第3話「たたかい」

 王城での事はほとんど何も覚えていない。


 雲の上の存在としか思っていなかった王様に直接会い、旅の資金として数百枚の金貨と、簡素な剣と鎧を受け取ると、何が何やら分からないうちに街に放り出されたのだと思う。


 今思えば、勇者候補など国中に掃いて捨てるほどいたに違いない。

 私はその勇者候補の中の、しかも可能性の高くない方の一人で、そんな人間に金貨や武器を与えてくださり、直接お言葉をかけてくださっただけでも、王様は素晴らしい人だったのだろう。


 夕闇の迫る初めての街で、私は途方に暮れた。


 私は世間知らずで、田舎者で、村の中ですら夢想するだけが取り柄のやせっぽちの子供だった。

 とにかく、一度宿をとると言う事すら思いつかず、勇者なのだからモンスターを倒しに行こうと街を出た。


 正直に言えば、王様から頂いた切れ味の鋭そうな剣を使って、早くオブジェを作って見たかったのだ。


 わくわくした気持ちで城壁に囲まれた街を出て、広い荒野へと足を向ける。

 しかし、私の膨れ上がった期待は、その荒涼とした大地を見た瞬間に、音を立ててしぼんでしまった。


 今更門の閉じた街へも帰れない。かと言って、荒野へと突き進む度胸も無い。

 現実に直面した私は、その場から一歩も動けなくなってしまった。


 そして、そういう時こそモンスターと言うものは人間を見つけ、襲う。


 厚い外壁一枚、その向こうでは、街の繁華街が賑わっていると言うのに、私は突然襲い掛かって来たコウモリと人間の合いの子のようなモンスター3匹と剣を交えることになった。

 最初の一撃を運よく防ぎ、壁を背にして剣を構える。


 恐ろしさに叫び出しそうになっていた私の目の前で、モンスターの1匹が、血を噴き出して倒れた。


「大丈夫かい?」


 ビキニのような露出の多い鎧を着た金髪の女戦士は、自分の頬にかかった血をぺろりと舌先で舐め、残りの2匹に視線を向ける。

 私は、その美しい女戦士の体に「キリトリセン」が現れたのを見て、慌てて頭を振った。


「ありがと、大丈夫」


 気を取り直して剣を構え直し、私もモンスターを見る。

 そのコウモリのような人間のような姿に、淡い光で「キリトリセン」が現れたのを見て、私は剣を振りかぶった。



「……なんだ、坊や、強いんだね」


 瞬く間にモンスター2匹をオブジェにかえた私に、ミヒロと名乗った女戦士は呆れたように笑う。

 私はと言えば、初めて扱う剣の重さに振り回され、満足いく切り取りが出来ずに、少々モヤモヤしたものが心に渦巻いていた。

 女戦士は興味をそそられたらしく、私の事をアレコレと聞き、私が勇者候補だと知ると、同行を申し出る。

 彼女の体にまた浮かび出た「キリトリセン」を頭から振り払い、私は、その美しい女戦士と、旅を共にすることに決めたのだった。

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