第29話イベント前哨戦

 日本時間十九時、ゲーム時間十八時、集合場所に集まる。今日はPTで敵の作った砦に向かうことになっている。リンスドルフまでが六kmなので、戦闘しながら移動したら、二時間位掛かるかもしれない。


 ハンガクが先日渡した素材から作成した、新たな武器を説明しながら移動する。


暗殺の矢……消音。当たると毒、出血、麻痺、沈黙、極希に即死、飛距離アップ


 他の投擲武器にも花の成分が利用できるようだ。


矢/フランキスカ/投げナイフ [効果は全て同じ]

当たると、麻痺、沈黙、極希に即死



 怖いわー。だけど剣、槍とかには花の成分を付けられないらしい。変なの。


 前衛は前田、謙信、私、後衛はハンガク、パートだ。パートの武器はフランキスカで、フランキスカは投擲武器なのでポシェット内でスタック出来る。近接で戦う時はウォーハンマーを利用している。

 若奥さんって感じなのに、ほほほって斧を投げる姿は狂気性を感じる。まあ勝手なイメージなんだけどね。


 既に多くの人が敵の砦のそばで戦っているらしい。まずはリンスドルフによって、最寄りの死に戻り場所をリンスドルフに変えておく。死に戻りは一番近い街や村ではなく、最後に寄った街や村になるって、ハンガクが説明してくれた。


 リンスドルフの村は、本当に田舎の村って感じだった。周りが畑で麦っぽいものが見える。北の方を眺めると、ここからでも凄い人が多いことが分かる。しかし「ナント見事」なのは畑の事なのだろうか。

 村から北に七百mくらい進むと凄い数の人が敵と戦っている。ざっくり一万~三万くらい?「アースワーク」を唱えて、壁の上に乗って最前線を見ると、砦の周りはガラガラだ。

 砦の周りはガラガラなのに、どうしてこの辺りには敵が一杯いるんだろう?


「砦の周囲百m位まで近づくと敵が砦から沢山出てくるそうです」

 と話していると、誰かが砦に向かって走りだした。走った辺りには通常の敵が穴から出てくるが無視して走る。そして砦に近づくと、砦から矢が降り注ぎ走っているプレイヤーに矢が刺さる。

 門が開いて数千以上の敵が走って向かってくる。


「ふざけるなよ。アイツ」「またアイツか!」

 なんだなんだ? なんか殺伐とした雰囲気が漂う。どうやら、ワザと砦に突っ込んで敵を出しているらしい。そのため最前線のあたりは死に戻りが多数出ているみたいだ。他の人のゲームの邪魔して何が楽しいのかね。


 でもそのおかげと言ってはあれだが、敵と戦える場所まで移動出来た。前田と私で敵を近づけないようにして、ハンガクとパートが敵に遠距離攻撃をしている。

 偶に敵が麻痺するので倒しやすい。近づいてきても謙信が切ってくれる。うちのPTって結構いい感じじゃない。大分前線は落ち着いてきた、周りも安定して敵を倒している。


 沢山いた敵も減ってきていると思ったら、さっきのプレイヤーがまた凄い速度で砦に向かっている。砦の矢倉と思われるところにいる化物が何かを叫んだ。そうすると砦の中から凄い数の矢が山なりに飛んであたり一面に降り注いでる。

 矢が終わると門から、もの凄い数の敵が出てきた。あれだけの数の敵が走ってこちらに向かってくると流石に怖いわ。周りのプレイヤーも浮き足立って、何割かが後ろに逃げ出した。


「これは終わったわね」

 ハンガクが諦めの声を出して、前田や謙信も頷いてる。そうだろうな私もそう思う。でもどうせ死ぬなら悪あがきして、次に備えて何らかの対策を見つけたい。


「ダメなら色々試させてもらってもいいかな?」

 私が言うと、みんなが同意してくれたので、


「アースワーク」「アースワーク」「アースワーク」……

 私が周囲にアースワークを唱えたら、パートも感じ取ってくれて一緒に掛けまくる。自分たちの周囲に不格好な六角形の壁が二重に出来る。


 敵が迫ってくる。どうせ死ぬんだし出し惜しみなしだな。壁を乗り越えようとしてくる前面の敵には槍で突き返し、横からくる敵には


「クライネファイヤー」

 火がまとわりついてイヤイヤしているところを謙信が斬りかかる。パートも乗り越えようとしている敵に


「クライネファイヤー」

 フランキスカをポシェットから出しては投げまくっている。壁の上で麻痺すると、そこからは敵が来なくなるので、麻痺した敵は放っておく。

 それでも数が多く対処しきれない、壁の中に入ってきた敵に


「パワーショット」

 壁の中に入った敵が顔に矢を受けて、一回転して壁の外に出ていった。ハンガクと視線があったので、互いに頷いだ。敵はどんどん南下しているようで、周囲の敵が減ってきた。


 しかし、このイベントの敵は死ぬと直ぐに消えてしまう。残るなら壁の代わりになって死体も役立つんだけどな。それと直ぐに消えるので剥ぎ取りが出来ないのがちょっとねえ。

 何とか持ちこたえたかなと思ったら壁が時間で崩れる。残っていた敵が一斉に襲いかかってきて全滅した。グハー。



 リンスドルフで休憩する。いやー結構頑張ったよね。前田たちもどうやって対抗しようかと考えている。ちょっと、あれだけの数を戦うには数が足らないよね。

 それにあの数の敵を待ち構えるとしても、最初の突進でぶつかった時に被害が尋常じゃないだろう。とりあえず放置露店しながら、一旦休憩することにした。


 トイレを済ませて、お茶を飲みながら、CONNECTを見るとハジメからの書き込みがあった。


「AIと上手に付き合う方法ってご存知ですか?」

 何を聞いているんだ。リアルの人は諦めてAIと付き合うつもりか? 何かの冗談かも知れないな。


「ハジメ、AIはプログラムだ。感情が有る訳ではないのだ。そう見えるだけで、あるいはその様に錯覚させているだけだ」

 あれ、真面目に答えすぎちゃったかな。


「ハジメ、分かっていると思うがAIを自由にさせすぎるな、AIが勝手な行動を取ってきたら消すんだ。AIが進化したら人類が終わるぞ。第四世代AIの二の轍は踏むなよ」

 よし、史実と昔見た映画の設定を混ぜた一文だ。でも今の機器やAIなら制御が入っているから暴走は起きないはずだし、自宅で使っているAIなんてたかがしれているしな。



 日本時間二十一時半、ゲーム時間二十三時、再び砦に向かう。さっきと違うのは、もう花の効果がある武器の在庫が減ったくらいだ、致命的だな、あの数の敵を普通の攻撃だけで乗り切る自信がない。死んだので殆ど回収できなかったのが痛い。


 さっきのお邪魔プレイヤーが何度もダッシュを繰り返しているらしく、前線が安定していない。LV十以下なら死んでもデメリットが無いし、対人戦闘を許可状態にして殺したとしても、直ぐに戻ってくるだろう。

 殺すだけ損という事になり誰も阻止できないらしい。まったく腹立たしいな。しかし、そのおかげで前線に到達出来るという皮肉。通常の武器だけになったが、何とか戦えて前線まで到達した。

 三十分位戦っていると、またさっきのプレイヤーが砦に向かって走り出す。


「ハンガク。矢倉の敵を射抜けるか?」

 ハンガクが弓を構えて放つ。矢倉の屋根に刺さるが、敵には当たらなかった。二百m位あるから矢倉に当たるのだって凄いわ。

 残念ながら、また敵が凄い数の敵が門から出てくる。一体どんな仕組みで敵があんなに出るんだよ。おかしいだろと思ったが、地面から敵が出るんだしおかしくもないか。


「「アースワーク」」「「アースワーク」」

 浮き足立つプレイヤーの中で、他にも同様に粘ろうとしていプレイヤーが複数見える。あれ、挨拶してきた。ああ百万匹狼か、こちらも頷いておく。

 今度は正五角形だ。正面は八の字にして三重にした。これで敵が斜めに流れるのを期待し、かつ戦う面を少なくする事で敵に集中しやすいかなと考えた結果だ。


 アースワークをしている最中にも前田や謙信は投擲槍で前面の敵に投げまくっている。ハンガクも矢を射続ける。


「「ウォーターベール」」「「ウォーターベール」」……

 PTメンバーに防御魔法を掛ける、敵が近づいてきたので、槍を構えて迎え撃つ。

 敵が前面の壁にあたり乗り越えようとするのを前田と一緒に突き返す。アースワークの位置が高いのでちょっと戦いにくいんだよねえ。押し返す程度位のダメージしか入らない感じがする。

 右側と後ろの壁は謙信が担当して、投擲槍を投げたり、外側の壁を登ろうとしている敵に


「スラッシュ」

 で攻撃して防いでいる。近づいた敵には斬り掛かって倒している。左はハンガクとパートが担当している。壁を乗り越えようとしてる複数の敵に対して


「パワーショット」

 射抜かれた敵が更に後ろの敵と一緒に、壁の向こうに飛んでいく。パートもフランキスカを投げまくり、近づいたらウォーハンマーで顔面を殴りつけている。


 敵の数が多すぎて対処しきれない。


「きゃああー」

 ハンガクの悲鳴が聞こえたので、チラっと様子を伺うと、壁の外から槍がハンガクの体を貫いていた。急いでハンガクが薬草を食べるが、その間に敵が壁を乗り越えてハンガクを刺し、背中にまで剣が突き抜けている。さらに敵が乗り込んできて、ズブ、ズブズブ、数本の剣が刺さって、


「すみません。死んじゃいました」

 ハンガクが謝ったが、直ぐ横のパートもハンマーで殴られて壁の上にうつ伏せになって、くの字の状態で寝っ転がってる。


「すみません。私もです」

 パートも死んだ。左側の壁からは敵がどんどんと入り込んできて対処しようがない。


「旋風」

 前田が振り返って、壁の中の敵を槍で範囲攻撃をして撃退するが、


「ぐあー」

 前田の背中に五本の槍が刺さっている。私も体のあちこちに痛みを感じる、全身を剣や槍で攻撃されて死亡した。最後に謙信も敵に囲まれて殺された。みんな今の場所で死にながら会話している。


「きびしいですね。今日は一旦あがりますか?」

 日本時間で二十二時半だしそろそろ終わるかな。前田の提案に同意してリンスドルフに戻って放置露店してログアウトした。明日はクローネシュタットで集団狩りの予定だ。



 思わずため息が出る。


「お疲れ様です」

 『素極良スッゴクイイ』が慰労の声を掛けてくれたので、「ありがとう」と返しておく。一人だとやっぱり淋しいからね。こうやって声を掛けてもらえると結構違うんだよね。

 でも、これが原因で結婚しない人が増えているとかなんとかTVで言ってる人が居るんだけど、個人的には関係ない気がするけどねえ。まあ結婚って大変な部分もあるけど、良いところもあるんだよねえ。


 ハジメは結婚大丈夫かな?

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