第23話商会スカウト

「えーすさん。商会に入る気はありませんか?」


「商会には、秘宝であるポシェットノイエと大秘宝であるポシェットマレーネがあります。

 ノイエには一枠千個*三十枠入り、マレーネには一枠百個*千枠入ります。これは商会会員のみに貸与出来る代物です。

 これを使って、少なくても短期間で二往復し欲しい」


 三万と十万入るポシェットか、私のが三千*二個で六千だから、

約二十一倍の量だ。

 一回で約四十食、食糧の配分を多くすれば五、六十食分位になりそうだな。五十食を一日三食で計算したら、約十六日分にはなるはず。とりあえず一往復すれば一息付けるのでは?[ここまでの思考は約三秒]


「ウーヴェさん、そのポシェット量であれば一度で約二週間分の食料を運び込む事が可能なのでは?

 なぜ短期間に二往復する必要があるのですか?」


ほぉーと、感心したような顔になり、

「おっしゃる通りです。食糧を運び込むだけなら一回で当面の危機は回避出来ると思います。しかし、問題はそれだけではないのです。

 えーすさんは、この街の武器相場をご存知ですか?」


「数日前の相場になりますが、鉄製武器二十万、銅製武器十万、骨や石の武器や木製弓が五万、棍棒が三万、木剣と木の杖が二千くらいですかね?」

 知ってますよと見栄を張ってみました。


「確かに一週間位の前の相場はその位でした。では今、そう木剣の相場がいくらになっているかご存知ですか?」


「さらに値下がりして千マールくらいでしょうか?」


「二万マールになっています」

 ええええ!? 二万って、ゲーム開始当初は一万マールだったよね? 何でそんなに高くなっているの?


「他の相場もほぼ倍です。鉄製武器四十万、銅製武器二十万等、これだけ値が上がった理由は、……大きく三つあります。


 一つ、外国の方の羽振りがいきなり良くなり、凄い速度で武器と防具の在庫がなくなりました」


 あーお詫びだね。最低でも一人百万は手に入ったから、装備を整えたのか。武器や防具の値段が上がれば、更に高くなる前に買おうっていう人が増えて、拍車が掛かったかもしれないな。


「二つ、先日、木剣の相場が安くなったため、他の装備も、少しでずつですが値が下がり始めている状態でした。

 そこでハイコ様は、領民に対して武装を推奨されました。これは相場の安定と領民の安全を守る目的があったと思われます。

 兎肉と皮の暴落など、経済活動に異常が出ており、これ以上の混乱を嫌ったためでは……と私は推測しています。

 最初は木剣や木の杖などが売れ始めましたが、一つ目の予想外の買い入れが別途入り、更に相場を高くする要因になったと思われます。


 三つ、鉱山都市との交易が途絶えて、武器や防具などの原材料が不足しており、鍛冶屋は武器を作りたくても作れないような状況になっております。

 武器、防具の値上がりは、この都市以外でも発生し始めており、深刻な事態になっています。

 

 そこでアイゼンハルトからは、搬出出来ないで溜まっている鉱石と、武器と防具を運び出して頂きたい。

 武器や防具が二千個あれば若干でも値が下がり、また鉱石があれば、数日後には武器や防具が店先に並ぶと思います」


 うーむ。これはどう考えても運営が悪いな。しかし、作り込み過ぎだろこれ。

 しかし、このNPCは中々優秀だな、話し方のテンプレートでもあるのだろうか? 私も、理由は三つあります。といって、話しながら理由を考えたもんだよ。



「状況は理解出来ましたが、短期間に二度もというのは少しその体が持たないというか、気力が維持出来ないというか……」

 休憩したいし、流石に睡眠時間は欲しいな。


「分かっております。ただ食糧の事もありますので、本日中には一往復していただけると助かります」

 ま、一往復なら何とかいいかな。


「えーすさんには、秘宝の貸与という理由以外でも、商会に入っていただきたいです。少し勧誘をさせて下さい。

 商会に入ることで複数のメリットがあります。まず、商会会員ランクに応じた保管棚が与えられます。

 装備や消耗品などを保管する“アイテム保管棚”と交易品などを保管する“交易保管棚”です。

 商会会員ランクはFから始まりA、S、SSまであります。ランクが二つ上がるごとに、利用できる保管棚の数が増えます。


 交易品の購入上限が無くなります。街の店屋に交易品を含め、色々なものを直接物を売ることが可能になります。


 それと商会にお金を預ける事が可能になり、他の街の当商会の支店や取引のある商会であれば、引き出す事が可能です。


 うちの商会は、クローネシュタットに本店、ブラウメーア、エールラーケ、アイゼンハルト、ノイケーニヒシュロスに支店を持っており、かなりの有力商会です。

 えーすさんであれば、Dランクから受け入れたいと思います。何か疑問点がありましたら、なんなりと質問してください」


「……」

「遠慮せず、なんでも言ってください」


 気になることがありすぎて、いちいち確認してられないな。


「申し訳ございませんが書面でいただけないでしょうか。正確に覚えられませんでした。

 出来れば、それぞれのメリットに関する項目について、詳細な内容も書面でいただければ、その内容中から不明と思われる点を質問したいと思います」

「……」

「……」

「もう一度、メリットの詳細な説明込みで致しましょうか?」

 いやいやそうじゃないって。色々聞きたくなるから質問事項を減らしたいのに。はあぁ、じゃあちょっとだけ聞きますか。


「幾つか気になった点がありましたので、遠慮せず質問致します。まず、秘宝、大秘宝ですが、貸与期間を確認しておきたいです。

 今回の配達限りなのか、その後も貸与していただけるのか? また貸与料が掛かりますか?

 大事な装備だと思いますので、万が一私が倒れて紛失してしまう等の被害があった場合は、私はどのような賠償責任を負いますか?

 所持しているアイテム数が多いと、死んだ時に荷物を失う可能性があると聞いております。同様に死んで大量に荷物を失った場合の賠償責任内容を教えて下さい。

 商会に入った場合のデメリットは何かありますか?

 商会には入会金や年会費、儲けが発生した時の上納金、税金などの制度はありますか?

 “アイテム保管棚”と“交易保管棚”の詳細な仕様を知りたいです。

 ランクがあるのは理解出来ましたが、ランクを上げるための条件をもう少し詳しく知りたいです。

 街の店に直接売れるとの事ですが、直接売ることのメリット、デメリットについても確認したいです。

 直接売ることにより、既存の卸入れ業者との間に摩擦が発生したり、定期的な納品が必要になるど、気を付けるべき点などありましたら教えて下さい。

 商会にお金を預ける、引き出す場合の手数料はありますか? 例えば取引商会から引き出す場合は手数料が高くなるとか……」


 他にも幾つか気になることがあったが失礼になるので言わなかった。いや既に結構失礼だったな、気になったんだから仕方ない。だから書面でと言ったのに。

 それに有力商会って言われても、比較対象を知らないから、どれだけの商会なのか分からないね。

 秘宝は良いとして、その上が大秘宝ってのは安易過ぎる気がします[ハンガクはんがくごぜんの真似。……似てないな]


 ウーヴェ商会長が口を開く



「すみません。正確に覚えられませんでした。書面で頂けないでしょうか」

 オイ!


 全ての件は確認しませんでしたが、入らないと話が進まないので入ることにしました。

 それとポシェットそのものは落ないそうです、良かった。

 いくらLV十まで死亡時のデメリットが無いといっても、相当価値が高そうな装備だから確認しておきたかった。多額の借金を返すために、ゲームするとか嫌だからね。


 今回のアイゼンハルトに対して言えば、万が一紛失があっても、責任を問わないが、通常のお使いクエの場合は、紛失した分の損害賠償は発生するそうです。

 商会会員の仕事として依頼で且つ、本人に落ち度が無い場合は、損害賠償は発生しない。同じ量をクエストで実施するよりも報酬は低くなるとのこと。今回はこちらに該当ですね。


 “アイテム保管棚”は、装備や消耗品、交易品以外が対象となる。アルミラージの角はこちらに該当する。

 一枠百個*三十枠。Dランクなので同じ物がもう一つある。同一商会であれば、別支店からでも出し入れ出来る不思議仕様。

 当てずっぽうで商会長に言ったら、「ご存知でしたか」と言われた、良くあるよね?

 早速返してもらった角六本[六枠]と、経験値百%UPの巻物二十五個[一枠]、甲羅の盾を格納した。


 “交易保管棚”は、交易品が対象になる。肉、皮、お使いクエで運ぶアイテム、兎の涙、兎の涙大粒などがこれに該当する。

 こちらは何故か、この本店のみでしか出し入れ出来ない不思議仕様だ。一枠百個*三十枠。Dランクなので同じ物がもう一つある。

 お礼としてもらった、様々な鉱石が百個ずつ十種類と涙八個[一枠]、涙大粒二個[一枠]を格納している。


 物資を準備するのに時間が掛かるらしいので、一旦風呂にする。 



 日本時間二十時、ゲーム時間二十時だ。ポシェットノイエとマレーネを装着。

 薬草、毒消し、ポーション、火種などの消耗品と剥ぎ取りナイフ、モルルンモルゲンステルン、テントは、念のため持つことにした七枠使用。

 それ以外の枠は全て物資にしたので、前回五千百に対して、今回は十二万九千三百。約二十五倍だ。

 食料を多めにしたので、十九日分くらいにはなる。帰りは溜まっている鉱石類と武器防具をもって帰ってくることになっている。

 今回は配達期限がなく、往復で百万という報酬になった。ポシェット枠をあけるために串焼きを食べる。


 元気も出たしMPも回復したので、西門から脱兎二で移動を開始し、人気が減ったところで脱兎に変えて移動する。


 途中グリフォンにあっても、全然見当違いな場所に向かっているので、脱兎を使っている限り安全そうだ。


 アイゼンハルトの門に入る。約十三分くらいか、やっぱり早いわ。商会に行き、支店長にポシェットごと渡して仮眠室で休憩した。

 詰め替え作業をするとMP回復が遅れるので、同じ会社の仲間なのだから頼ることにした。あれ? 引退したはずなのになあ……。


 MPも回復したので、またクローネシュタットに戻る。やはり約十二分程度で戻ってこれた。


 商会に行くと商会長は外出中との事で、副商会長のフィデリオにポシェットごと渡して、仮眠室で休ませてもらった。


 ノックがあり、ドアが開く


「失礼するよ。あーそのまま寝てていい」

 商会長は領主や他の商会長と会ってきたらしい。

 今回の件で商会にある結構な量の在庫を使ったので、ギルドや街のお店からの買い入れ配分の変更のお願いと、次回の配達物資は領主様の保管している物資から出すこと、緊急事態とはいえ独占的な商売になってしまったので、持ってきた鉱石や武器防具の利益配分調整をしたそうだ。


 大変だな、どこの世界も。

 領主様が提供してくれる物資のポシェットへの詰め込みは、商会会員達がやるそうなので、MP回復が終わるまで寝るてるように言われた。


 もう一往復してログアウトした。

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