ニコニコ動画と浮いた男

三文の得イズ早起き

第1話 ニコニコ生放送

 浮いた男が一人、カメラの前でニヤニヤと笑いながら語りかける。

 

「はい!初見さんいらっしゃいませ、ゆっくりしていってね」


 最近始めたニコニコ生放送。

その結果は彼の予想していたものとはかけ離れていた。


来場者数6

コメント0


 不人気を極めていた。

それでも彼はカメラの前でピエロを演じた。


「明日もこの時間に放送します!見に来てね!」


翌日もコメントは0、来場者数は4まで下がった。

誰も見ていないであろう放送を30分間続ける。ただの一人言だ。そしてこう思った。

「ツイキャスに移動しよう」

結果は変わらない。ゼロだった。


年齢は19歳。

今まで女性にモテた事がない。

「顔か?顔のせいなのか?」

彼は今流行りの(2016年10月現在)歌手の星野源をさらにもやしっ子にしたような顔をしていた。

「でも星野源はモテてるじゃないか!歌か?歌えばいいのか?」


次の日の放送で彼は放送タイトルにこう付けた

「19歳男、歌います!」

そして歌い続けた。ニコニコ生放送といえばボカロ曲だ。

彼は「からくりピエロ」を歌い始めた。

その時、久しぶりにコメントがついた。

彼は音楽を止め、そのコメントを見て、そして真顔のまましばらく黙った。


飯田だよね?何やってるの?w


「あれー?リアルの知り合いの人かな?wあ、今日はもう切りまあす。ありがとうございましたあ」


 すぐにパソコンの右上の☓ボタンを押し、布団に頭から潜り込んだ。

春から一人暮らしを始め、親しい友人もいない。

大学には6月の段階で上手く馴染めない事を悟った。

 もう秋になる。何もない。

何をやってもダメだ。学校もダメ、友達もいない、恋人もいない、ニコ生もダメ。


「あーおれはダメだ、ダメだ」


 その時スマホの音がした。メールがきていた。珍しい。

殆ど鳴らないのに誰からだろう?

「放送見たぞ。イーアルってお前だろ」

高校時代の数少ない友人、牛田からだった。

 牛田からメールが来たのは卒業以来初めてだったが、今はそれよりも自分の恥ずかしい姿を見られたショックの方が大きかった。

「もうニコニコ生放送もやめよう。俺は何をやってもダメだ。本当にダメな人間だ」

そう思う気持ちと並行して、心の深い所では「俺なら何かをやれる」、とも思っていた。


 飯田は寝ようとしたが無理だった。

牛田への返信はしないままだ。明日でいいだろう。


 YOUTUBEで「水曜日のダウンタウン」を見たが楽しい気持ちにはなれなかった。気づくと夜の2:30。

明日も学校には行かない気がする。「ああやはり俺はダメな人間だ。」

ため息をつきながら彼は今度こそ寝ようと灯りを消し布団に入った。

枕元のスマホにメールの着信、牛田からだ。


「明日会おうぜ。小林さんも来るぞ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る