第3話「やはり魔王は遅刻をしていた。」

 おどろおどろしい蝋燭の灯る大広間。


 その席にはアンデットや黒騎士、ダークエルフと言った面々が並び、

 彼らの双眸には暗い光が満ちていた。


 そこにカツカツと足音を立て、疲れた顔で一人の男がやってくる。


 男は古めかしいマントを着込んで杖を持ち、その雰囲気はいかにも

 ラスボスと言った具合で、見る者を震撼させるオーラに満ちていた。


 そうして、男は一番奥の赤いビロードの椅子に座るとこう言った。


『すまないね。今日は定例会議の日であるというのに

 魔王である私が遅刻をしてしまって…

 なにせ、私の祖母が「そろそろお前も身を固めるべきだ」とか言って

 見合い写真を大量に薦めてくるもので、かわすのに必死で…

 まあ、私の事情はこれくらいにして、会議をはじめるか…』


 そうして次に魔王は「あれ?」という具合に首をかしげた。


 十一幹部…それは、魔王に仕えるという名目の

 種族も思想も別のいわば烏合の集を従える長たちである。


 だが、その席に座っているのは五人…なぜか半分以下になっている。


『ふむ、ボルボにカシデュウス、ラフィットにソールド、

 それにミケーレとドゥキノクタまでいないが…

 いったいどういうことなのだ?』


 すると、一番若い黒騎士のジェノバがすっと手を挙げた。


「いや、なんかみんなで魔王様の手をわずらわせずに

 新人幹部発掘しようぜってことでサキュバスの森に入って…

 なんか長のサキュバス取り合って、彼女ごと全滅したみたいっす。」

 

 この発言にさすがに魔王は憤らざるを得なかった。


 なんのために定例会議を行っているのか、

 幹部たちはまるでわかっていないことが理解できたからである。


 定例会議、それは烏合の衆である種族同士の争いを避け、

 なおかつ勇者たちの進行を阻止するための会議である。

 

 そのための幹部を発掘するために全滅など、あってはならないことなのだ。

 

 …しかし、幹部が半数が死んでしまったのは事実だ。


 もう、糾弾できる相手がいない以上、

 この無益な話をしても意味が無い。

 というか、なんでエントまで死んでいるのか…。


 魔王はだめもとで、黒騎士に聞いてみた。


『…して、そのサキュバスの長には申し訳ない事をした。

 おわびのための伝言を伝えたいが、葬儀のほどはいつごろか?』

 

 すると、黒騎士は首を横にふった。


「いや、なんか無理っす。ドゥキノクタのエロじじいがくたばったときに多量の

 瘴気が発生して、森自体が新生物の宝庫になっちまって、聞いた話じゃあ俺ら

 はもちろんのこと、勇者自身も二十回ほど教会送りにされているらしいっす。」


 どうやら、はからずとも勇者の進行に歯止めをかける結果となったらしい。

 だが、それが良かったのか悪かったのか…。


 魔王はとほうにくれて周りを見渡した。

 そこには五人になった幹部の顔がある。


 …いや、私がしっかりしなければ勇者は倒せないのだ。

 たとえ幹部の大半がいなくなってしまったとしても

 するべき話はしなければならない。


 そうして、魔王はこほんとせきばらいすると、

 いつもの通り、定例会議を行うことにした…。






 

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