第27話 クリエイターズ

「最近、ダンジョンでこの世界製の装備が増えてきたな」


 インターネットの通販サイトを見ながらラズル達は地球製の防具を研究していた。


「護身用具メーカーと服飾メーカー、それに海外の兵器メーカーが市場に参入していますね。ダンジョンは彼等にとって新しい儲け場所なのでしょう」


「防具の仕入れを調整したほうが良いか?」


 ラズルはこの世界の防具がダンジョンで広く流行すると、ガチャ防具の需要が大きく変動するのではと考えた。


「いえ、この世界の防具は火と刃物には強いですが、衝撃を防ぐ事はできません。モンスターの刃や爪を耐えてもモンスターの質量で骨を折る事例が多々あります。一部衝撃吸収素材が流通していますが、メンテナンスとコストの問題で一般に広まるには時間がかかるでしょう。なにより属性攻撃や範囲攻撃、そしてコスト面でガチャアイテムの方が圧倒的に有利です。更に言えば、この世界の個人が運用する兵器は攻撃力と防御力で考えれば、圧倒的に攻撃力が勝っています」


 ライナは一般的なボディアーマーや耐刃繊維などの情報を表示しながらラズルに説明する。


「転移門がこの国に開いたのは正解でしたね。この国では一般市民は銃を使う事が出来ません。もし銃を使用できる国にダンジョンを作っていたら武器の価値が大きく下がっていた事でしょう」


「じゃあ現状維持か」


「そうですね。定期的に新装備の配布と新しいダンジョンの稼動で対応できると思います。現状、この国が銃器の類を一般市民でも使える様に法を変えるとは思えませんから」


 ◆


 ラズルとライナがそんな事を話している中、ダンジョン内部では今正に新開発の防具の実験が行われていた。


「ではこれより新作防具の実験を行います!」


 一人の探索者がカメラを前に話し始める。

 彼等は生主と呼ばれる動画サイトの住人だった。

 カメラの前で話している探索者は、いかにも手作りのジャンバーを何層にも重ねたかのような分厚い防具を身に纏ってその性能を解説する。


「こちらのアーマーにはこちらの溶液が入っています」


 そう言って探索者はペットボトルに入った白いゲル状の物体を見せる。


「この中には片栗粉を水で溶かした溶液が入っています。……そうダイラタンシー現象です!! アルミ製のプレートを二枚貼り付けたお手製アーマーの間には、この片栗粉溶液がタップリ詰まっています。コレでモンスターの攻撃で受ける衝撃を吸収しようと言う実験です。ではいってみましょう!!」


 カメラが廻ったまま、探索者がダンジョンの奥へと進んでいく。


「うーん、なかなかいませんねぇ。これでは実験が出来ません。ですので、モンスターを呼び寄せるアイテム、モンスターホイホイを使ってささっとモンスターを呼び寄せてみましょう」


 最初からそうすれば時間の無駄にならないのにと思うだろうが、これは彼等のフリだった。

 あえてモンスターを探す事で動画の時間を調整するのと同時に視聴者の突っ込みというコメント数を稼ぐ作戦だ。ネットにアップする際はこのあたりは早送り画像として編集される。


「あ、モンスターが来ました! では攻撃を受けてみようと思います!」


 上層部の定番モンスターであるランナーリザードが、武器も構えず待ち構える探索者に爪で攻撃する。

 ランナーリザードの攻撃が探索者の不恰好な鎧に当たる。


「成功です! 痛くありません! ダイラタンシー現象凄い!」


 興奮する探索者だったが、ランナーリザードが再度攻撃を行う為に爪を引っ込めると顔色を変えた。


「あ、穴が! 鎧に穴が空いています!」


 ランナーリザードの攻撃を回避しながらカメラに向かって報告をする探索者。


「これでは実験になりません。てい!」


 探索者は腰に携帯していたスーパーレアアイテムの武器でランナーリザードをあっさり倒すと、カメラに向けて鎧に空いた穴を見せた。

 モンスターを一撃で倒せるからこその余裕であった。

 カメラがズームで穴をアップにして映す。


「どうやらアルミプレートが薄かったのが原因のようです。ですが反対側のアルミプレートはちょっと傷ついただけで貫通はしていません。使い捨て防具としてなら実験は成功といえるでしょう」


 探索者は一旦下がって倒したランナーリザードの横に立つ。


「では今回の実験は成功と言う事で終わりにしたいと思います。ご視聴ありがとうございました!」


 動画の撮影が終わると、いままで朗らかだった探索者が大きく息を吐く。


「ざっけんなよな。マジビビッたろうが。もうちっと厚い板を用意しろよ」


 彼はカメラを回していた探索者達に文句を言う。


「そーいう動画なんだから諦めろよ。コレはホームセンターや百均とかで普通に手にはいる素材で作る武器防具で戦うのが趣旨なんだからさ」


「こっちは命がけなんだよ。武器ならともかく、防具はマジやばいってーの。一応内側にダンジョンの布系防具を着込んでるけど、コイツ等防御力低いんだからよぉ」


「けどその分再生数はめっちゃ上がってるし。広告料でもけっこう稼げるぜ」


「ちゃんと危険手当寄越せよ!」


「わーってるって」


 彼等は、ダンジョンで撮影した動画で広告収入を得る探索者達である。

 ガチャで得られる利益だけでは分け前が安定しない為、自らを見世物にして金を稼ぐ副業を行う彼等は、新時代の芸人と言えた。

 事実、ヘタなTV番組よりもダンジョンを題材にした動画は視聴率が良かった。

 TVでは倫理面からクレームが入る事を恐れて出来ない行為も、彼等は易々と飛び越えるからだ。

 アマチュアだからこそ出来るリスクマネジメントである。

 危険を理解できていないだけとも言えるが。


 ◆


「この世界の人間は別の意味で命知らずだなぁ」


「その人達、回復アイテムと復活アイテム、それに隠蔽製の高い防具を買い込んでますから」


「ああ、そういう」


 ラズルは納得した。万が一大怪我をしても、それを治す対策がしてあるのなら危険に身を晒して金儲けを繰り返すのも理解できるからだ。

 そして防御力とレアリティの低いアイテムも使いようだなとも感心した。


「まぁ俺はこんな稼ぎ方はしたくないけどな」


「私がさせません」

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