第2話

 その日は始業式を終えたらすぐに放課だった。これからは部活動に励む者や図書室で勉強をする者達がそれぞれの青春を過ごす時間になる。俺?もちろん帰宅する。帰宅部だからな!帰宅部は帰宅するのが活動だ。皆が汗を流しているなか颯爽と帰宅して一人家でだらだらする。最高に気持ちがいいことだ。

「お~い樹~。お前この後どうすんの?」

 俊之が話しかけてきた。

「家に帰って気持ち良くゴロゴロしようと思ってたけど」

「ゴロゴロって、明日は休み明けテストだろ?大丈夫なのか?」

「そういえばそうだったな……まあなんとかなるさ!」

「お前はいつもそれだな。一応進学校だぞここ」

「そうはいってもな。課題やる気にならないし」

そう、うちの学校はやたらと課題が多いのだ。俺は生徒全員にアホみたいな量の課題を出す教師を絶対に許さない。確かに課題は必要だろう。俺もそう思う。しかしだ、これさえやってれば◯◯大学以上はいけるぞ。とか言われて出される課題よりそれぞれの目標にあった課題を自分で見つけてやる方が絶対に効率がいいはずだ。課題に時間をとられて自分のやりたい勉強が疎かになるものもいるだろう。そして極めつけには俺のように課題も勉強も共倒れするようなやつまで出てくる。課題やりたくない。

「お前ってやつは本当に……ま、いっか。じゃあ今からお前んちにいって勉強会しようぜ。教えてやるからさ」

「人がやる気ないっていったそばから……別にいいけど」


  俊之が帰ってから晩御飯もお風呂も済ませた俺はさっさと寝ようと思い布団に入っていた。春になっても夜はまだ涼しく快適だ。急速に高まってくる眠気のなか、俺は今朝の彼女のことについて考えていた。

 上野朱里、同じ学年で彼女のことについて知らない人はいないだろう。彼女は有名だ。理由は簡単、美少女だからだ。流れるような黒髪、整った顔立ち、折れてしまいそうな腰に凛とした目。その見目の麗しさは入学当初から学年全体に知れわたるほどだった。他の学年でも噂されているというのは俊之の言である。かくいう俺も様子を見にいったものだ。

 一方で彼女は人とあまり関わらないことでも有名だ。理由はわからないが必要最低限のこと以外は話そうとしないらしい。最初はそれこそ積極的に話しかけられていたが、その呼び掛けも無視されて何人の男子が心を折られたことか。女子ともあまり話さないらしく、あまりよく思ってない人もいるみたいだ。彼女には友達がいないのだろうか?あの見た目ならいくらでも友達を作れるだろう。それとも一人が好きなのかな?う~んまあ、俺が考えても意味のないことだな。まあいいや余計なことは考えずに寝てしまおう。


 それから一週間が経ちクラスの雰囲気も大分落ち着いてきた。俺にもそれなりに友達と呼べるような他愛もないことを話す相手が数人できた。俊之と友達だというのが大きかったのだろうか、いつもよりも簡単に人と付き合うことができている気がする。まあ男子ばっかりなんだけどね。こういうときに素早く女子と友達になれるやつは本当に羨ましいと思う。これといった用事もないのに話しかけるとか絶対できないから。話したとしても授業中のペアワークがほとんどだ。俊之をみてみると普通に女子とも話している。イケメン恐るべし。それとも俺がおかしいのだろうか?ぐぬぬ

「おい樹~飯食おうぜ~」

  今は昼休みにちょうど入ったところで俊之が話しかけてきた。他の皆もそれぞれ仲のいい人どうしで集まって弁当を食べたり学食に向かったりしている。

 うちは地方の公立高校だが学食がある。周りの学校には学食がないところが多いからか、メニューも豊富で人気が高くそれなりに多くの人が毎日利用しているが、俺はあまり好きではない。俺のイメージとして学食とは安い!多い!この二つが非常に重要だ。しかしだ!うちの学食は公立高校の悲しい現実か、それなりの値段で学食らしからぬ微妙な量のメニューの数々は確かに美味しいが違う、そうじゃないという感覚を俺に与えてくる。唐揚げが食べたくて注文した唐揚げ丼に唐揚げが3つしか乗っていなかったときには本当に驚いたものだ。

「いいよ。どこで食べる?」

「俺も弁当だしここでいいだろ。わざわざ食堂に行く必要もないし」

 言って俊之は俺の前の席に腰を下ろした。椅子だけをこちらに向けて1つの机で二人で食べる。

「他のやつらは呼ばないのか?いつもいろんな人と食べてるだろ」

「まあまあたまにはいいじゃないの。幼馴染みと二人で食べるってのも」

  俊之はニヤニヤしている

「そりゃいいけどさ」

 なんかちょっと気持ち悪いなこいつ……

「お前いつも一人で食ってるからさ~」

  俺はいつも一人でぱぱっと食事を済ませてから友達のところにいって喋って時間を潰すことが多い。なぜかと言われれば特に意味などないのだが、かつて食事に集中してどうしても口数が減ってしまい何とも言えない空気になることが多々あった。相手に不快な思いをさせないために配慮する俺。気が利くいいやつだろ?

「一人で食べる方が落ち着いて食べれるだろ」

「皆で一緒に食べた方がうまいぞ」

「そうか?俺はご飯はどんなときどういうふうにに食べてもうまいもんはうまいと思うんだがなぁ」

「そういえばお前は昔から一人でいても全然平気なタイプだったな……飯食う時間も有効に使った方が人とは仲良くなれるぜ?」

「お前が言うんならそうなんだろうな。とはいっても俺は食事に集中したいんだ他の人と話しながら食べるよりしっかり味わえる」

「はぁ~さいですか」

そうこう言ってるうちに俺はいつもの癖か、ぱぱっと食べ終えていた。

「お前食べるの早くないか?………太るぞ?」

「ほっとけ」

 俺はそう言いながら辺りの席を見回す。ふと1つの席が気にかかった。

「なあ俊之。いつも不思議に思ってたんだが」

「どうした?」

「上野さんってどこでご飯食べてるんだろうな。いつもいないけど友達と一緒に食べてるって訳じゃなさそうだしさ」

「さあな~案外普通に友達とかいるんじゃね?」

「そうなのかな。まあいっか」

「なんだお前。もしかして上野さんのことが気になってんのか?やめとけやめとけ。何人の男が心をおられてきたと思ってるんだ?相手にされないって。ああいうのは遠目にみてるくらいがちょうどいいんだよ」

「いや、そんなんじゃないって」

「ほんとかな~」

 くっ、ムカつくにやけ顔だ。しかしここで熱くなってしまったら本当にそれっぽい。俺は冷静になった。話題を変えよう。

「そういえば次の英語課題があったなー。あの先生色々めんどくさいからやっとかないとなー」

  俺は弁当を片付けてから英語の課題をやり始める。

「露骨に逃げやがったな。まあ俺も課題やってないし席に戻るわ~」

 そう言うといつの間に食べ終わったのか、俊之も弁当を片して自分の席に戻っていった。

 しばらく課題をやっていると上野さんが教室に戻ってきた。そのままスッと席に座って彼女も勉強を始める。誰も気にしてないみたいだけど、どこで食べてるんだろ?俺もたまに教室以外の場所で昼食をとることがあるが校庭やそれなりに食事するスペースがあるような場所では彼女をみたことがない。本当に、どこで食べているんだろうか。

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