第14話 プレゼント編 加速する勘違い

 竜二は逃げるようにログアウトした後、ゴルキチで誰もいないことを確認してからリベールでログインする。皆が頑張って作ってくれたものなので無下にするわけには行かず、引越しボタンを迷った末にクリックし例の南国風洋館へ移動する......

 改めて純白の桟橋の前まで来ると、思わず足がすくんでしまう。ボロアパートに住む人間がデザイナーハウスに住むようなものだ。望んでデザイナーズハウスに住むわけではないから尚更場違い感を感じてしまうリベール。


 純白の桟橋を抜け、白に薄い茶色のレンガで彩られたアーチを抜けるとマホガニー製のような洒落た扉がある。取手は花をあしらった黒い鉄製だった。その扉を開け中に入ると二階までの吹き抜けになる大きな空間があり、中央に睡蓮をイメージした花が描かれたテーブルに、背もたれに意匠を凝らした椅子。

 左手には暖炉があり、右手にはインベントリーが並ぶ。インベントリーも違和感がないように、薄い茶色のタンスになっており、この洋館にマッチしていた。奥には二階へあがる階段があり、この階段もまた白のしゃれた階段だった。


 うああああああ。リベールは心の中で余りのオシャレな雰囲気に圧倒されている。これだと落ち着けないよ。

 二階もチェックすべく、階段を登ると自室と書かれたプレートが掛かった扉があったので開けてみると......


 ファンシーなピンクの部屋だった......天蓋付きのピンク色のシーツにベット。可愛らしいアヒルっぽいぬいぐるみがファンシーな棚に置かれ、床にはイルカのラグが敷いてある。衣装タンスのような薄紫のタンスを開けてみると、中には服がギッシリ詰まっていた。

 リベールは、すぐさま見なかったことにして閉じる。


 ハアアアアア。俺にどうしろと。無理だ。スループ船を横付けしてアイテムを取るときだけ大広間に行こう。二階はダメだ上がってはいけない。

 そう決意するリベールこと竜二であった。



一方その頃......

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[お家渡したよ!]少女騎士リベール その174ぺったん


254.名無しのジャッカル

ミッションコンプリートだ。諸君。


256.名無しの魔法少女

リベールさんの反応が可愛すぎて、心が苦しい。


258.ぺったんマスター

詳しく!!


259.名無しのドラゴン

詳しく!


262.名無しのテイラー

いや、こんないいものを貰うわけには......と戸惑った後、藁葺屋根の自宅を主張するも、私たちの押しに最後は受け取ったんだけど、最後の最後で素に戻ってたw


265.名無しのバスター

いいものを作れてよかったよ。


266.名無しの家専

皆頑張ったしなあ。


268.名無しの魔法少女

こんないいもの貰えないよーって言って走り去ったw可愛い!!


271.ぺったんマスター

本当に中の人、狙ってんのか!それでも悶えちゃう僕ちん。悔しい!


285.名無しのジャッカル

みんなにお礼と置いていったアイテムなんだが、「天空王」素材20匹分だ。


286.名無しのバスター

なんだってーーーー


287.名無しのドラゴン

うはー。レアもあるの?


291.名無しのジャッカル

ああ、あるぞ。なぜか10個もあるw


293.名無しの家専

それは、土地代はともかく材料費以上にはなるなあ。


295.名無しのテイラー

せっかくだし、みんなで分けましょう。


296.ぺったんマスター

リベールたんからなら、どんなものでも嬉しいぞー。

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――木下梢ことメイリン

 リベールたん、気に入ってくれたかな。衣装タンスぎゅうぎゅう詰めになるほどデザインした服を想像しながら木下梢は、ほうと息を吐く。

 ゲームのキャラクターなのだから、体型は自由に設定できるはずなのに何故か「ぺったん」を恥ずかしがるリベールを思い出し彼女はクスっと少し微笑むと、リベールに準備した「胸」がなるべく目立たなくなるような服をいくつか想像する。


 しかしリベールたんは、不思議なプレイヤーだ。妹からリベールたんのようなキャラクターはロールプレイキャラだと聞いた。ロールプレイキャラとは、その世界の人間になりきってプレイする人たちのことを指す。リベールは「王に仕える騎士」として「王命」を受け行動している、という設定らしい。

 らしいというのは、直接リベールたんから聞いたわけではないからだ。

 そう聞いていたとしても、木下梢は接すれば接するほどリベールたんは、本当にゲーム世界の住人なのではないだろうかと思ってしまう。

 ドラゴンバスターオンラインの表現力に限界はあるので、細かい仕草やモーションは自由に取ることはできないが、リベールたんが今どんな動きをしてどんな仕草をしてるのかが想像できてしまうのだ。

 それほど、リベールたんのセリフや動きにプレイヤーらしさはない。


 ふと今日のリベールたんの最後のセリフを思い出す梢。


「あ、ありがたく受け取せてもらうよ。で、でもこんないいところ住めないよ」


 このセリフだって、彼女は本当にプレイヤーなのかと思ってしまう。前半は彼女の「騎士」としての口調だが、後半の「ただの娘」としての口調まで再現できるものなのだろうか?

 素に戻ったように見える後半のセリフであるが、騎士としての皮が剥がれ、ドラゴンバスターオンラインに住む一人の娘としての後半に聞こえてしまう。

 本当に不思議な人だなあ。リベールたんって。まあ、可愛かったからよし!とぐっと拳を握る梢。


「姉さん、どうしたのー?ぼーっとして」


 ニヤニヤと話しかけてくる妹。勝手に部屋に入って来ないでもらいたいとため息を付く梢であったが、言っても無駄なので言わない。


「まさかー。ゴルキチさんのことを考えてた?」


 どうしてそこで、後輩の名前が出る?と不思議に思った梢。


「いや、全く」


「えー。同じ趣味を持つ先輩と後輩!いいシチュじゃない!」


「茜にもいるんじゃないの?同じゲームやってる男の子くらい」


「いるにはいるけど......あまり一緒にやりたくないなあ。ゴルキチさんやジャッカルさんみたいなら大歓迎なんだけど!」


「......さっきね。リベールたんのこと考えてたの」


 妹-―茜の言葉を軽く流して応じる梢であったが、リベールのこととなるとすぐ妹は食いつくことは分かっている。ほら、顔を輝かせて食いついてきた!


「リベールさん!リベールさん私の作った家具気に入ってくれたかなあ。イルカとアヒルは力作よ!」


「あ、あれ、リベールたんのイメージと合わないと思うんだけどなあ」


 茶色の長い髪をガシガシとしながら、困った顔の梢に、茜は動じない。


「わかってないなあ。姉さんは。ああいう騎士!!って人ほど、可愛いものが案外好きなんだって」


 ほんとかなあ。と疑う梢の目を気にもせず、茜はリベールの妄想世界へと入っていってしまった。 「うふふ」とか「ぐふふ」とか「くふーー!」とか横から見てるとかなり怖いので自分の部屋でやってくれないかなとあきれる梢であった。


※竜二も酷いが、周囲も酷い。

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