僕と先輩と弁当と

昼休み

先輩と僕は放課後によく会っている。

だから今日のように昼休みに会うのは珍しく、

ましてや一緒に食事をしようなんて誘われるのは初めてのことだ。


ただ、先輩と会うのはいつも人気の少ない場所だ。

今日もそんな場所を指定された。

僕らの高校は校舎は大きく2つあって、普段使っている新校舎とその裏に森に飲まれようとしている旧校舎がある。旧校舎は古い上に森が光を遮って薄暗い暗鬱とした雰囲気になっているせいで、多くの生徒は寄り付かない所になっている。


「こっちだ。こっち。」

旧校舎のボロボロの昇降口から入り、目の前の階段を上がってすぐの教室から僕を呼ぶ声がした。教室には、古い机や椅子が雑然と置いてある。

先輩は窓際に立っていた。後ろの椅子にはトートバッグが置いてある。

僕は隣の椅子に腰を下ろしたが、外は木々しか見えなかった。


「やー、よく来てくれた。待っていたよ」

「僕もすぐに来ましたから。時間的にはそんなに待っていないはずですよ」

「うんうん。えらいえらい。もちろん、昼食は持ってないよね」

そう。僕はいつもなら購買か学食で済ませていたのだが、何も持たずにここに来た。


なんと今日は先輩が昼食を用意してくれることになっていたのだ。

昨日の放課後、突然出てきた提案だった。

先輩のことだから何が出てくるか分からない。虫や爬虫類を食べさせられるかもとも思ったが、それでも期待が上回った。

先輩は何やら怪しい笑みを浮かべていた気がするが…。僕はまんまとその提案を了承してしまったのだ。


先輩も椅子に腰をかけ、膝においたトートバッグから何やらもったいぶって出そうとしていた。

うん、そういうのいいから。無駄にそわそわしてしまうんだ、こっちは。

「じゃーん、お弁当!なんと手作りです。」

本当に出た。一瞬呆けた顔になってしまった気がする。

渡された弁当箱を手に、小さい声で返事をするのがやっとだった。

「…ありがとうございます。」

かくして、僕は人生で初めて母親以外の手作り弁当にありつくことになった。

素直に嬉しい。

先輩。いつも不気味だなんて思っていてごめんなさい。


弁当箱には、定番のおかずが並んでいた。

ふりかけご飯に、おかずはミニトマト、ブロッコリー、玉子焼き、きんぴら、リンゴ。そしてミートボールだった。

先輩も僕のよりも少し小ぶりの弁当箱を広げ、食べ始めた。

僕もそれにならい、箸を進めた。


どれもおいしかった。

だが、このミートボールが問題だった。

美味しすぎたのだ。

どんな味付けなのか、なんの肉なのかさっぱり判別ができない。

僕はがっつきたくなるのを理性で抑え、一口一口すぐに飲み込むことのないよう、十分に何度も咀嚼して味わって食べるはめになった。美味し過ぎる。


弁当に舌鼓を打っていると、

「ねえ、知ってる?」

僕の食べている様子を嬉しそうに見ていた先輩が、また始めてしまった。


しまった。油断をしていた。

「マグルワの肉の話。」

「知りませんけど。…食事中ですよ。」

言外にやめようと訴えたが、無論聞いてくれるはずもない。まあ、直接やめようと言ってもやはり同じ結果だっただろう。

先輩はニコニコした顔で話し始めた。

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