フェーズ:003『ナニワの名物ドライバー』

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Title:『ナニワの名物ドライバー』


ワシの仕事はタクシーのドライバー。

今日も陽気に天下茶屋を走りまわるで!


「運転手はん、急いで梅田まで行ってくれるか?」

おっと! 早速客や!


「はいな、乗っておくんなはれ!

 抜け道やったら、誰にも負けまへんで!」


「頼むで、運転手はん!

 時間に間におうたらチップはずむわ!」

お客はんの笑顔や感謝の言葉に支えられ30年。

無事故無違反でここまでこれたのが、ワシの誇りや。

せやけど最近、ちょっとした悩みがあるねん。


「今日もあの子、おるんかな?」

夕暮れ時の梅田駅前交差点。

走りなれた通りを走っとったら、

制服姿の女の子が飛び出して来よった。


「うわっ! あぶなっ!」

ハンドルを切って急ブレーキを踏む。

ほなら、通りの真ん中に佇む女の子が

寂しそうな顔をしてワシをじっと見つめた。

やっぱり、いつもの子や……。


「自分な、何度言うたらわかるんや?

 こんな真似したらあかん!

 なんぞつらいことがあるんやろうけど、

 いつかほんまに死んでまうで!」

窓から顔を出し、女子高生をしかりつける。

夕日に照らされた顔が寂しげで、胸がしめつけられる。


「おっちゃんで良かったら話を聞いたるさかい、

 いつでも会社においで。」

社名が書かれたフロントドアをポンと叩いて笑いかける。

ほなら女の子はコクリと頷いて、

歩道の向こうへと消えていった。


「急に止まって、すんまへんでしたな。

 せやけど、若い子にも色々ありまんねんなぁ。」

苦笑いを浮かべて後部座席を見やる。

でも、そこにお客はんの姿はなかった。


「なんや、またかいな……。」

未練を残した人間は死んだことに気づかず、

死ぬ前の時間を何度も繰り返すって話を聞いたことがある。

ワシはやれやれと肩をすくめて、天下茶屋へと引き返した。


ワシの仕事はタクシードライバー。

今日も大阪の街をグルグル走る。


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