第二夜

時は仮想二十一世紀末。世界は混乱に包まれていた。それもその筈。街中には到底人とは思えないどす黒い肌をした若者達が放った、化け物が暴れていた。

化け物から逃げ惑う人間達を高層ビルの屋上から愉快そうに化け物を放った張本人の一人である青年レーヴ(魔王伯爵に付き従うノア一族、第九使徒の座を戴く)が見下ろしていた。

「さてさて祓魔師アイツらはどう動くかな?」

そう言いながら愉しそうにクスクス哂って

「ン〜まだ見ていたいけどアイツらに見付かったら千年公に怒られるし……ここらで撤退するかなァ〜」

と名残惜しそうに目を細めながら立ち上がった。

暢気に欠伸して大きな伸びをしていると、フワァっと火の玉が飛んできてパッと忍者の姿をした骸骨ガイコツに変化して青年に告げる。

「ノア様、伯爵様がお呼びです。早急にハコにお戻りを」

「ン〜……今戻ろうと思ってた所だよ。でもなァんでそんなに切羽詰まってんの?」

「事情はお戻りになってから伯爵様が説明なさるそうです。とにかくお急ぎ下さい」

「解ったよォ〜……ア、祓魔師エクソシストが来たらそこそこに相手させて引かせてね? 僕気に入ってるんだ〜アレ♪」

「承知しました。が、保証は出来ませんよ?」

「ぶー其処そこは保証してよ〜? まァ沢山いるから良いけどさァ……」

ノアと呼ばれた青年は欠伸を一ついて指をパチンッと鳴らした。

すると音に反応したかの様にズズズッと地面から黒い豪奢な模様の彫り込まれた扉が出てきた。

青年はその扉に軽く触れながらクルリと振り返って

「じゃ僕帰るから、後は宜しく〜♪」

そう言うと扉の中に吸い込まれるようにして消えていった。

「………………ノア様の奔放ほんぽうぶりは筋金入りだな……」

骸骨は青年レーヴの消えた扉が地面に吸い込まれるのを確認して呟いた後、レーヴからの伝言を化け物に伝え、化け物が返事したのを聴くとノアの後を追って火の玉に戻り舟に向かって帰っていった。



骸骨が火の玉になって姿を消したとほぼ同じくして化け物の傍に二人の人間が現れて化け物と対峙する。

一人は長い蒼髪そうはつを頭頂部で結び、髪が龍の様にたなびいている。手には彼の得物なのか、漆黒の刀を握り何時でも抜ける様に鯉口はきられている。

もう一人の人間は刀を持つ彼と対称的に真っ白な髪を短髪にして、額にバンダナを巻いている。手には銀と漆黒の銃を構えてその狙いを化け物に定めている。

今迄の人間共と違う点は二人共、あたかも鎧の様に着込んだ闇色のコートだ。ソレはある組織に属している者にしか与えられないコートだった。

髪の長い青年がボソッと呟く。

「…………………………面倒臭い……」

ソレを聴いた白髪の男性が言葉を返す。

「まァまァ化物コイツ倒したら終わりなんだし、さっさとっちゃおうよ」

「………………はァ……面倒臭い、けど任務しごとだしなァ……」

「でしょ? じゃ主撃は宜しく〜」

「ハイハイ……」

二、三回言葉を交わすと二人同時に化け物への攻撃を開始する。

片方は鋭い目に追えないほどの斬撃を繰り出し、もう片方は味方の青年に当たらない様にしながらも凄いスピードで化け物に対して撃ち込んでいく。

だが化物あいても大人しくやられる筈も無く、祓魔師エクソシストの激しい隙の無い攻撃に多少当たりながら巨大な鈎爪かぎづめを振り回す。

その一つが斬撃を繰り出していた青年の肩に当たり、其処ソコから鮮やかな鮮血が噴き出す。

普通は痛みで蹲っても可笑しくない状況にも関わらず青年は、痛がる所かニィと口元に笑みを浮かべ

「へぇ……やるじゃねェかデカブツのクセに」

と言うや否や刀を構えて腰を落とす。

彼が刀を構えた途端、相方は牽制しつつも攻撃の手を弛める。

「…………滅べ常世の存在、"蒼龍斬鬼ドラゴンキラー"!」

そう叫ぶと共に一瞬で化け物の懐に入り込むと蒼い輝きを放つ愛刀を駆使して、化け物を八斬りにする。

一拍おいて化け物が断末魔を辺りに響き渡らせながらザラァッと音を立てて砂の様に崩れ落ちた。

白髪の男性がソレを見ながら蒼髪の青年に揶揄からかう様に言う。

「シグレお前面倒臭いとか言いながら結局殺ってンじゃん? 素直じゃ無いなァ?」

「…………………五月蝿うるせェ俺は一刻でも早く『Blue Bird』の続きが読みたいんだよ」

「シグレは活字中毒過ぎるよな〜部屋中の本、全部読み終わったヤツだろ?」

「そうだが? つうか白竜パイロンお前が言うな。お前の場合アニメだろ? 手の付けようが無いアニオタが」

〜じゃん面白いよアニメ。小説よりも断然面白いと思うよ?」

「何だとお前、本の良さが面白さが解んねぇのかよ?」

「シグレこそアニメの面白さが解んない訳?」

「解るかッ!」

「解りたくないね〜」

シグレと白竜が同時に言って睨み合う。暫く睨み合った後どちらとも無く、プッと吹き出してそのまま爆笑する。

暫くそのまま声も無く笑い、白竜の方が先に笑いの発作が収まった。

白竜はふぅ……と息を吐き出すと両手を組んで上に持ち上げて伸びをする。

「終わったしそろそろ帰ろっか?」

と未だに笑い転げているシグレに向かって問い掛ける。

「嗚呼そうだな帰るか」

やっとの事で収まったらしいシグレが頷いて地面に小石を落とす。

扉開放ゲートオープン!」

ブォンッと音を立てて巨大な蒼いゲートが彼らの目の前に現れる。ガチャッとノブが動いてギィィィッと扉が二人を招く様に開く。

彼らは何の躊躇ためらいもなく扉の中へと歩みを進め入って行く。二人が扉の中に消えたと同時に扉の戸が音を立てて閉まり、地面の中へと沈み込んでいった。

扉が地面の中に沈み込んで消え失せた数秒後、ザッと足音をさせながら一人の少年が広場のついさっき迄扉があった所まで歩みを進め、止まった。

少年は自分の見たモノが信じられないと言うように誰に言うでもなく呟く。

「何だったんでしょう、今の……僕は夢でも見てたんでしょうか?」

不思議そうに地面や周りをキョロキョロ見回しながら呟いた。

元々彼はこの地域に住んでいるのではなく、偶々この近くにある課題をしに来ていただけなのだ。だが彼にとっては嬉しい誤算だったのかもしれない。

(スクープ発見ですね……)

と心の中で呟いて口元にニンマリとした狡猾な笑みを浮かべると、クルリと後ろを向けて去っていった。

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