恥ずかしくないんですかそういうの

昼休みに啓介や直哉と騒いでいたらいいんちょうがやってきた。

さっきの授業のノートを集めているらしい。

それはいいんだけどさ。

「いいんちょう、一人で集めてるの? クラス委員ってもう一人いなかった?」

「サボって消えた」

「あらーー。じゃあおれ手伝うよ」

「いらないわ」

「手伝うって。女の子らしく男の子に頼ってよ」

そう言ったら思いっきり舌打ちされた。

そういう仕草は女の子らしくなくてよくないと思うよ?

嫌そうないいんちょうを無視して彼女にくっついて回る。

いいんちょうが声をかけておれが受け取る。

そうやって気が付いたらクラス全員分のノートを持たされていた。

「いいんちょう。半分ことか」

「頼っていいんでしょう」

「はい、なんの問題もございません」

都合のいい時だけそういうことを言ういいんちょうである。

まあ一緒にいられる理由があるならいいんだけどさ。

ノートを持っていいんちょうと職員室に行く。担当教員はいなかったけど机の上に置いておけばわかるだろう。

ようやく重たいノートから解放されて職員室から出ようとしたら、英語の先生に呼び止められた。

「新崎君、ちょっといいかしら」

「はい、なんでしょう」

てっきりいいんちょうは先に教室に戻るかと思いきや、すぐ後ろで待っている。

意外と付き合いがいいのかもしれない。

「新崎君は硯さんとお付き合いしてるの?」

「は? いえ、してませんが」

「そう。ならいいの。いいですか、新崎君も硯さんも。

あなたたちは学生なのだから学生らしく勉強という本分を忘れないように心掛けてください。

特に硯さんはクラス委員長もやっているのですし、他の生徒の見本となるように」

「あの、付き合ってないって言ってますよね」

今のはおれが言ったんじゃないですよ?

おれの後ろから低い声が聞こえてきて、英語の先生のみならず他の先生方やおれまでびっくりしている。

「男と女がいたら付き合っているとかそういう恋愛脳的反応止めてもらえます?

いい年して恥ずかしくないんですかそういうの。

先生がそうやって男女付き合いハズカシイみたいな間違った価値観持ってるの知ったことじゃないですけど、周りに押し付けないでください。

そもそも先生独身ですよね。生徒の男女付き合いに口突っ込んでる暇があったら彼氏のひとつでも見つけてきたらどうですか」

わあ。

英語の先生めっちゃ震えてる。

おれはもう逃げたかった。

いいんちょうの手をひっつかんでダッシュで逃げたい。

いや、今からでも遅くない

「あ、あなたね……!!!」

「すみません、ごめんなさい、ちょーーっといいんちょう機嫌悪いだけなんです。

ほんっとうにごめんなさい!! 失礼します!!」

「え、ちょ、新崎君」

おれは走った。いいんちょうの手を文字通りひっつかんで走って逃げた。

全力で走って自分の教室まできたところでいいんちょうに手を振り払われた。

「なによ、いきなり」

「こっちの台詞だよ!! なに先生煽ってんの!?」

「ちょっとムカついたから」

「ちょっとムカついただけであんな言い方しちゃダメだから!!

せっかくいいんちょうは先生たちからの印象いいんだから悪くするようなことしなくてもいいじゃんか」

いいんちょうはむすっと頬を膨らませた。

そんなかわいい顔をしてもダメなものはダメなのだ。

ていうかそんなに怒るようなことでもないだろうに。

「ああやって、なんでもかんでも恋愛沙汰にされるの嫌いなの」

「たぶん間違いなく絶対に生徒指導部から呼び出し喰らうと思うんだけど」

「放っておけば」

「状況が悪化するからやめて」

いいんちょうは本当に機嫌が悪い様だ。

どうしようかね。

ていうかおれも呼び出されるんだろうな。

なんとかしていいんちょうを庇いたいけど、さっきのはどう考えてもいいんちょうが悪いので難しい。

「とにかく! 呼び出されたらおれも一緒に行くから逃げないこと!」

「えー」

「えー、じゃないよ。いいんちょうも高校生なんだから大人になろうね?」

「はいはい、わかったわかった」

本当にわかってんのかな。

適当言ってるだけじゃなかろうか。

それならそれでさっきも適当言ってくれれば良かったのにな!!

とにかくもう一度だけ念を押していいんちょうとは別れた。

教室の入り口で言いあうおれといいんちょうは激しく目立っていたけど、もうどうとでもなれってんだ。

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