第12話 プレゼント編 ここまで嬉しくない一つ上の女性先輩からの誘いはかつてなかった

 姉は妹が連れてきた人物を二度見する。

 あれはあの時の動画の少女だ。確か名前はリベール。凛とした切れ長の目を持つ彼女の服装は薄い青色のセーラー服だった。あの時の騎士風とは似ても似つかぬ姿とは言え、あの時感じた秀麗で静寂な雰囲気は感じ取れる。


 魔女帽子に姉がデザインしたトラ柄ビキニを着る妹は、姉に囁く。


「お客さんになんとリベールお姉様が!」

「えええ、セーラー服も超グッドよ」


 姉はそう答え、再度リベールを観察する、舐めるように。ちょっと見すぎたか、若干恥ずかしがっているように見える。

 そう思ったとたん、姉の妄想は加速する。普段騎士風のリベールたんが、セーラー服を着て恥ずかしがってる!水着ならさらに恥ずかしがるんじゃないだろうか。

普段の凛とした冷たい表情の彼女の顔が変わるのを想像してにやけてしまう。うふ、うふふ。


「リベールたん!まさか会えるなんて!どんな水着がよいの?よいの?」


 つい興奮して、言葉が被ってしまった。


 これが彼女とリベールの最初の出会いだった。

 その後、いざイベントが始まると「大海龍」を呼ぶアイテム「法螺貝」の入手確率が非常に低いと妹から聞かされ、運良くリベールに会う事が出来たので、手伝いといいながらリベールを観察することができ、非常に満足した毎日をすごすことができたのだ。

 妹には感謝してもしきれない。


 姉はふと気になり、リベールがどんな家を持っているのか聞いてみると、一番小さな藁葺屋根の家だという。

 藁葺き屋根の家は運営が準備した中でも最も簡素で規模が小さい家だ。リベールが住むには似つかわしいとは思えない。


 そうだ!


 いいこと思いついた!と姉はニヤける顔を押さえ掲示板に書き込むことにした。


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[王命ではない]少女騎士リベール その165ぺったん


4.名無しのテイラー

おっす!突然だが皆家つくらない?


5.名無しのジャッカル

>>4

どうした突然www


7.名無しのドラゴン

あれか、リベールたんのためにお城でもつくるのか?鬼畜王の城ww


10.名無しのテイラー

違う違う。リベールたん、未だに藁葺屋根の家じゃない?私たちから新しい家をプレゼントしたいなーと。


12.名無しのバスター

>>10

おお、それは名案だ!普段これだけリベールたんネタで遊ばせてもらってるからお礼にはいいかも。


13.ぺったんマスター

知り合いの家専に頼むよ!


15.名無しの家専

呼んだ?


17.名無しのジャッカル

建築家きたーーーーー!!


18.名無しのドラゴン

お主、見てたな

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 こうして、リベールの知らぬところで、「ドキ!リベールたんへのプレゼント大作戦」が実行されようとしていた。



 プレゼント大作戦が提案された翌日、竜二はいつものごとく会社に勤め、昼は珍しく同僚たちが外勤でオフィスにいなかったので一人お弁当を食べていた。

 スマートフォンでドラゴンバスターオンラインの公式サイトを閲覧しながら、行儀悪くモグモグしていたら、後ろから女性の声がかかる。


「やっほー。竜二くん」


 竜二に声をかけたのは、隣のウェブデザイン課に勤める一年先輩の木下梢(きのしたこずえ)だった。

 木下梢は、明るめの茶色の髪を後ろで留めた髪型の少しタレ目が特徴の女性だ。彼女は親しみやすい先輩として有名で、年下の後輩を名前で呼ぶ特徴があった。


「ちはっす。先輩もお昼ですか?」


「そうだったんだけど、竜二くん、デートしない?」


 いきなり脈絡がない言葉にお茶を吐き出してしまう竜二。で、デートっていきなりなんだんだ?と竜二がアタフタしていると、木下先輩は竜二のスマートフォンを指差す。


「ドラゴンバスター、やるんでしょ?」


「え、ええ。少し」


 少しなんて真っ赤な嘘である。どっぷりだ。


「そこで、デートしよ!」


 それはデートって言わねえよ!と内心突っ込みを入れる竜二だったが、先輩に向かって失礼なことは言えない。こういったネットゲーマーはリアルで話ができる人間を常に求めている。俺だけじゃなく、他のネットゲームをやってる友人もそうだ。

 やはり好きなゲームをプレイする者同士、酒でも飲みながら語り合いたいものだ。

 木下先輩からデートという言葉を聞いてドキっとしたが、全く脈がないことが分かると却って冷静になれた。


「わ、分かりました。どちらで待ち合わせしますか?」


「今晩ジルコニアの銀行前に夜22時ね!私のキャラクター名はメイリン」


 メイリンだってーーーー!それ俺のたった三件のフレンドリストの一人だ!すでに遊んでますよ先輩と、竜二は心の中で突っ込みを入れる。

 そして躊躇なく本日の夜を指定してくる先輩。やりこんでるなあ、イベントでは確かに毎日いたし。


「分かりました!行かせていただきます」


 知らぬふりで答える竜二。今晩バレるのは確定してるのだが。


「たのしみー」


 後ろにハートマークが付きそうな声色で、先輩はそれを告げると外勤へ行ってしまった。

 竜二は世間の狭さに呆気にとられるのだった。


 帰宅後、竜二は頭を抱えていた。木下先輩がメイリンだったとは......船上で一緒に釣りをしてる時でもリベールがいなくなると、リベールのことをたまに語っていたからなあ。


 あの時はリベール話で皆が盛り上がってきたらログアウトという手段があったから、心がささくれ立つ前に逃げることができた。

 心を鉄にして動揺しないよう行くことを決めた竜二は、意を決してゴルキチでログインする。


 すぐに港町ジルコニアに向かい、指定の銀行前へ......銀行前の大木の下へ座り込むと先輩ことメイリンを待つことにした。

 ゴルキチは、メイリンが一応ログインしていないかチェックするとまだオフラインであった。

 1600年頃のリスボンだったか、こういった石畳と大きな木のある広場ってよいよなー。

 抜けるような青空もまた格別だなどとボーッと景色を見ていると、赤毛が特徴的な星型メイクを目元に施した派手な女性キャラクターがやって来る。


「メイリンさん、どうもです」


「ゴルキチくんじゃない。ごめんねー今から待ち合わせなの」


 すかさず、テルチャットへと切り替え、ゴルキチはメイリンへチャットを送る。


<いえ、先輩。俺っす>


<えええ。ゴルキチくんだったの!世間は狭いわー>


<ほんと僕もそう思いますよ...>


 悪い意味でだけどね。とゴルキチは心の中でそう呟く。



 広場は人が多く話をしづらかったので、彼らは港の外れまで移動しゆっくりと会話することにした。


「でね、ゴルキチくん、家をみんなで建築しようと企画してるわけなんだ」


「でねって!だけじゃ意味が分からないんですが!俺にも手伝えと?」


「リベールたん、君も知ってるよね?彼女はさ、未だに藁葺屋根の家に住んでるのよ。でねでね、お家をプレゼントしようーって企画してるの」


 余計なことをしないでくれえええええええ。いいんだ、藁葺きで藁葺き最高じゃないか!と言いたいところだが、心の中だけに留める竜二。言いたいけど言えない。


「そ、そうですか。り、リベールさんの家を」


 乾いた笑い声が出るゴルキチこと竜二。ハゲたゴルキチの頭がキラリンと反射するも哀愁を誘う。


「せっかく一緒に遊んだ仲なんだし、彼女そういうの興味ないかもしれないけど......」


「わ、分かりました。手伝います!」


 こうして竜二は、ゴルキチで家建築を手伝い、リベールに渡すというやり切れない作業に参加させられることになったのだった。南無。


※ありがた迷惑とはこのことである。

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