(2)

 チャイムが鳴り響き、校庭で遊んでいた人たちが一斉に校舎の中へと向かっていく。僕も片付けをして急いで校舎に向かうと、下駄箱付近に鈴原さんを見つけた。僕はそれを横目に通り過ぎようとすると服をつかまれた。


「ねえ、相原あいはらくん。委員会の仕事は最後までちゃんとやってよね」


「へ?」


 いったい何のことかと首をかしげると、鈴原さんは少し目尻を上げて言った。


「シャベルとかの片付け、やらないで行っちゃったでしょ」


 なんだ、そんなことか。その程度で目くじらを立てられても困る。別に故意にやらなかったわけではない。広田先生の了承は得ていた。大切な休み時間を削ってまで花植えを手伝ったんだから、それだけでも感謝して欲しい。それなのに、怒られるのは不愉快だった。


「うるさいっ、別にそれくらいいいだろ」


 僕はそう言い放って自分の教室に向かった。

 午後の授業が終わり、僕は友人たちとサッカーをして遊んでいた。すると、校内放送がかかり、僕の名前が呼ばれた。声の主は、どうやら広田先生だ。先生とは美化委員以外での繋がりがないため、その声を聞く度に気持ちが落ち込んでいた。

 友人たちに軽く頭を下げ、僕は呼び出された職員室へと渋々向かった。


「何ですか先生?」


「ちょっと相原くんに頼みたいことがあってね」


 その言葉に、僕はちょっと安心した。鈴原さんが僕のことを叱るように、先生に頼んだのではないかと、少し心配していたからだ。


「何ですか?」


「えっとね。体育館裏に余ったパンジーがあるんだけど、その中から好きなパンジーを持ってきてもらえないかな?」


「持ってくるって、また植えるんですか?」


「ううん、ちょっと職員室に飾ろうかと思ってね。プランターも余ってることだし」


「それ、僕じゃなく……」


 そこまで言いかけて僕は言葉を呑んだ。これは恐らく広田先生なりの僕への罰だ。僕が後片付けをしないで遊びに行ったのを当然先生も知っているはず。体育館裏に花を取って持ってくるぐらい誰だってできる。わざわざ僕を呼び出して頼んだもの、それが理由だろう。

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