第8話 幾分甜の一口鳳梨酥

 甘いお菓子は大好きなのだけれど、ご飯も大好きなため、つい食べ過ぎてしまうということは、ままある。

 ごめんなさい。

 多々ある。

 それでも、一日の〆はやっぱり珈琲なので、少し甘いものが欲しい。

 こんな時、手軽に食べられる小さなお菓子があればいいのにな、などと、食事の量をコントロールできないくせに、求めることだけは多い。世の中、そんなうまくいくわけないじゃないか。

 おやつ箱をちょっと覗いてみた。


 ある!


 最初、キャンディーだと思っていた小さなパッケージがいくつかあった。

 これもまた、台湾土産のひとつだった。

 パッケージはよくあるキャンディーのような、両端がギザギザの袋タイプ。しかもデザインも明るいオレンジでポップなものだ。そこに描かれている大きな壺を抱えたシロクマが愛らしい。このような見た目だから、私はてっきり蜂蜜キャンディーだと思っていたのだ。大きさもまた、大き目のキャンディー……そうだな。黒飴のような大きさと言えば、わかりやすいだろうか。それが、よく見たらキャンディーではなかったのだ。


『一口鳳梨酥』


 なんと! 一口サイズのパイナップルケーキと書いてある!

 鳳梨酥といえば、結構ずっしりとした重量感が嬉しいお菓子だ。でも、残念な点があるとすれば、女子がやりがちな「ちょっとずつたくさん食べたい」には向かないことである。それがなんと、この鳳梨酥では叶えられるのだ。

 なにを大げさに、と言われそうだが、これはとても大事なことだ。

 従来の鳳梨酥を切って分けて食べればいいという意見もあるだろう。そんなものは邪道だ。大きな声で言おう。邪道だ。

 切ったら、クッキー生地が多い端部分と、餡が多い中央部分に分けられてしまう。でも、鳳梨酥はパイナップル餡が生地でまるっと包まれていることがいいのだ。それに、切ってしまうとせっかくの生地がパサパサになってしまう。ねっとり甘い餡もそうだ。「ちょっとずつたくさん食べたい」は叶えられても、美味しさが損なわれてしまうのでは本末転倒ではないか。

 そこに華々しく登場したのが、この一口鳳梨酥だ。

 調べてみると、これは決して新作などではなく、以前からこのお店ではあった物のようだ。知らなかったことが悔やまれる。

 大きさからいって、一口でパクリといけるサイズだが、ここは二口で頂きたい。

 鳳梨酥は、中の餡に各店のこだわりがあるのだ。

 これまでも、甘味の強いもの、酸味のあるもの、滑らかなもの、果肉の食感を残したもの、繊維の残ったもの、様々なものがあった。そして勿論、そのどれもが素晴らしかった。

 さて、幾分甜の一口鳳梨酥はどうだろう?

 甘い。餡は甘味をしっかり感じられるものだ。そして、食感! 一口サイズと小さいのに、パイナップル餡は所々ザクザクと、パイナップルの食感が感じられるのだ。

 見た目がポップで可愛らしいからといって、一口サイズでお手軽感があるからといって、味に妥協はしていない。それなのに、大きさと手軽に持ち歩けるパッケージで時と場所と選ばず鳳梨酥を楽しめる。

 一口サイズの鳳梨酥、ありそうでなかった。いや、実際はあったのだが、なかなかお目にかかることはなかった。これはとても嬉しい出会いだった。

 しかも、幾分甜とは、台湾のパン屋さんなのだそうだ。

 以前このエッセイでも書いたけれど、台湾ではお土産屋さんや専門店だけではなく、地元のパン屋さんやケーキ屋さんでもその店オリジナルの鳳梨酥が作られているのだそうだ。

 次にもし台湾に行く機会があったら、その時は是非パン屋さんも訪れてみたいものだ。

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