第11話 依頼達成
その後は襲われることもなく、追跡の気配もなく、あたし達はメルリーサに到着した。
たった今メルリーサのギルドで任務完了の報告を終わらせ、出てきたところだ。
「この度は本当にありがとうございました」
「こちらこそ。快適な旅でなくて申し訳なかった」
「いいえ、楽しかったですわ」
ギルドから街の中心方向へ歩く。二人のユーリが会話している後ろを歩きながらあたしはキリクから報酬を受け取っていた。
「ひのふのみと……はい、確かに」
「正直言うとね」
金袋から視線を上げると、キリクはいたずらっ子のように片目をつぶってみせた。
「無傷でこんなに早く着けるとは思ってなかったんだ。だから、ほんとに助かったよ。ありがとう」
「そう」
それはつまりあたしたちの腕を信用してなかったってことかな。それとも、もっと敵がやってくると思っていたのだろうか。
「あれ、怒らないの?」
「怒ってほしいわけ?」
変なことを言う。あたしは眉をひそめてキリクを見つめた。
「いや、そうじゃないけど。ああ言うと大抵の冒険者は俺の腕が信じられないのかって怒るんだよね」
うん、それはそうだろう。口に出さなかったけど、あたしだってそれなりに怒ってるもの。あたしの腕は大したことないけど、ユーリの腕は確かなんだからね。
「こう言っちゃあなんだけど、ギルドで引き合わされただけでその人の腕を信じられるかって言われると、信じられないよね。だから素直にそう感想を言ってるだけなんだけど」
「まあ、それ聞いて愉快になる人はいないわね」
「そっか。じゃあ君も怒ってはいるんだ」
「そうね……むかっとはするわ。でも、いつものことだもの」
ユーリとあたしの二人だけのパーティはやはり信用度は低い。ランクがどうのとかレベルがどうのとか言う前に、見かけで八割方判断されるからだろう。
それにあたしもユーリも過去のことを口にしない。……したくない。どのパーティにいたとか、どのダンジョンを踏破したとか、どこぞの妖獣討伐に参加したとか。そんなの、今のあたしたちには関係ない。
あれは、あの時のみんながいたからできたことだもの。あたしたち個人の成果でも何でもない。
それと同じことを期待されたって、できっこないもの。
「ふぅん……なるほどね」
キリクはあたしを値踏みするようにジロジロ見る。話がそれで終わりなら、とっとと酒場行ってメルリーサの酒と料理を味わいたいんですけど? 途中の村では甘いものも手に入らなかったから、デザートもたっぷり堪能したいし。
「あのさ、仕事頼みたいんだけど、どうかな」
「え?」
すでに脳みその半分以上、この街の名物料理で占められていたあたしは首を傾げた。
依頼された内容は終えたばかりだ。約束以上の仕事を言いつけるなら、それに上乗せしてもらわないといけない。
「ここから先は別料金になるけど?」
「もちろん構わない。……ねえ、ユーリ。この二人でいいと思わない?」
前をのんびり歩きながらユーリと話していたユーリ嬢にキリクは声をかける。ユーリ嬢はにっこりと微笑むとあたしたちの方にやってきた。無論、ユーリも。
「キリクが良いと思われるのでしたら、構いませんわよ」
「うん。この二人だけだもんね、僕らがどこの商会の人間か、とか僕らの関係とか聞かなかったの」
それは誤解だ。興味がなかったわけではない。実際、行程の間はいろいろ想像してたし。
ただ、彼らがどこの商会の人間だと知ったところで、あたしたちはそこに付け入ろうとか阿ろうとかいう意図はないから知る必要がなかっただけで。
それに、何を運んでいるのかは知らないが、命を簡単に刈り取る人間まで雇って狙ってきたのだ。相当なものだろう。本当はこんなにのんびりと町中を歩いていてはいけないのではないか。
そんなことも思う。
だが、彼らはそれほど緊張をしているわけでも警戒をしているわけでもない。
「話が見えないんだが。最初から話してくれないか?」
蚊帳の外になっているユーリが不機嫌そうに言い、あたしの方を見る。
「あたしにもわかんないわよ。いきなり仕事頼みたいって言われただけで」
「仕事? ……それはギルドを通さない仕事のことか?」
「えっ、そうなの?」
頭の中の名物料理を半分ほど追い出して、あたしはぱっちり目を開けた。
ギルドは仲介手数料で運営されている。ギルドに所属しているのにギルドを通さない仕事をするのはルール違反だ。下手をすればギルド追放の憂き目にも遭いかねない。そうなったら、冒険者でしか食っていけないあたしたちはいきなり干上がる。
「えっと、冒険者としての仕事じゃないんだけど」
「悪いが断る」
「えーっ、参ったなあ」
がしがしと頭を掻いてキリクは眉根を寄せた。
「条件も内容も聞かずに断るの? 普通は内容次第だって言わない?」
「少なくともあんた達二人に出会ったのはギルドの仲介があってのことだ。ギルド抜きで仕事を依頼されても受けるわけには行かない。ギルドのルールに抵触する」
「ああ……そっか。仕事って言ったのが悪かったんだね」
ユーリの言葉にキリクはひとしきりうなずいたあと、笑みを浮かべながら顔を上げた。
「仕事って言い方が悪かったよね。あのね。……僕らの婚約者になって欲しいんだ」
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