第6話 ファーマー編 一揆事件

 ダメだ。これはキツイ。


 革ジャンの作成元素材を調べた竜二はため息を付く。なぜなら、革ジャンゲットに必要な素材は、難易度9「翅刃の黒豹」から低確率でドロップとのことだ。かつて溜めた豊富な資金で買うこともできそうだったが、ジルコニアのバザー街に出てリベールの話題を聞くのは嫌だ。

 ならば自力で取るしかないわけだけど、ファーマーでボス狩りか...確かに運営は「どの職業でもボス討伐できる!」と謳ってはいるが、ファーマーの攻撃力と防御力を分かってるのか?特に防御力なんて服しか着れないから、「翅刃の黒豹」なんぞに挑もうものなら、カスっただけで即死だぞ。


 いや、待て「どの職業でもボス討伐できる!」だよな?なら手はあるかもしれないのか。試してみるか。


 竜二はゴルキチでログインするとルパーンを見つけ出し、こう告げる。


「ルパーンさん!革ジャン見ました。一度翅刃の黒豹に挑戦してみます」


「えええええ、ゴルキチさん。私たちファーマーですよ?」


「運営は「どの職業でもボス討伐できる!」とデカデカと書いてるんです。きっと何とかなる方法があるはずですよ」


「わ、分かりました...」


「いい方法が見つかったら、皆さんで狩りに行きましょう!」


「え、ええ、期待せずに待ってますね」


 これは心からどうにもならないという態度だな。見ていてくれルパーンさん。久しぶりにボス狩り魂が燃えてきたんだ。


 一度火が付いた元廃人の熱意は並々ならぬものがある。

 竜二はさっそく、「翅刃の黒豹」に挑み、何度も何度も実験を繰り返す。「翅刃の黒豹」に挑んでいると、ファーマーが!と少し注目されていたが、気にもとめず「翅刃の黒豹」の研究に没頭する竜二。


 武器は最高強化であるレア度8漆黒のクワを持って殴ってみたが、ダメージが微々たるものしか入らない。当たり前だが、一撃もらうとどんな攻撃でも即死だ。

 このままでは話にならないので、次はスキルに注目してみる。

 ドラゴンバスターオンラインではどのボスでも、最初未発見状態からスタートする。そして、こちらを発見すると発見状態に移行する。移行から1秒間は攻撃も防御もしてこず、身動きもしない。これをドラゴンバスターオンラインでは、硬直と呼んでいる。

 ファーマーの「かかし」スキルは当初使えないと思っていた。雑魚モンスターに発見された後使用することで、未発見に戻すスキルと思われていたからだ。

 実は、ボス戦においては効果が違う。ボスの場合は、発見された後すぐに「かかし」スキルを使用しても効果が発揮されない。だから今までは雑魚だけに効果があると思われていたが、実はそうではない。


 「かかし」スキルは、発見済みボスモンスターの視界から外れ、1秒以上経過後スキルを使用することで、未発見状態に戻るスキルだったのだ。


 「かかし」スキルの効果を発見した後は、発見時のボスモンスターの硬直を利用し一発入れる。入れたら即ダッシュで逃げて、「かかし」スキルを使い未発見状態に戻す。これを繰り返すことで「翅刃の黒豹」であっても倒し切ることができるはずだ。

 しかし、逃げることは困難を極めた。「翅刃の黒豹」と「かかし」スキルの相性がとんでもなく悪かったのが困難の原因だ。「翅刃の黒豹」はスピードスターと呼ばれるボスの一つで、ゲーム内最高のスピードを持っている。その分攻撃は軽めなのだが、即死するのなら攻撃力が軽かろうが重かろうが変わらない。

 硬直時間内にはどれだけダッシュしても、視界外まで逃げることはできないため、後ろから追いつかれ即死する。


 何度も何度も逃げているうちに、一発入れるときの角度と、逃げる角度、そして地形の傾斜を利用することで確実に逃げれることが分かった。傾斜はどんな傾斜でもいい。傾斜が付いていることが重要だ。

 確実に逃げれるようになれば倒せると思ったのだが、攻撃力の低さと一発入れて離脱では数時間かかっても倒すことはできなかった。半日くらいやれば倒せたのかもしれないが、気力が持たない。


 そこで活躍したのが、「農薬」スキルだ。「農薬」スキルはキラープラントを倒すときのように、毒薬をバラマクことができる。「翅刃の黒豹」にも毒薬の効果があることが分かり、ついに竜二は「翅刃の黒豹」を倒せる目処が経った。



 あとは実践のみだ。やり方さえ分かればそう難しいものでもなく、竜二はようやく「翅刃の黒豹」の討伐に成功した。討伐までの時間は2時間...




「ルパーンさん、やりましたよ!「翅刃の黒豹」を倒しました!」


 嬉々としてルパーンに報告する竜二にルパーンは驚愕する。しかし竜二は忘れていたのだ。革ジャンの素材は「翅刃の黒豹」から「低確率」でドロップすると。もちろん、先ほど倒した「翅刃の黒豹」からは該当素材はドロップしない。


「やり方はそう難しくはないです。練習モードで教授しますので、ファーマーの皆さんを集めてもらえますか?」


 この後、集まったファーマー達に攻略方法を伝える竜二。全員が開いた口がふさがらないようであった...


そして週末、後々「一揆事件」と呼ばれるファーマー軍団による「翅刃の黒豹」狩りがはじまる!

困惑する戦闘職を尻目に、次々と「翅刃の黒豹」に突入するファーマー軍団。長時間かかるものの、確実に「翅刃の黒豹」を退治していく。

革ジャン素材の取得もすぐだと思われた矢先、とんでもないことが公式サイトで発表される。


"農薬スキルの不具合について"


ファーマー軍団による「翅刃の黒豹」狩り翌日のことだった。

農薬スキルは本来植物系モンスター以外には効果がないスキルとして設定されていたらしい。ファーマー軍団が「翅刃の黒豹」を「農薬」スキルで作成した毒薬で倒し切ったことを受け運営は不具合と判断。


即座に「農薬」スキルで作成した毒薬は「翅刃の黒豹」に効果がなくなってしまった。これに憤るファーマー軍団は引退者を出すほどの事態に陥るが、元々狩りにそれほど興味のある者たちは少なかったので次第に沈静化していく。


 これに収まりがつかなかったのが竜二だ。毒薬無しなら以前試した。毒薬無しでは半日以上かかるかもしれないと判断したため、毒薬をわざわざ試したのだ。


 何が「どの職業でもボス討伐できる!」だよ!


 倒せたら即修正でご破産とかありえない対応だ。運営よ。そっちがそのつもりならこっちにも考えがある。

 そっちがそのつもりなら、俺にも考えがある。「翅刃の黒豹」の素材をバラマキ、革ジャンを無価値なものにしてやる!


 暗い顔でフフフと不気味な表情になる竜二にはもう迷いはない。

 黒歴史であっても!

 恐怖の対象であっても!


 俺は奴を起動させ、マクロを作成する!

 見ていろ運営。ハハハハ、ハハハハハ!

 竜二は壊れた笑い声を上げ続ける。もはや狂人のそれに近い笑い声は、数分続いたという。


 マクロ制作開始から一ヶ月。ついに竜二はマクロを完成させる。もちろん、「翅刃の黒豹」専用のマクロだ。

 それもただのマクロではない。見ていろよ運営...


 余談ではあるが、マクロ製作中の一ヶ月間竜二は欠かさず畑の手入れをしていたし、キラープラント退治も行っていた。暗い気持ちになりながらも、ファーマー生活は満喫していたのである。

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