第4話 貧乏花見

「天気よくなったなぁ……。

 でも、客は来ないなぁ……」


朝から降っていた雨が止んで、

すっかり天気が良くなった春先のぽかぽか陽気。


でも、まるで客が来ないので店主は暇だった。


「そうだ、どうせ誰も来ないし

 これだけ天気がいいんだから花見をしよう!」


店主は友達に連絡して花見をしに行った。

花見をしにいくと、同じような考えをする人もいるらしく

すでに花見がいろんな場所で行われていた。


「しっかし……すごいなぁ」


「見ろよあの重箱……。

 酒も食べ物もすごく豪華だなぁ……」


花見に来ていた客は誰もが大金持ち。

食べ物も酒も、自分たちとは比べたくないほど豪華だった。


「あれが食べれたらなぁ……」


「そうだ、店主。わしに考えがある。

 ケンカをして騒ぎを起こすんだ。

 おぼっちゃんどもはビビって逃げるだろう」


「なるほど! それでごちそうを手に入れるわけだな!」


二人はわざとらしく声を張って、

聞こえよがしに口論をはじめた。


周りの客たちはぎょっとして二人を注目した。


「さっきから聞いてりゃこの野郎!!」


「なんだてめぇ! バカにしやがって!」


二人は最初は口論だけの予定だったものの、

エスカレートする悪口にだんだん腹を立てて手が出始めた。


「痛ぇなコラ!」

「先に手を出したのはそっちだろ!」


本当のケンカになってしまい、

もはや最初のぎこちない演技では出なかった気迫を感じ

他の客たちは関わり合いにはなるまい、と逃げだした。



「ストップストップ!」


「なんだと! 逃げる気かコラッ!」


「違う違う! 周りを見ろ!」


店主の声で友達は周りを見渡して、

誰もいなくなった花見会場にやっと頭が冷えた。


「おお! 誰もいない!

 食べ物も酒もそのまんまじゃないか!」


「やったな! これで大宴会だ!」


二人は客の残した豪華な食事と酒にありついた。




それを隠れて見ていた金持ち集団はギリギリと歯噛みした。


「あの庶民どもぉ……」

「我々の食事をあんな下品に……」


「ふっ、私にお任せください」


金持ちの一人が名乗りを上げた。


「あんな下品な奴ら、私が言いくるめて見せましょう。

 どうせ頭の悪い連中だ。すぐに丸め込みます」


「「「おお! かっこいい!」」」


男はビビらせるために酒樽をかついで

どんちゃん騒ぎする二人のもとにやって来た。


「おい! お前たち!!」



「「 ぁンだコラァ!!  」」


すでに出来上がっている二人は

なお一層の剣幕で言い返した。


男の中にあった威勢の炎は一瞬で消し飛んだ。


「コラ、てめぇ……その酒樽はなんだァ?」

「どういうつもりだこの野郎! ああん!?」



「これは……その……。

 おっ、お酒のおかわりをお持ちしたんです」

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