僕と天使の彼女~どうしてぇ僕が女の子にィ!?

光山都

第1部

Ep:1「その日、僕は天使に遇った」

……その日、僕は美しい白銀の長い髪と翼を背にした真紅の眼をした可愛い少女に出会った。

この出会いが僕の日常の全てが変わる時だと今でも思う。

色んな出来事が起きた。

…落ちこぼれと他の者から呼ばれていた。そして僕の全ての始まりとなる天使の少女。

…僕にとって唯一の肉親である、世間では天才と呼ばれる変わり者であり兄ラブである妹。

…僕が高校に上がって以降、疎遠になっていた幼馴染の少女。

…その他にも沢山の出会いと出来事に僕は見舞われることになった。


信じられない摩訶不思議な出来事を僕は彼女達と共に1年体験した。

大変だったけど……僕は、正直に『楽しかった』と声を上げて言える。

僕はそんな楽しいと思わせてくれた彼女に感謝する。

面だって言うと調子に乗るので言わない。

けど……心から僕は、彼女に『感謝』を告げたいと思う。


……えっ?僕とその彼女との出会いを聞きたいの?

…恥ずかしいから、あまり語りたくないんだけど。

まあ、いいかな。……そうだなぁ、まずは僕達の出会いからかな。

うん。あれは……――


=====


高校2年に進級して一月経った5月のある日曜日。

僕はその日、僕にとって唯一の肉親である変わった妹の御願いの為、1人、食料品から娯楽品、電荷商品まで扱う駅前にある4階建てのデパートにまで足を運んでいる。

買い物とか、妹と違い外に出るのは特に苦手という事もないので、寧ろ好きだからこそ御使いに出るのは特別問題ないんだ………唯一つ僕の着ている服以外は。


僕の家族は現在二人だけ。

僕と妹の2人で暮らしている。

僕達の産みの親である両親はいない。

別に死別した訳ではない。あの両親は…両親だった者達は、僕が中学3年(来年高校に進学する時期)、妹が中学2年(自分の趣味に没頭して殆ど学園に行かず引き籠っていた時期)に、僕達を置いて行方を眩ませた。

両親だった父と母は、正直子供の僕達にも理解出来るくらい夫婦仲が良くなかった。正直2人共僕達子供にそんなに関心を向けてもいなかった。なんで産んだのだろうか?と思うくらいだった。

あとから知ったけど、2人にはそれぞれ愛人がおり、2人共恐らくその愛人の所にでも行ったのではと思う。

とにかくあの二人は子供である僕達を捨て消えた。

僕と妹はそんな2人に興味は無くいつもの生活を送った。

正直『なぜ何も言わずに消えたのか?』なんて知りたいとも思わない。

『そうか…やっと居なくなったんだ』くらいにしか思わなかった。

それくらい僕達との確執があった。


その後、両親だったあの人達が失踪した後、ちょっと面倒だったかな。

両親が蒸発したのを何処からか知ったのか、親類戚から何度も僕達(と言うより概ね妹に対して)に『一緒に暮らさない?』と打診された。無論僕達はその打診を拒否し続けた。

親類共の目的は妹の、ゆうの類まれなる才能だったのは明白だったから。


僕の妹の名前は榊原優さかきばらゆう

巷では優を天才少女と呼ばれている僕の一つ年下の妹。

優は頭が良く才能に溢れている。1を知れば10を知る如く知識を得る。

特に、優は化学、数学、芸術といった分野にて幼い頃より発揮していた。そして幾つかの作品には特許を取っていたり、賞で表彰されたりしていた。当然、評価に応じた報奨金も得ており、数年経った今では優の資産は億になるくらいの金額を所有していたりする。

消えた両親も優のお金に頼っている部分が大きかった。

もっとも、優は重度の引き籠りで、外に出るのを極端に嫌っている。

本人曰く…『外なんて面倒です。家には兄さんがいますので、お家さいこー』とか言うくらいである。欲しい物は基本ネットで購入するので出歩く必要もない。

ただ…ネットでは手に入らない物に関しては電話で予約して僕が代理で受け取りに行く事になっている。


『それくらい自分で行ったらどうだい?』と言えたらいいのだが、僕達が暮らす家の家賃や、僕が昨年より通っている高校の学費等は優が出してくれているので強く出れないのだ。

そして今日も優の代理で荷物の受け取りに来ているのだ。


僕としては、さっきも言ったけど、買い物とか散歩が好きなので問題はない。

問題ないのだけど………

1つ……

妹の優には困った趣味があった。

その趣味こそが、僕の今の格好に直結しているのだ。

そして、この優の困った趣味が原因で、僕は性別が変わり…

そして、僕が彼女との初めての出会いを齎す事になるのだった。



「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしていますね。……はぁ~いつ見てもやっぱり可愛いわぁ♪」

「ハハ、ありがとう。また、ハハ………ハア~」


僕は優の荷物を受け取ると引き気味に笑みを浮かべつつフロアを後にする。

僕は見えないところで溜め息を付く。

今更ではあるが『可愛い♪』とか言われても、正直喜べない。

まあ仕方ない、と思い自分を納得させるしかない。僕を知らない人から見たら確かに可愛いと言われてしまう姿をしている。

男である僕だが、僕は顔立ちが女顔でよく揶われたものである。

髪は真珠の様な黒で背中に掛かるほど長い。この長い髪も揶いの原因だった。

僕も流石に伸び過ぎと思い髪を切ろうと思った事があったのだが、優が、『何を言っているのですか兄さん!そのような綺麗で美しい髪を切るなど神が許しても私が許しません!切ると仰られるのでしたら私は丸坊主にします!』と意味の解らない脅し文句で止められた。

結局今ではこんなにも長い髪になってしまった。平日では首の後ろで纏めている。現在はそのままの自然なストレートである。

瞳はパッチリしており何処か優しい雰囲気があると言われる。

体付きは、僕はあまり運動しても筋肉が付きにくい様で腕も足も腰回りも細い。妹の優や高校進学まで親しかった幼馴染の少女からよく羨ましいと言われた。……そう羨ましがられても困るのだけど。寧ろこの体は僕のコンプレックスだったりする。

身長も163cmと同年代では小柄な方である。


優の荷物を左腕で抱えながらデパートを出ると帰りの道を歩いて行く。

今日は優からの御使い以外は特に買う物もない。食料品の類や消耗品は昨日のセールで沢山購入していたので必要ない。


「…ハァ~致し方ないんだけど、やっぱり気が滅入るなぁ……」


僕は深めの溜め息を付く。

こうして歩いていると、周囲から視線を向けられるのを感じるのだ。その視線からは熱の籠った感じを受ける。大半が同性であるはずの“男”から向けられたものである。

何故かと言えば、今の僕の格好が原因なのだ。

今の僕はフリルの付いた半袖の白の女性服に膝の上くらいの長さの紺のスカートを纏っている。

胸にはパットが入っているので、視線を下にすると服からは盛り上がりが見える。

……うん。僕は男だ。なのに、こんな女性服を身につけたりパットを居れたりしている。無論僕の趣味でも自分の意思でもない。これが自分の意思なら少しは羞恥心もなく行けると思うが残念ながら違う。

この女装は、優に”御願い“されたから渋々行っているのだ。

この女装こそ優の困った趣味なのである。

兄である僕を女装させて、羞恥に悶える様子を見るのが好きなのである。

性格には僕が困った表情を浮かべるのが好きと言う、困った性質を持っているのだ。


運良く?か男からナンパの声も掛けられる事なく、それでも嫌な視線は感じながらだが十字の横断歩道に近付く。


「……ふう~、どうやら今日は特に絡まれる事なく家まで付きそうだな……ん?…綺麗だ……」


思わず『綺麗』と呟いた僕の眼には1人の少女の後ろ姿が映った。いや、その姿に目を奪われたと言ってもいい。何だかその後ろ姿に普通とは違う神秘な物を感じ取ったのだ。

この国の人間の殆どが黒もしくは茶色の髪が一般的だ。だからかな。僕はその少女の光に反射するかのような綺麗な銀の僕より少し長いストレートの髪だった。他では服装だな。その少女が身に纏っているのは所謂ドレスに分類されるであろうものだった。普通一般でこのようなドレスを着て歩いている人はほぼいない。

コスプレ?ってやつなのか?と僕は思った。コスプレなら大胆だなぁと自分がしている女装を棚に上げて思ったりした。


「えっ!?何してるんだ、あの子!?」


僕は慌てた。

何故ならその銀の髪の少女は赤信号であるにも関わらず、まるで気にする気配もなく歩いて行くのが視えたからだ。そして、更に対向車線から一台の車がその少女に迫るのが分かったからだ。

どうしてか、周りにいる人はそんな少女を誰も気にする様子がなかった。まるでそこには誰もいない。もしくは視えてないとでも言うかのように。

気付いてるのは僕だけ。そう思うと僕はその場を駆けていた。

あの子を。あの銀色の綺麗な少女を助けるために。


「そこの銀の髪の人、危ないっ!」

「ん?銀の髪って……えっ!?」


僕の声に反応し、僕の方に振り向く少女。その少女の表情には驚きが映っていた。

周りも急に掛けた僕に向かって驚きと慌てた声で叫んでいる。僕は気にせず駆ける。

その振り向いた少女を見て、僕は「やっぱり綺麗な人だな」と思いつつ、彼女をクラクションが鳴り響き迫り来る車から遠ざける様に突き飛ばし助けた。

見事に僕は迫る車から銀の髪の少女を助ける事に成功した。その代償に、僕が迫っていた車に引かれる事となった。危機一髪だった為自分まで安全な状態で回避までは出来なかった。


凄い衝撃だった。僕は数メートル吹き飛ばされ仰向けに転がった。

全身が重く痛みで動けない。

僕は痛みの衝撃からここで死ぬのかなと、優を悲しませるなぁと思いながらで居ると誰かが僕の傍近くにいるように感じた。

僕は薄れいく意識の中、視線を向ける。

僕は眼を見開いたと思う。だって僕の眼にはこの世のものとは思えないものが映っていたからだ。


「……うっ…天、使……」


そう呟いた僕の意識はそこで止まり眼を閉じた。

僕が最後に見た者。

それは長い銀の髪に赤い瞳、そしてその背には普通の人間には存在しないはずのもの、まるで絵画とかに描かれているかの様な白銀の天使の翼をした綺麗な少女の姿だった。




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