第10話

 疲れた。


 今日は本当にめちゃくちゃ疲れた。というのも、あのあと4時間俺と彼女はほぼぶっ通しで歌っていたのだ。俺はほとんど歌っていないんだけどさ。彼女の選ぶ曲はどれも聞いたことがあるようなないようなものばかりで俺はイマイチ乗りきれないし、彼女の邪魔をしてしまうような気がしてなかなか曲をいれることもできなかった。そんな中でずっと座っていたのだから疲れるのも当然だ。というか俺何しに来たんだ......。


 一方彼女はカラオケボックスに入る前に比べてなんだか艶々している気がする。あんだけ歌ってたのに何で元気になってるんですかね......。


「いや~楽しかったわね」


 いいことはあったけどこっちは全然楽しくなかったよ!


「......あれだけ歌ってたのに声は全然枯れてないんだな」


「なんでげんなりしてんのよ。それは声の出し方の問題。お腹から声を出せば喉を痛めることなんてそうそうないんだから」


「そうですか......まあいいか」


「そういえばあなたはあまり歌わなかったわね。結構上手かったのに」


「嫌みにしか聞こえないよ」


「私と二人で緊張でもしたのかしら?」


「そりゃ緊張もするよ!男女二人でカラオケなんて普通は恋人どうしでいくようなもんじゃないのか?」


「えっ!そうなの!?」


「そうだよ」


西村に会ってちょっとひやひやしたことも話す。


「ち、違うのよ!別にあなたに気があって誘ったとかそんなんじゃなくて……」


「わかってるよ。上野さんは女子にも友達いないからわからなかっただけだろうし、俺に気があるなんて思ってないから」


気があったら上下ジャージでなんて来ませんもんね!


「うっ、そのっ、ご迷惑をお掛けしました……」


「だからいいって。その、上野さんの歌が聞けてちょっと嬉しかったしさ。すごい上手だった」


「そ、そう?ありがと」


言って彼女は歌っているときのような顔で笑った。俺は思わず見とれてしまう。


「ん?どうかした?」


「い、いや、なんでもないよ。それじゃあまた明日学校で」


「ええそうね」


悪くない一日だった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る