姫と勇者
「よくぞ来てくれた、勇者よ」
城の玉座の間で王が言うと、正面に立っていた齢十八位の少女は膝を付き、頭を下げた。王はその様子に関心を持たず、その少女に本題を語り始めた。
「先日、姫がさらわれてしまったのだ。そこで、お主には姫を救い出してもらいたい。報酬は何でも望むものを与えよう」
それを聞いた勇者と呼ばれた少女は王に気付かれないよう、頬を緩ませた。
「ならば、無事に姫を救い出せた暁には是非とも、姫をわたしにください。姫と結婚させてください」
その言葉に王だけではなく、その場にいた全ての者たちは言葉を失った。
目の前にいるのはどう見ても女性である。そして、姫も当たり前ではあるが、女性。その二人が結婚?あり得ない。誰もがそう思っていた。
そんな長い沈黙を破ったのは王自身だった。
「何でも望むものを、と言った。一国の王であるわしが嘘をつくわけにはいかない。しかし、結婚となると、姫の意思を尊重したいと思っておる。だからだ、その、姫がいいと言えば、許可はする。しかし……」
受け入れられない現実にうろたえながらも何とか王はそう言った。勇者はそれを聞き、内心でガッツポーズをした。
「それで構いません。それで、姫の居場所は判明しておられるのですか?」
「あ、ああ。西の洞窟に囚われておるらしい」
王が答えると、勇者は「では、行って参ります」と一言だけ残してその場を立ち去った。
それから数刻後。西の洞窟の最奥に勇者は辿り着いていた。
勇者の目の前には巨大な竜。
しかし、勇者はそれを目にも留めず、姫に語りかけた。
「姫、無事でございますか?助けに参りました」
「お待ちしておりました、勇者様。私を捕らえるその竜を倒し、助けてくださいますか?」
勇者は首肯し、鞘から剣を抜いた。
その瞬間、竜は大きく口を開け、強大なブレスを放った。それは街一つを丸ごと消し炭に出来るほどのもの。個人では到底対抗できるはずのないものだった。
しかし、勇者はその場で剣を一振りすると、そのブレスをかき消した。
そして、一気に加速し、竜の足元に辿り着くと、そのまま跳躍。首を一瞬で切り落とした。竜はその場に倒れ、絶命した。
「ありがとうございます、勇者様」
それを見ていた姫は勇者にお礼の言葉を伝えた。
「いえ、礼には及びません。わたしと結婚してください」
「はい。喜んで。私は勇者様の様な強くて、お美しい方をお待ちしておりました」
姫は迷いもせずに頷いた。
城に戻った姫と勇者は玉座の間にいた。
「無事、姫を救い出しました。そして、姫の了承も得ましたので、結婚させてください」
その言葉にその場の全員は姫の方を見た。視線が集まった姫は恥ずかしげに頬を染めながら、しっかりと頷いた。
それでも王は諦めきれず、悪あがきの一言を勇者に言った。
「しかし、この世界にはまだ魔王が存在している。あやつを倒さぬ限り、再び同じようなことが起こりかねない。魔王を倒してはくれまいか」
王はこう考えていた。いくら勇者と言えども魔王を倒すには時間がかかるだろう。その間に姫を説得し、勇者との結婚を阻止しよう、と。
「分かりました。行って参ります。
勇者がそう言うと、光に包まれ、勇者はその場から消えた。
魔王の正面に魔法で瞬間移動した勇者は魔王に手を向け、一言呟いた。
「
その次の瞬間、魔王は霧散した。
「これで姫と結婚……。ふふふ……ふへへへへ」
魔王を倒したことよりも姫と結婚できるという喜びで勇者とは思えない笑い声を出した。
勇者が城に戻り、魔王を倒したことを伝えると、姫と勇者を除いた全員が驚愕した。そして、姫と勇者は喜びに頬を緩ませ、見つめ合った。
その後、勇者は世界から称えられた。そして、王は約束通り、姫との結婚を渋々ながらも許した。
「約束だから仕方ない。結婚を許す……。しかし、それでは跡継ぎはどうすれば……」
「お父様、安心してくださいませ。私の魔法で女性同士でも子供を授かることができるのです」
「な、なぜ、そのような魔法を……?」
「私、女性が好きなのです。ですから、いつの日か勇者様みたいな素敵な方と一緒になる日を夢見ておりまして、それで、ですわ」
苦悶する王に向かい、姫は今まで隠していたことを伝えた。その事実に一同は唖然として、言葉を発するものは一人もいなかった。
無言となった玉座の間を姫と勇者は手を繋ぎ後にした。
それから数日後、城の中の一室で姫と勇者は共にいた。
「勇者様、強くてお美しい方。愛しておりますわ」
「わたしも愛してるわよ、姫」
二人は熱い抱擁を交わした。
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