ミートボール

箸が止まる。

と言っても、話を聞きながら食べた弁当箱の中は、もう手遅れなほど空っぽに近づいており、残っていたのはリンゴだけだった。

先輩も話しながら器用に食事を進めたようで、気づけば空っぽの弁当箱がそこにあった。

僕は諦めて最後のリンゴをほおばる。口の中に果実らしい酸味と甘さが広がる。

ああ、こんなに美味しいのになあ。


先輩は笑顔でこちらを見ている。

心なしかいつもよりケケケ度が少ない気がする。

「全部食べました。ぱちぱち」

未就学児の母親みたいなことを言う。

「で、どれがおいしかった?」


…ミートボールだ。断トツで。

しかし、さっきの話を聞いた後でまんまと乗せられるのも考えものだ。この存在自体が怪異みたいな先輩から、その後何が出てくるか分からない。「ねえ、知ってる?世持つへ食いの話」なんて畳み込まれた日には、文字通り生きている心地がしない。

だが嘘をつくのは、心苦しい。

であれば、次善のコメントしかないだろう。


「全部美味しかったですよ」

嘘ではない。甘辛いきんぴらもチーズの入った玉子焼きもどれも美味しかった。

先輩は少し驚いたような安心したような顔をしたかと思うと、またケケケ笑顔に戻った。

「嬉しいこと言ってくれるじゃない。女の子の扱いが上手になってきたかな」

「そんなんじゃないですよ」

急場しのぎのコメントだったつもりが、逆に恥ずかしくなる。


「また作ってあげるね」

そして、とってもいい笑顔で先輩は言った。

お弁当自体は大変うれしいのだが。…いったい次も何を食べさせられるのか。

僕のそんな一瞬の逡巡を見透かしたように

「遠慮しなくていいからね」

と、再びとってもとってもいい笑顔で言われてしまった。


僕は小さく「はい」と答えた。

お腹の中で何かが動いた気がした。

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