第41話クローネシュタット市街戦

 ハンガク達の防衛戦に少し見とれてしまった、街の中のグリフォンを片付けるべきだろう。ここの守備は他のプレイヤーに任せて、私が走り回って敵を片付ける方が効率が良さそうだな。

 下に降りたところでNPCの兵士に話しかけられた。


「えーす様。ハイコ様は多数の騎士が護衛しておりますので、ご安心ください」

 とりあえず無事なようだ。ここにプレイヤーが残る旨の許可を頂いたのでしりに後を託した。

 ちなみに尻尻尻しりみっつれつは、獣人フタコブ駱駝の男魔法使いで漁師だ。おかしなところだらけだが気にしないことにしよう。



 掲示板の目撃情報を頼りに、チョコをオンブしながら街中を脱兎二で走り回る。飛び回る敵には金や串焼きを使って地面に降ろしてから戦闘を行う。


 グリフォンがチョコに向かって突進してくる。盾で受け止めるが、体重を掛けて潰しにかかってきた。私が槍で喉元を刺したところでグリフォンが動かなくなったが、


「「グオオーーゴオオオー」」

 別のグリフォンが雄叫びを上げて体硬直し、先ほど倒したグリフォンとチョコが一緒になって覆いかぶさってきた。更に数匹のグリフォンが降り立って、六匹のグリフォンが円になって私たちを囲む。


「グオオーーゴオオオー」  「グオオーーゴオオオー」

 一匹のグリフォンが定期的に雄叫びをあげている。これじゃ動きようがない、ずるずるすぎる。そして残りのグリフォンは、こちらの様子を観察していたが、動けない事が確認出来たためか、こちらに歩いてくる。そして、鋭い鉤爪が付いた前脚を上げ、私に向かって振り下ろす、


 ズゴーン!ビカ!ビカ!ビカ!ビカ! 爆音が響き、閃光で目がくらむ、脚を上げたグリフォンが黒焦げになって、ドスンと音を立てて倒れた。なんだ?



「えーすには手を出せさないぞ!! お前らの相手は私だ」

 視界の先には、エルドワが槍を構えている。そしてその後ろには、スラム街の子供たちがいた。


「お爺ちゃんを守れ!」「えーすさんを苛めるな」「この街からでてけー」

 スラム街の子供たちが投石を始める。ばか、やめろ、やめてくれ。私たちは死なないけど、お前たちは街で死んだらダメなんだろ、逃げろ、逃げてくれ!!!

 なんとかしたくても、体が硬直して動けない。動けても、グリフォンとチョコが邪魔で重くて動けそうもない。



 グリフォン達が子供達に向かって突進する。エルドワの槍が光って、


 ズゴーン!ビカ!ビカ!ビカ!ビカ! 先頭のグリフォンが黒焦げになって倒れるが、残りのグリフォンがスラム街の子供たちのところに突っ込む。子供たちが何人も宙に舞っていく、そして十数m離れた地面に叩きつけられて、さらに数回バウンドしながら、横に何回も転がる。


「うああーー」「いたいいたいよー」「うえーん、うえーん」

 即死しなかった子供たちが泣いている。お腹を抱えてうずくまる子、這いながら逃げ出そうとする子、そこにグリフォンが鋭い鉤爪でドドメをさす。一旦刺さった子供の死体が抜けないので、何度かブンブンと振り回して、子供の死体を飛ばしてはずす。



「先に行っているね」「ゾンネ様の加護がありますように」「この街を守って」

 死んだスラム街の子供たちが、お別れを言ってから消える。



「このやろう、これでも喰らえ」

 コンタクトが初見殺しでグリフォンの太ももを叩き、深々と針が刺さるが、グリフォンが痛さで走り回ると、コンタクトの体が上下左右に激しく揺れて、振り回されている。


「グオオーーゴオオオー」

 グリフォンの一匹が、継続して私とチョコを硬直させている。ふざけるな。頼む、頼むから……。もうやめてくれ。目からは涙が溢れ出る。


「うあわ、わわあ、わわあ、あわ」

 コンタクト自身ではどうにもならないようで、振り回され続けている。ばか、早く、逃げてくれ、何も出来ないまま、子供たちが倒されているのを見ていることしかできない。


 ズゴーン!ビカ!ビカ!ビカ!ビカ! 私たちを硬直させていたグリフォンが黒焦げになる。しかし、エルドワの後ろにはグリフォンが、そして前脚を上から振り下ろす。

 エルドワの胸から鉤爪が見えた……。そししてエルドワと目線が交差し、にっこりと笑うと槍を地面に放った。グリフォンは爪を抜くために前脚をブンブンと振り回し、エルドワは地面を数回転がって仰向けになって倒れた。


 やっと体が動くようになった。ポシェットから剥ぎ取りナイフを出して、グリフォンの死体を刺す。死体が消えたので、チョコも起き上がり、私も跳ね起きた。


「クライネトルネード」「クライネトルネード」「ストーンショットガン」

 敵をヒクヒクにさせて、一気に近づいてグリフォンの顔に手をかざし、零距離から石をぶつける。顔の一部が爆散した。それでも死なないグリフォンに槍で滅多刺しにする。チョコも剣で叩きつけて、討伐のウインドウが表示された。


 エルドワが壊れた人形のように転がっている。死んでいるので目は開いているがどこも見ていない。


「えーす。無事でよかった」


「な、グス……なんなんでだよ、どうして」

 エルドワを抱き寄せるが、ダランとしたままだ。私の目からは涙が出続けて、涙がエルドワの顔にボタボタと落ちる。


「私は死んでも大丈夫なんだから、放っておいて良かったのに!! それよりエルドワ達の方が大事だったのに!」

 エルドワを抱きしめながら、責める。ひどい話だ助けてもらったのに。それでもこんな事をして欲しかったのではなかった。イベントなんてどうだっていい、エルドワに生きて欲しかった。スラム街の子供たちと一緒に話したり、遊んだりしたかった。


「えーす。それは私も同じ気持ちだよ。だから助けたんだ。だって親友だろ」

 もう一度強くエルドワを抱きしめる。生きていれば痛くて仕方がないような強さで抱きしめるが、なんの反応もない。


「楽しかったよ。エールラーケに行ったり、花を摘んだり……。そうだ海に行ったことが無かったから、えーすと海に行きたいと思ってんだ。獣半魚人の血が入っているから泳ぐの得意だったんぜ。王都にも行ってみたかったな」

 死んでいるエルドワになんて声をかければいいか、思い当たらない。ただ涙が流れて、嗚咽で呼吸が乱れるだけだ。


「そうだ、生き残った子供たちを海と王都に連れて行ってあげてよ、お願いできるかな」

 勿論だとも。何があっても絶対連れて行くと約束した。


「死ぬの初めてだから、よくわからないけど、なんか呼ばれている気がする。えーす元気でな。ありがとう」

 ばか、消えないでくれ、消えないで……。エルドワが消えた。



「うううあおあおおあああーーーーー」

 大声で泣き叫ぶ。もうどうしよもない。なんでエルドワの親友の称号を付っぱなしにしていたんだろう。こんなことなら外せばよかった。自分の頭を殴りつける。数回殴っていると、後ろから肩の上から首を抱えるように手が回ってきた。チョコの手だ。


「お爺ちゃん」

 チョコの手にすがりついて、わんわんと泣き続けた。そして



「称号:“限界を超えし者:悲”を入手しました」


 “限界を超えし者:悲”

・死んだ人をデメリット無しに生き返せる。

 ゲーム時間十日に一回。十日後の零時に回数がリセットされる。

 但し、死体が目の前にあること。



 ふっふざけるな!! 遅い、遅いよ! なんだよ、ふざけるなよ、チクショウうううう! なんかもうどうでも良くなってきたよ。グスッ。




「お爺ちゃん。まだ終わってないよ。このまま放置したら、生き残った子供たちも危ないよ」

 っは、そうだ、まだ生き残っている子供たちがいる。戦闘の途中でコンタクトが、他の子供に引っ張れて路地の向こうに消えていったのが見えた。多分無事だったのだろう。

 コンタクトが無事で良かった、今後はコンタクトがスラム街の子供達を面倒見る事になるだろう。これ以上被害を出さないためにも、グリフォンの奴らを根絶やしにしてやる。絶対許さん。苦痛という苦痛を味あわせてやる。


 地面をみると、コンタクトが持っていた初見殺しとエルドワが持っていた槍と落ちている。最後にエルドワが捨てたんだろう、私に渡すために……。


・アルミラージの槍……アルミラージの角の魔力を開放する事で強烈な電撃を放つことが出来る[残り四十三回]。使い切ると壊れる。魔法詠唱に影響を及ぼさない。



 百万マールの素材を利用した使い捨て武器か、相変わらず凄い事をするなエルドワは。無駄にはしないぞ、そっとポシェットにしまう。



「お爺ちゃん。南門にグリフォンが二匹いるって書き込みがあったよ」

 よし、チョコをオンブして、脱兎二で南門に向かう。


 

「クライネトルネード」

 二匹のグリフォンをヒクヒクさせて、モルルンで力任せに殴りつける。槍よりも此方の方が、傷口がグチャグチャになるので、与えるHPダメージは減るが、苦痛が大きいだろうと考えた。

 憎しみを恨みを込めて殴りまくる。多分もう死んでいるだろうが殴りまくる。チョコが止めてきたが、そのまま殴りまくる。そして、



「称号:“限界を超えし者:怒”を入手しました」

・怒りが続く限り、与えるダメージが二倍。

 ゲーム時間一日に一回。毎日零時に回数がリセットされる。

 但し、怒っている最中は受けるダメージが二倍になる。



 なかなか、いい称号が入ったじゃないか。移動のついでにギルドで新たに得た称号をつけた。



 怒りに任せて戦闘を繰り返す、かすった攻撃でもHPが削れてしまう。しかし、この痛みは自分への罰だ。痛み以上の数倍の怒りを込めて殴り倒す。グリフォンを殲滅し終わったところで、クローネシュタットが安全地帯に戻り、しばらくして二日目第二回のイベント時間が終わった。



 ハジメには、AIはプログラムだと言ったけど全然違ってた。確かにプログラムだけど、それ以上の何かがあった、あったんだ。うなだれて四つん這いになる。また涙が溢れてくる。チョコが何も言わずに背中に手を回してくれる。うっううー。



「えーす。リンスドルフは防衛出来ました。そちらはどうでしたか?」

 PTチャットでハンガクが話しかけてくれたが、会話する気力がなかった。チョコが代わりに状況を話している。クローネシュタットとリンスドルフも防衛できたが、流石に疲れた。目の前が中央公園だったので、兎の串焼きを一個だけ売りに出してログアウトした。



 ヘッドギアからも涙が溢れ出ていた。洗面台で顔をあらった。喉が渇いたので、水分を補給しながらスマホをみる、見たことがない番号の着信が複数あり、CONNECTを見るとトムから書き込みがある。


「鈴木さん。ハジメがフットサルの帰りに車で事故を起こして、病院に運ばれたようです。具体的な状況はこれから確認します。分かり次第連絡します」

 まったくなんて日だ! もう頭がおかしくなりそうだよ。孫娘に電話で事情を話し、ゲーム内の皆にログイン出来ない事を伝えるようにお願いした。トムに電話をすると車の中だった。


「外出中のハジメの上司から連絡があって、私の家の近所の病院に運ばれたので、先行して確認しに行くところです」

 その病院なら家からも近いな、バイクなら十数分てところだ。EVバイクで私も病院に向かう。


「トムさん。さん鈴木。すみませんご心配をおかけしてしまって」

 無事なのは良かったが、今は冗談を言うべき場合じゃないだろう。いや心配をさせない為に無理して言ったのかも知れないな。

 どうやら多忙で徹夜したのに無理してフットサルに行き、皆でお昼を食べた後、どうしても眠たくなったので駐停車禁止の場所に車を止めた。その際少しガードレールを擦ったそうだ。

 窓が開いており警官が揺すったが全然起きなかったので、救急車を呼ばれて騒ぎが大きくなってしまった。実に紛らわしい。

 しかし何でそんなに忙しいかをハジメに確認したら、各社との調整や進捗確認、メールを読み返事を書くだけでも一苦労らしい。


「トム、うちには時間が倍速で流れるVRコンテンツは無いのか? それとハジメ、さんは鈴木の後だ、鈴木さんだ」

 実装されている新技術は同業他社でも実験段階に入っている事が多い。今まので業務上の経験、そして昔読んだ信頼出来る本に書いてあったから間違いない。


「はい。現実一時間、仮想空間上で二時間になる二倍速技術は完成しています。この後実用テストになりますが、ただしそれ用のコンテンツは、会話、メール、チャットくらいしかありませんよ」

 ハジメや関係会社の面々にその中の働いて貰えば、遠隔地でも顔を合わせて会議出来るし、メールを読んだり書いたりだって楽じゃないのか?

 動く椅子もセットで利用すれば、二倍速も椅子も実用テストが出来るし、二百周年記念事業の準備も進むだろう。 


「いくつか問題が、まず労働基準法との兼ね合いと、あの! 労働組合との調整が必要です、はあ~」

 法律は私も懸念していたが、三ヶ月弱の間のVR技術テストという事でなんとかならないだろうか。仮想時間の労働時間も特別手当で支給するとか、終わったら特別休暇を与えるとか、しかし、


「トム、どうしたんだ珍しいな。出来ない理由を言うのではなくて出来るためにどうすれば良いか考えるべきだろう」

 労働組合との調整に労力が掛かるのは分かるが、だからやらないというのは理由にならない。拒絶されて、初めて理由となるのだから。

 

「トムさん、鈴木さんだ、本当に今日は申し訳ございませんでした」

 まあこうなると分かっていて言ったんだけどね。こいつはブレないな。とりあえず直ぐに退院するそうなのであとはトムに任せた、車だしね。



 ハジメの冗談のおかげで、少し気が楽になった。ハジメも無事だったし、彼らと会話したことで、大分落ち着いてきた。


 EVバイク『でんでん』に乗って帰る。『でんでん』は、YAMAHO製の電気バイクだ。でんでん虫をイメージしたデザインになっていて、サイドミラーは目をイメージしている。当然このバイクは、私の趣味ではない。

 私は機械Zマシンがゼットという、版権大丈夫かな? と心配するようなネーミングのバイクが欲しかった。前輪が二輪になっており、サスペンションが凄いというか、ちょっとした階段なら、交互に車輪をあげて、歩くように登れるんだ。かっこいいよな。


 門の前につくと、顔認証で自動で門が開く。

 プールが二つに割れて水が下に落ちていく、そしてそこから巨大ロボットが出るシーンはかっこよかったな。機械Zマシンがゼットの事を考えていたら、自然と思い出してしまった。


 普通のガレージにバイクをしまう。

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