第31話ダンジョンリベンジ

 ダンジョンの入口前でハンガクが注意事項を説明している。既に多くのプレイヤーが、このダンジョンに挑んでいるそうだが探索しつくされていないらしい。敵が多すぎて辛いそうだ。

 敵の構成を考えて、精鋭の槍隊を横四列*縦三列に並べる。そのあとに魔法使い三人と私、弓隊横四列*縦三列の順で、あとは適当についてく。


 前回は不安一杯だったけど、今回はこれだけの人数なので心強い。洞窟の地面には多数のコウモリの糞が落ちていた。後ろの人たちが拾いながら歩く。

 キィキィという声が聞こえてきた。前衛の一人が松明を前方に投げると、コウモリが多数見えた、こちらに飛んでくる。


「槍を上下に、はじめー」「弓、投擲、適当に打ってー」

 前田が叫ぶ。呼んだ? 弓の方はハンガクだ。前衛の槍隊が槍を上下に動かす。多くのコウモリが当たって地面に落ちる。後ろからも矢や槍などの投擲武器が沢山飛んでいき、コウモリに当たり地面に落ちていく。

 剥ぎ取りは後続に任せて前に進むと、例の五差路ゴサロがある部屋に着いた。

 この人数なら四隊に別れても良いだろうという事で、ここから先は人数も減るし、いつものメンバーを主に組んで進む事になった。

 一番右は私が行ったことがあるので、私、ハンガク、前田、謙信、パートの五人。後六人PTが二つほど一緒に来ている。道が狭くなるので少数の方がいいだろう。


 ドド、ドド、ドドオ……、大きな音が近づいてくる。謙信が松明を前方にに投げる。敵が松明の付近まで近づき、ヴィルトシュヴァインが来るのが見えた。

 私と前田が槍を構えて、その間に謙信が一歩前に出てしゃがんで剣を構えている。それ以外の面々は、投擲槍や弓を投げまくる。

 私と前田の槍に敵が刺さる。通路の半分はあえて開けているので、残りの敵は通り抜けていく。通り過ぎようとしている最後の敵の脚を謙信が切りつける。敵が回転しながらすっ転ぶ、それを後続のPTが攻撃して倒している。


 さらに前に進むとあかりが前から近づいてくる、多分オークだろう先手必勝だ。謙信が松明を何個か前に投げて視界を確保する。


「全員構えて、三、二、一、放て。あとは自由に」

 ハンガクの合図で、総勢十七人が投擲槍や矢、フランキスカなどの遠距離攻撃武器で攻撃を始める。まだ灯りしか見えていないが、灯りが揺れて倒れたのが分かる。

 その後松明の付近までやって来た、槍や矢が多数刺さっているのが見えるオーク達だ。相手からも矢が飛んでくるがここは我慢比べだ。減った体力は薬草を食べたり、出血した場合は薬草を手でクシャクシャと一、二回揉んで出血箇所に貼ると血が止まって体力が回復する。

 武装を甲羅の盾と投擲槍に変えた。飛んでくる矢の幾つかは盾で防ぐ。十分程戦ったあたりで、敵が後ろに下がっていくのが分かる。それでも矢や投擲槍を投げ続けて、灯りが見えなくなったのを確認してやめた。


 正面には死体の山が出来ているが、討伐した旨のウインドウが表示されない。


「警戒!周囲に敵がいるかも」

 ハンガクが注意を促す。敵は見えない、見えるのは死体の山だけだ。


「前田、えーす、謙信は構えて、他は死体に向かって任意射撃開始」

 直ぐに装備を十文字槍に変更して構える。死体に槍や矢が更にささり続ける。すると死体の中からオークが三体飛び出してきた。


「連続突き」

 前田が槍で二体を刺し地面に叩き落とす。


「スラッシュ」

 謙信が近づく敵に斬撃を放ち、更に私が敵の腹に槍を突き刺す。倒れている敵に槍や矢、フランキスカなど投げられて、どんどん刺さる。

 オークの一体が起き上がるが、最後にフランキスカが額に突き刺さり、後ろに倒れてウインドウが表示された。パートがその場でクルット回って軽くガッツポーズをした。イェイって音が聞こえそうな気がする。ちょっとかわいい。


 いやー死んだふりとか、凄い卑怯だろ。ハンガクや前田達が他の通路を進んでいる人達に注意を促す。

 さて、オークの剥ぎ取りをする、ボロボロの武器と防具と、虫の串焼きくらいだった。虫の串焼きは偶々私に来たのでモシャモシャと食べる、うん美味しい。オークとかコボルトは食べられないのかな?

 

 何度か敵と遭遇するが撃退しながら前に進むと少し広めの部屋に出てきた、三差路だな。宝箱があったので開けると部屋にいる全員に三千マールが入った。

 MPも減ってきたので部屋で休憩する。パートが兎肉炒め薬膳を作り始めた。他の通路の状況をハンガクが共有し始める。

 正面の通路二本は、先で繋がっていて危うく味方同士で戦いそうになったそうだ。まあ対人戦闘を許可していなければ、ダメージが入らないから大丈夫だろう。


「知らない人が相手だった場合、敵対行動と取られる可能性があるので、慎重に行動すべきです」

 ハンガクが手をあげて発言した。そりゃそうだな、今後は相手が誰かを確かめてから攻撃すべきだろう。先制攻撃が出来なくなったのは地味に痛いな。


 別の通路からプレイヤーが現れた。左端を歩いていたメンバーだ。左のプレイヤーはこれから休憩になる。正面に向かった二集団は、五差路の部屋に戻って、二手に別れてこの部屋に向かっている。



 私たち右端を歩いていた集団は回復が終わったので、先に残りの通路に向かって歩き始める。出てくる敵はコウモリ、ヴィルトシュヴァイン、色々なオークで変わらない。


「きゃー」

 後ろから声が聞こえる。後ろの穴から大量の大ムカデが出てきた。全長が二mくらい有りそうだな、しかもヌメーっとした感じがあり、これは気持ちが悪い。今度は正面からも横からも出てきた。


「全員、目の前の敵と戦って」

 ハンガクが指示をだす。指示を出さなくても近くの敵と戦わないと無理。生理的に無理。


「うぁあやめろー」「もうだめー」「アハハ、アハハハハアアハハ」

 味方に攻撃してダメージを与えたり、今歩いてきた来た通路を走って戻ったり、魔法をアチコチに打ちまくったりしている。なんかおかしい、いくら気持ち悪くてもこの反応はない。よく見ると異常な行動しているプレイヤーのアイコン横に“?”マークがピョンピョンはねてる。

 前田が槍で突いてきて、左腕に当たりダメージが入る。思わずコンニャロっと思い、右手の槍の柄で叩き返してしまった。


「あれ? どうしたんだろ」

 殴ってきた時にはあった“?”マークが消えている。


「おかしな行動をしている奴を軽く殴れ。正気に戻るぞ」

 周りの皆に注意を促す。敵と戦いながらも、隙を見ては状態異常になっているプレイヤーを小突いて正気に戻しながら戦う。なんとか敵を倒すとウインドが表示された。


「ゴーゼタオゼントフューサーを倒しました……」

 全然覚えられません、大ムカデで決定ですね。先ほどの戦闘で二名程死に戻りしている。一名は混乱しているプレイヤーに攻撃されて死んだ人と、混乱しているプレイヤーを正気に戻そうとして殴ったら、相手が死んでしまった。


 どちらも殺した側のプレイヤーはPK扱いには成らなかった、そりゃそうだろうこんなのでPKになってたら、ゲームとして成り立たなくなる。混乱中はプレイヤー同士でも殴れる、殴れないと異常状態を回復できないし、最悪邪魔な時は殺せないし、ゲームの仕様としては有りだと思う。

 そうそう、混乱中は本人自身は混乱している事に気がつかないようだ。混乱対策は、しばらくすると必須になるかもな。


 そのまま戦闘を続けながら移動すると、また小部屋に辿り着く前方に通路が二つ見えるので三叉路だ。何故だか安全なエリアなようだし、そろそろ十二時なので休憩を行う事にした、十三時集合で放置露店してログアウトする。

 他の集団もこちらに向かっている。たとえ到着しても他の集団も休憩が必要だろうし、休憩をとっても大丈夫だろう。



 日本時間十三時、他の集団も到着しているが、死に戻りが多少発生して総勢七十名になっていた。後から来たメンバーは休憩中なので、しばらくは暇だな。ちなみに死んだ人たちは、ラージヤマアラシ狩りや観光をしているようだ。


 どうせ暇なら、先に進んで状況を確認しようという意見が出てきたので、今いるメンバーだけで再編成して、二手に分かれて進む。こちらは私たちのPT以外に、六人PTが三つで合計二十三人だ。


 しばらく進むと地面のあちこちに木の枝が刺さっている。ぱっと見で言えばお墓な気がする、洞窟の通路内でお墓って違和感ありまくりだな。でも敵はいない。止まっているわけにも行かないので先に進むと、地面からスケルトンが多数出てきた。

 隊列の途中や足元にいきなり出てくるので、混戦になり戦いにくい。戦っていると音が聞こえる。ドド、ドド、ドドオ……、ヴィルトシュヴァインちょい足し猪だな。


「全員左側に寄って、先頭の人は正面に槍を構えて」

 ハンガクが指示を出す。移動時にスケルトンから多少ダメージを受けたものの、プレイヤーは全員左側によって戦っている。前から来たちょい足し猪が右側のスケルトンを粉砕しながら進んでいく。なんとかスケルトンを倒したところで、前からあかりが見える。

 正面に松明を沢山投げる。まだ敵の姿は見えない、暗闇の先で灯りが揺れるだけだ。


「プレイヤーですか?」

 ハンガクが大声で叫ぶと矢が数本飛んできた。謙信が前にササっと進み、斜め前にジャンプして、空中で剣を横に振ると洞窟の壁に矢が当たる音がした。おお格好良いぞ謙信。

 謙信が物理法則を無視しした動きで、空中から後ろに一回転して戻ってくる。ズサササー、謙信が仰向けで地面を滑る。

 謙信の額に矢が刺さっており、ダメージでこちらに吹っ飛ばされて戻ってきたようだ、カッコ悪い。


 薬草を額に貼ったり食べている謙信はさておき、弓や投擲武器で反撃を行う。ここでも薬草を食べまくりながらの我慢比べだ。敵からの反撃が収まってウインドウが表示されたので討伐が完了したようだな。みんなが剥ぎ取りナイフを刺しているが死体が消えない。そして何も出ない。


「あれ? バグじゃないのか?」「こっちも剥ぎ取り出来ないよ」

 どうやらバグか何かようだ。剥ぎとれないなら諦めるしかないな。そう思っていると死体が急に襲ってきた。死体はオークゾンビになっていた。


「きゃー」「えええ!?」「くそ、ふざけんな」

 何とか戦い始めるが、ゾンビ系やスケルトン系は、何故か矢や刺突剣などの武器では、ダメージが与えにくいし、既にゼロ距離で戦っているので、別の武器を使って戦わざるを得ない。


「「「クライネファイヤー」」」 「「「クライネファイヤー」」」 

 魔法使いが火属性の魔法を打ち、戦士は一旦蹴っ飛ばして距離を取ったあと、槍で近づけないように突き返したり、予備の松明に火をつけて投げ付ける。オークゾンビは燃えながら、倒されていった。


 さらに先に進むと灯りが見える。ずっと同じ場所で光っているので、動いている敵ではなさそうさな。たどり着くと、篝火がたかれている部屋についた。正面には扉がある。


「雰囲気的に、この先がボスのような気がします」

 このゲームでは、まだボスと言われるような敵にあったという報告は出ていないが、他のゲームの知識から、このような演出はボスっぽいらしい。


「あ、反対側の通路を進んだ集団からささやきが来てます」

 どうやら全滅したらしい。大ムカデが出ている時に足元からスケルトンが出て、さらにちょい足し猪が来た後に、オークの集団がやってきたらしい。踏んだり蹴ったりだな。



 残りのメンバーもボス部屋と思われる部屋の前に集まった。総勢五十二名の集団だが、ボスの強さがわからないので、戦ってみるしかない。

 扉を開けて中に入るとスフィンクスっぽい石像があるだけで誰もいない部屋だった。石像の奥には扉がが見える。突如石像が語りだす。


「朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足。…………これは何だ?」

 結構有名な、なぞなぞだが何でこんな問を出すんだ? 全員が石像から少し離れて小声で相談している。


「どう考えても人じゃないのか?」


「獣人だっているんだぞ、獣人の一種かも知れない」


「化物だっているんだし、化け物の可能性だってある」


「そもそも、この問いに正解したり、間違ったりするとどうなるんだ」

 色々意見が出るが、これだ! っていう意見が出ない。ハンガクが私に意見を求めてきた。うーん、分からない事は分かっている人に聞くしかないな。



「あのー質問してもいいですか?」

 石像の前まで歩いて、尋ねてみた。


「ちょ、えーす」「えええ!?」「何やってるんですか」

 と色々な声が聞こえる。


「ん、何だ、何でも聞いていいぞ」

 石像が応える。


「いいのかよ!」

 謙信が声に出してツッコンだ。正解だ、この場でのツッコミならその一言が適切だと思う。心のメモ帳にツッコミレベル二に上がったと書き込んだ。


「この問いに正解したり、間違えたりするとどうなるんですか?」

 それが分からないと、迂闊には答えられないからね。


「それは結果が出てからのお楽しみだ」

 石像が応えた。答えてないけど。


「答えてねーじゃん」

 前田がさらに突っ込む。正解だけど、私が声に出して突っ込むなら「答えてねぇーー」か「いや、答えろよ!」かな、いやいや、後から考える分には幾らでも言えるけど、あのタイミングであの回答を出せた事は一定の評価に……脱線してしまった。


「質問の意図がよくわかりませんでした。

 最後が“この生き物は何か?”と尋ねられれば、何かしらの生き物をを回答しますが、

 ……が続いた後に“これは何だ?”では、最初の“朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足”に対する問なのか、そもそも文章全体に掛かったこの質問自体が何かを問うているようにも取れます」

 石像は無言のまま何も喋らない。


「そもそも答えは一つなんですか? 一足す一はと聞かれて、“二”と答えたら、正解は“田んぼの田”だと言い、“田んぼの田”と答えたら“二”だと返すような、答えがひとつにならない、絶対外れる質問だったりしないのですか?」

 石像が目線を外し、口を横にとんがらせ、シーシーという口笛にもならないような音を出している。それ誤魔化せてないから。


「さあ、問いに答えなさい」

 石像が開き直った。私は石像から皆の方に戻って、再度相談する。


「絶対外れになるみたいだし、なんか腹が立つから、あの石像壊してもいいか?」

 数人が笑い声と共に吹き出した。「いいぞやろうやろう」という賛成の声が出てきたので、モルルンモルゲンステルンを取り出して、石像の方に振り返る。


「よっ良くぞ我が問の真意を看破した、この先の扉を開けて進んで良いぞ、汝らの行先に光あれー、光あったらいいなー」

 明らかに、身の危険を感じて態度を変えたと思うが、結果オーライって事で良いだろう。しかし最後は「あれー」だけで良いじゃないか。脅迫に対する嫌がらせかも知れないな。


 扉を開けて中に入ると扉がしまり開かなくなった。洞窟っぽい作りにはなっているけど、とても洞窟とは思えないほどの広さの場所にでた、多分サッカーのフィールドより広いくらいだろうか。天井までの高さもだいぶありそうだな、ビル三階分くらいかなー。また空中には、木の板と縄で出来た橋のような物が複数掛かっている。


 ちなみに部屋全体が若干光っている。苔のようなものが光を出している演出に見えるが、ゲーム的には暗いと戦い難いから親切心で光らせているのかもしれない。もしかして、さっきの石像が光らせてくれているのかもしれないが、確認のしようがないね。


 敵の姿が見えないので、とりあえず前に進む。しばらく進んだところで、地震が起きたような感じで、地面が軽く揺れて正面の壁が割れて大きな敵が出てきた。モグラだな。


「全員モグラに遠隔攻撃かいしー」

 ハンガクが指示をだして皆で攻撃を始める。矢や槍などの投擲武器がモグラにあたるが、そんな事も気にせず淒勢いでこちらに突進してきた。


「全員回避ー」

 ハンガクの指示で左右に走り出したが、もぐらが若干方向を変えて左側の集団に突っ込み、多くのプレイヤーが宙に舞った。ランタンの光が放物線を描いて落ちていく。落ちたプレイヤーをモグラが更に踏み潰す。


 避けた右側の集団から、再度投擲武器などで攻撃するが死ぬ気配が見えない。モグラに集中していたら、いつの間にか橋の上からオークたちが居て弓でこちらに攻撃をしてきた。もうどうにも成らない気がする。モグラの突進を受けては跳ね飛ばされ、上からは弓で攻撃され、為すすべもなく全滅した。



 うーん勝てる気がしない。ちなみあれはボスだった。アイコンの横にBOSSって書いてあり、名前が付いていた。“マオルヴルフのタルバモール”だ。モールは英語で、意味はモグラだからモグラの化け物なんだろう。当初の目的であるコウモリの牙、羽、糞は多数手に入れたので、まあ帰りの移動時間が短縮出来たと思えばいいか。


 次は花だな。

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