第9話

年が明けて、つきあって3ヶ月がたった。

そろそろこれはまずいんじゃないかと思った。孝史は性欲が強い訳でもないが弱い訳でもない。これまでの彼女とは問題なく夜を過ごしたと思っている。

しかし、やはり男同士というハードルをなかなか超えられなかった。当たり前だが初めてな訳で、どれだけ検索してもイマイチ手はずがわからない。


そして、央は経験がありそうだった。後から振り返って思うのだが、孝史は央に好かれて、時には尊敬されている状況がとても心地よかった。だって、あんなにいい器を作り、業界人にちやほやされ、興味のないことにはクールというか冷たい央が自分には夢中なのだ。調子に乗らない男がいるだろうか。

だから。

だからこそ、がっかりされるのが怖かったのだと思う。これまでの男と比較されたり、ショボいと思われることが怖かった。後から思えばよくわかる。


「あけましておめでとうございます」

4日に央が実家から戻ってきたので、初詣に行くことにした。央は相変わらず可愛らしい。孝史が正月中、男同士のセックスを検索しまくっていたことは口が裂けても言えない。

「東京寒いですね」

「茨城の方が寒いでしょ」

「武田先輩!茨城馬鹿にしないで下さい。筑波はけっこう南なんで東京と変わんないです」

そういう央のアクセントがほんのりなまっていて可愛い。二人で人波を歩く。すごい人なので思わず央の手を取る。みるみるうちに央の耳が赤くなる。

「大丈夫?」

「だいじょぶです」

つないだまま、歩いていく。

「今度さ、温泉でも行くか、寒いし」

検索しまくっても、結局のところよくわからない。でも、これ以上放置しておくわけにもいかない。我ながら決意の宣言だった。

「…はい」

耳を赤くしたまま央がうつむく。

並んでお参りして、汁粉を飲んで、連休に箱根に行くことにした。ちょうどバイトもなくて、宿もキャンセルが出たらしくサクッととれた。きっとうまくいく。嬉しそうな央を見て、そう思った。

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