈夫だって。これ、あるから」

 美優はバッグから大きい懐中電灯のようなものを取り出した。

 これはホワイトライト、と呼ばれる商品。使い方は懐中電灯と同じだが、用途が異なる。見られたくないものの前にそれから出る強烈な光を出すことで、白い光のラインを作り出し、覆い隠すものだった。ただ、その光は強すぎるため、使用禁止の場所も多数あった。

 美優はホワイトライトを自分の横に置くと、スイッチを入れた。

「ほら、これで安心。夏夜って心配しすぎだよ」

「かも、ね。でも、それって使っちゃいけない場所もあるし、早く直した方がいいよ」

「明日直しに行くつもりだから、安心していいよ。あ!でも、この前、新しいの発売されてたよね?それに買い換えるのも有りだよねぇ。ねぇ、夏夜はどう思う?」

「その新しいのがどうなのか知らないし、何とも言えないよ……」

「そっかぁ……」

 その返答に美優は少し、残念そうな表情をした。夏夜はそれを横目で見ると、傷つけてしまったと思い、慌てて言い繕おうと口を開いた。

「だ、だから、明日はわたしも付いていってもいいかな?」

「もちろんいいに決まってるじゃん。一緒に行こうよ」

 笑顔で返す美優を見て、夏夜は安心した。そして、明日もまた美優と一緒にいられることに喜んでいる自分に気付いてしまった。

 なぜそう思うのか分からない夏夜は美優から視線を外し、下を向いてしまった。美優はその事を寂しく思い、少し考えた後、ホワイトライトのスイッチを切った。

「そうだ!こうすれば安心だよね?」

 そう言って、美優は立ち上がり、夏夜に後ろから抱きつくように密着して座った。

「え?美、美優?何?」

「夏夜がこうして守ってくれれば今日は安心だよね?」

「そ、そうだね……」

 夏夜は急な接近に心臓が高鳴るのを感じた。そして、顔を上げ、横を見ると美優の顔がすぐ近くにあった。

 触れ合いそうな程の距離で見つめ合う二人。

 美優は一度微笑むと、ゆっくりと顔を近付けていった。そして、二人の唇は重なりあった。

 顔を離すと、夏夜の顔は真っ赤になっていた。

「夏夜、可愛いね」

 美優のその言葉に夏夜は何も返せなかった。


 そして、夏夜は自覚した。美優に恋していることに。


 そして、美優は大好きな夏夜の唇を忘れないように、何度も頭の中で反芻した。想像していたのよりも柔らかかったその唇を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る