世界はきっと美しい。失われゆくものがあればこそ、人はそれを知る。

人を人たらしむるは何か。
思想か、情操か、魂魄か。
人の形に見える肉体があれば、人と呼び得るのか。
人から何が欠ければ、その者は人でなくなるのか。

幼いころ、魂を持たぬ存在「ニング」に襲われ、
自身もまた人ならぬ身へと堕ちたジュイキンは、
狂犬のような悪童時代と師父の下での修行を経て、
特殊組織「八朶宗」の戦闘要員として動いている。

ジュイキンはある任務の最中、致命傷を負った。
彼の命を救った天才外科医は因縁の人物であり、
その手術に使われた「樹械」の心臓の出処は
八朶宗が撲滅すべき敵と見なすテロ集団だった。

斯くして、二重三重に常人から外れたジュイキンは、
生まれながらに業を背負う8歳の青年グイェンと共に
思惑と妄執が錯綜する魔都を駆け、敵襲を迎え撃ち、
胸に埋められた心臓の正体、真に破るべき敵を知る。

中華風の背景に欧州的な近現代の影響が溶け込み、
植物と機械のハイブリッドによる科学が栄える、
という独特のパンクな世界観を絵で見てみたい。
絶妙にかわいい黒猫ミアキンをもふもふしたい。

死闘に次ぐ死闘の果てに誰が生き残るのだろう?
物語がどう進むか最後までわからず、一気読み。
残酷な展開に胸が痛くなるのは、登場人物の誰もが
ひたむきに答えを求め、何かを愛そうとするからだ。

魂とは何か、死とは何か、永遠の命は存在し得るか。
この世は不完全か、神灵はこの世を完全たらしむか。
生と死、葛藤と本能、苦悩と希望の狭間で、
ジュイキンは選び、戦い、守り、破壊する。

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