第4話

 翌朝。俺は昨日の言動を少し後悔していた。冷静に考えると普段の俺ならさすがにあそこまで強気に出ていくことはないと思うのだが、上野さんのほうが俺よりテンパっていたからだろうか?彼女の言っていたように話せないことはないがいつもの俺は積極的に女子と話すことなんてないし、ましてや高嶺の花だとかなんとかさらっと言ってしまうことなんか絶対にありえない。何言ってんだ昨日の俺!ばっかじゃねぇの!ばっかじゃねぇの!まあ彼女は特に気にしているような感じでもなかったけど、それはそれで悲しい!

 布団の中で悶えること数分。落ち着きを取り戻した俺はまたも思考を巡らせる。

 彼女は俺のことをこうも言っていた。「コミュ障っぽいところとか」と。これはほかの人から見てもこういう風に見えているということなのではないか?

 今までの自身の学校生活を振り返ると自分がコミュ障に見えているのではないかという不安がより広がっていく。例えば俺が女子と話すとき、相手のどこを見て話しているか。少なくとも男子と話すときのように相手の目を見て話していることはまずないといっていいだろう。他にもいろいろなことを思い浮かべてみる。去年の学校行事で俺は男子以外と何かをしていただろうか。今までの授業でのペアワーク、俺は授業に関すること以外の話をしたことがあっただろうか。

 考えれば考えるほどにある一つの答えが頭に浮かんでくる。むしろここまで来て気づかないほうがおかしいだろう。


 俺、コミュ障でした。



 衝撃の新事実に驚愕しながらもともかく学校に行こうと朝食をすませ、俺はいつも通りに家を出た。隣の家に住む俊之も似たような時刻に同じく登校している。家から学校までは比較的近く、自転車置き場も限られているため俺たちは毎日歩いて登校している。

 一緒に行く約束をしているわけではないが最近はクラスが一緒ということもあり、こうして肩を並べて歩くことが多い。

「さっきからどうしたんだ樹。今日はえらく難しい顔してんな」

「あ~いや、ちょっとな......」

 どうしたもんか。こんなときには思い切って親友に相談してみるのもありかもしれないな。

「なあ俊之、一つ聞きたい事があるんだが」

「なんだよ」

「......俺ってコミュ障か?」

「何をいまさら言ってるんだ?お前昔から女子と話すときテンパってんじゃん。しかも自分から話しかけること絶対にないしな。どっからどう見てもコミュ障だろ」

「うっ、やっぱりそうなのか......そんな露骨にか?」

「う~んどうだろうな。俺は付き合いが長いから何とも言えないが、誰かになんか言われたのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど、ははは」

「ふ~ん」

 俊之がジトッとした目で俺を見てくる。やめて!そんな目で見ないで!

「別にいいけどよ、困ったことがあったら相談くらい乗るぜ?」

「いやいや!何もないから!」

 これくらいにしておこう。墓穴を掘りそうだ。

 それにしても昨日あんなこと言った手前、昼休みにあの場所に行かないわけにもいかないよな。ああ、憂鬱だ。自業自得だけどね。



 教室にチャイムが鳴り響いた。

「おっとチャイムが鳴ったな。それじゃあ今日はここまでだ。復習はちゃんとやっとけよーはい号令」

 先生が授業の終わりを告げた。これで午前の授業はすべて終了したことになる。そう、とうとう昼休みが来てしまったのだ。昼食のことで気が気でなかったため授業の内容は全然頭に入ってない。ああどうしよう。ひとまず上野さんは......もう教室のどこにもいないじゃないか!いつの間に出て行ったんだ!

 こうなったら腹をくくって昨日の場所へ行くしかない。俺は弁当を持って歩き出した。

 

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