セヴン・ワンダーズ

小雨路 あんづ

豊穣の獣神

 ある時、天の山より怪我した獣神いぬがみがこの地へと降り立ちました。怪我した獣神に駆け寄り手当てをしてくれた村娘に、獣神は一目惚れをしました。此度の戦争と貧困を嘆く村娘に、獣神は厳かに言い放ちます。


あるじ、あなたが望むなら私がこの戦をなくしましょう」


 戦国の世、血で血を洗う戦に獣神は身を投じ、1年足らずで戦を治めて見せました。その時の武功により、獣神は国より1つの山と降り立った村のあるわずかばかりの土地をもらい受けたのです。


 疲弊しきった大地、やせ細った川、枯れた泉、実らぬ作物。不作にあえぐその村へと降り立った獣神は、哀れみその土地の砂をひと握り手に取りました。そうしてその砂を撒きながら、たった1つの言葉をはいたのです。


「我、この地をここより恵みの大地と名付けよう」


 たったそれだけの言葉で。

 見る見るうちに木々は緑豊かに生い茂り、川は隆々と流れ、清水が泉を満たし、作物はたわわと実りました。


 それからは山を掘れば金銀鉱石が採れ、土を掘れば温泉が湧き、まさしく恵みの土地となったのです。


 その後獣神は手当てをしてくれた村娘を嫁にとり、子孫たちに囲まれて深い黄泉への旅路へとついたそうです。


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