第2話 出会い

 「 いま、何時だろう… 」

 僕は黒いコートを着ている男の人を追いかけ始めてから初めて時間を気にした。僕が外をでてから現在に至るまで、2時間ぐらいがたったはずだ。 なのになぜか、お月様は動いていない。こないだ僕はお月様が東から西に沈み太陽が出て来ることを学校で習った。なのにその月は時間が経っても動いていないのだ。不思議に思ったが、僕はそのことに関しては特に気にしなかった。

 夜は静かえったままである....。

 すると、その瞬間、僕の耳に知らない音色が聞こえてきた。僕は不思議と驚きで声が出た。

 「 えっっ!? 」

 僕は慌てて口元をおさえ電柱の陰に身を隠し、しゃがんだ。心臓の鼓動がはやくなり額に汗が落ちる。すると僕の声が聞こえたのか、黒のコートを着た男の人は、こちらに振り返った。もちろんフルートは吹きながらのままである。その男は、どこか遠くをみているのかはわからなかったが、一点をじっとみつめ5秒ぐらい、つったっていた。だが何もないと感じ取ったのか、また前を向き歩き始めた。

 「  助かったーーー  」

と僕は心の中で安堵し、一度深呼吸をした。深く息を吸って吐き、自分の呼吸のリズムを取り戻した。僕は聞こえてくる音を聞くためそっと手を耳に置き、音に傾けた。音先はあのフルートの音色だろう。

 その音色は何とも言えないような不思議な音色であった。僕は聞いていると、不思議と身体が動きたくなるように心があったかくなり、ずっと聞いていたままでいたくなった。

 そして僕は気がついた。辺りを見渡すとありえない光景だったのだ。家や信号、感情をもっていないもの達、雲やお月様などが動いていたのだ。いや、リズムに乗っているといったほうが正しいのだろうか。さっきまでは、普通の家であったはずだし、信号や道路なども動いてなかったはずだ。音が聞こえだしたから、この景色に気づくことが出来たのかもしれない。もしかしたらこのフルートの音色が、自分だけに聞こえているのではなく感情がない者たちが聞こえていたのかもしれない。僕はそう思った。

 家や信号は上下に揺れており、雲やお月様はちかちかとテンポを刻みながら光っている。気のせいかもしれないが、優しく温かい風が僕を包み込み囁きかけてるようにも感じた。普通の人なら驚き固まってしまうかもしれないが、僕はそれを見て感動してしまったのだ。

 まるで楽しいパレードが開かれているようにも感じるし、どこか昔、聞いたことのあるようなおとぎ話の中にいるみたいで僕の視界は目を見開き輝いていた。僕はその世界観の大きさに圧倒されてしまい、いつにまにか隠れることを忘れ、道路の真ん中で立っていた。音を聞いていたはずだけなのに、無心で僕の身体は動いていたのだ。

 そして僕はあることに気が付いた。先ほどまで追っていた黒いコートを着ていた人の姿がいないのだ。音もいつの間にか消えていた。

「あれ? どこに消えたんだろう!!? 」

と僕は慌てだし、辺りをきょろきょろと見ながら探していると、ぼくの肩に優しく手を置かれたような衝撃が走った。

 僕は身体をビクッと震わせ後ろを素早く振り向いた。振り向いた先には、さっきまで追いかけていた男の人がおり、ぼくの肩をトントンとたたいてきたのだ。僕はさらに驚き、身体全体の向きをかえ、その人と対面するかたちをとって、後ずさりをした。

 「 そんなにびっくりしなくてもいいのに 」

と男は苦笑いのような作り笑顔で残念そうに言ってきた。

 僕は追っていた男の人の顔を初めて見た。さっきまでは、遠すぎていて顔がよく見えなかったからだ。僕がその人を見て思った第一印象は、「 思ったより若い人なんだな」だった。

 よく顔を見ると、年齢は20歳くらいで黒色の長いハットをかぶっている。髪は長めで片目は前髪で隠れており、服装は暗めの色をしていて、あまり見たことのない服装で童話にでてきそうな旅人の服を着ていた。遠くから見たら全身黒い恰好に見えたので、僕はてっきり40過ぎのおじいさんくらいだと思っていた。

 僕がそんなことを思いながら顔を見つめて口を閉じたままでいると、また向こうから話しかけきた。

 「 なぜか、今日は風や家たちがざわついていてね。なんのことかなと思っていたんだ。でも、その理由がわかったよ。君だったんだね 」

若い青年は、優しい笑顔で僕に言ってきた。

 「 でもどうして、君はここに迷い込んだんだい? 」

僕はその言葉に、疑問を感じた。

 「 迷い込んだ?? ( 僕は迷子になったつもりはない。僕はあなたを追いかけていただけで迷子にはなってはいないはずだ。 まぁ、帰れるかと言われたら、帰れるかは自信はないけど… ) 僕は夜の散歩をしていました。それに僕は君って名前じゃないです。僕は四宮務( しのみや つとむ )と言って、小学四年生10歳です!! 子ども扱いはしないでください 」

 僕が満足げにその言葉を言うと、その満足げな顔が面白かったのかはわからないが青年はくすくすと笑っている。

 「 ふふ、そうか、君は務っていうんだね。これからは務と呼ばせてもらうよ。でもね、務ここは君のような人が来る場所ではないんだ。ここは見た目は人間が住んでいる同じ場所のようにみえるけど違うんだ。ここはね、『時のはざま』という場所であり、時が止まっているんだ。だから普通の人間には、入ってきてはいけない決まりになっているところなんだ。 」

 「 ・・・・・時が止まっている!?!? 」

ぼくは意味が分からなさそうな顔でその言葉をつぶやいた。

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