第11話 Butter Butlerのバターフィナンシェ

 東京土産はコレ、というの商品が、誰しもあることだと思う。

 鉄板の鳩サブレだったり、ひよこだったり、芋ようかんだったり雷おこしだったり。

 いやいや、人形焼きでしょ。

 東京ばななだよね!

 うんうん。どれも頷ける。

 ここでちょっと詳しい方は、「でもアレは厳密に言えば東京じゃないよね」とか、そういう物もチラホラ出てくるだろう。

 ただ、東京駅や羽田空港で売られていれば、それはもう地方の人間からしてみれば、ザ・東京土産となり、それが何年も経て鉄板商品になったりするわけだ。


 学生の頃は、東京旅行といえば修学旅行や家族旅行。

 はとバスに、ディズニーランド、東京タワーに東京ドーム。浅草寺に、国技館まで。あっちへこっちへしているうちに、二泊三日なんて、すぐに過ぎてしまう。

 自分の思うように動けるはずもなく、毎回定番の観光地に定番のお土産。それでも充実していて、疲れ切って帰宅しても、「また行きたいなぁ」なんて言っていた。

 東京という街の印象がグンと変わったのは、そんな定番以外の物に触れてからだったような気がする。

 社会人になり、自分のお金で東京に出かけるようになると、自然とアレコレに目がいくようになった。

 観光地ばかりだったものも、ライブやイベントが開催される場所の周辺を散策したりして、目線が変わったのだ。

 そうした中で、頻繁に行くことはできないが、お気に入りのホテルやお店も出来て、観光よりも滞在そのものを楽しめるようになった。それまでは忙しく動き回り、時には時間がなくて、新幹線の中で慌てて数個買っていたお土産も、訪れた街にある店で購入したり、限定品を目当てに早めに空港に行くようになった。そんな少しの回り道で、新しい出会いがあるものだ。

 考えてみれば、東京という街は世界中のグルメが集まる美食の街だ。今では、本場の味を求めてわざわざ海外に向かわなくても、大体の国の本場の味が東京でいただけるのだ。それほどの街なのだから、お土産だってもっと楽しみたいじゃないか。

 そして、今はお土産を選ぶ、という行為がとても楽しい。

 渡す相手、持って行く場所により、チェック事項がある。

 まず、商品が何か。そして個包装か、渡す相手によっては何個入りかも重要。それに加えて、私はパッケージもチェックしてしまう。パッケージにこだわりを感じたら、まず間違いない、このお土産は自信作なのだ!と、思うのだ。


 前置きばかりが長くなってしまったけれど、この度、そんなパッケージにこだわりのある、オシャレな箱菓子を東京土産としていただいた。

 それが、タイトルの『Butter Butler』だったのである。

 真っ青な箱に、ビビットなイエローの変形タイプの蓋。凝ったロゴの横には執事のイラスト。恭しくお皿を差し出している。

 Butter Butlerは、なんでも、バターを主役にしたお菓子なのだそうだ。

 確かに、バターというと洋菓子には欠かせないものというイメージはあるが、欠かせない割にはだいたいが脇役だ。そのバターにスポットを当てたこのButter Butlerは、世界各国のバターから厳選したものを使用しているのだという。

 私は初めて聞いたお店だったけれど、グルメでオシャレな東京の友人は勿論知っていた。友人が言うには、東京でもお菓子好きなら知っていると言う有名店だと言う。

 とはいえ、店舗があるのは、新宿駅だけなのだとか。他の駅やデパートでもイベントなどの期間限定で出店することはあるようだが、なかなか出会いづらい条件……。しかも、新宿駅は方向音痴の地方住みにとっては、迷宮だ。ダンジョンだ。入ったら最後、抜け出せない魔境だと恐れおののく私が、避けてきた場所だ。そんな感じなものだから、今回、買って来てくれた叔母には感謝しかない。

 しかも、東京駅で2017年におこなわれた「みんなが贈りたいJR 東日本おみやげグランプリ」にて、Butter Butlerのバターフィナンシェが優勝したのだというではないか。

 東京駅に常設店舗がないのに、だ。

 これはすごい!

 いそいそと個包装の袋を開けると、ふんわりと甘い香りが広がった。

 匂いだけで確信した。


「これは……美味しい!」


 フィナンシェはその店により、持った時に少しかたさが感じられる表面サクッとタイプと、指に柔らかさを感じる表面しっとりタイプがある。

 Butter Butlerのバターフィナンシェは、前者だ。しかも、タイルのような凹みデザインのラインがしっかりと現れた、かなりカッチリしっかりした感触だ。

 このフィナンシェには、スイス産の発酵バターが使われているそうだ。

 一口食べると、表面のサックリの中が思った以上にしっとりとしていて驚いた。

 表面がザラつきを感じるほどサクッとしているのに、1センチ程の厚みの中は、滑らかさが分かるほどしっとりしているのだ。そのしっとりの正体は、はちみつ。はちみつを染み込ませ、しっとりとした食感と、濃厚な甘みを作っている。

 美味しい。

 これはかなり美味しい!

 実は、私の中ではフィナンシェといえば、芦屋のアンリ・シャルパンティエが長いこと不動の一位だった。

 今回は、その座を脅かすフィナンシェと出会えたという衝撃だった。

 アンリのフィナンシェはButter Butlerのものに較べると、表面しっとりタイプになるので、較べるのは難しい。

 よし、ここは東のButter Butler、西のアンリ・シャルパンティエとしておこう。

 いつか、同時期に取り寄せて食べ較べをしてみたい。きっと、とても贅沢で特別なおやつになるはずだ。

 

 

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