第13話AI調整と調合スキルを覚える

 日本時間十時、ゲーム時間零時、買取は完了していた。零時每にお詫びを貰っているが、もう一万マールや消耗品貰ってもそんなに嬉しくない。もっと良い物くれればいいのにな。

 さて、この時間は兎に合わないからお使いするのに効率が良い、一往復だけして、その後AIの様子を確認しよう。

 それが終わったらそろそろ装備を整えたい。特に武器、本当に杖は持ちにくい。上が膨らんでいて地面側が細くなっている。逆円錐を持っていると大げさだが握った時の違和感が酷い。



「肉が二千七百個で十九万四千四百、皮が二千七百個で十九万四千四百、合計三十八万八千八百だね」

「合計三十八万八千八百でよろしいですか? はい いいえ」


 “はい”を選択する。ブラウメーアのギルドで最新の相場を確認すると、死体百、肉と皮が六十になっていた。儲けが減ってきたし、移動するときの兎が面倒だから、うん、これで最後だな。

 でも、この価格なら初期街との違和感が無いな、他の街の相場に差がある事に気がつかないかもしれない。となると、いち早く他の街に行こうと思う人が増えないかも。その間に私が別の街で売り抜ける。くくく……いいじゃないか。 

 いやいや、でもレベルも上げたいし、調合スキルも使ってみたいんだよね。まあマールはあるし、今日のところはAI調整と調合スキルの入手、武器の購入かな。




 日本時間十三時半、ゲーム時間七時、クローネシュタットの西門を出る。AIの出来を試す時が来たぞ。

 早速、穴から三羽出てきた。左から向かって兎A、兎B、兎Cと呼称する。囲まれる可能性があるので、兎Aの更に左に向かって走る。


 兎Aは私との距離は詰めずに並走してきた。ふっ所詮畜生だな。眼前に敵が来たら戦ってしまう。ここは他の二羽と連携すべきだ。

 兎Aが方向を変えてこちらに向かってきた。私も走るのを止めて兎A側に向く。


 ん! 早い! 兎が想定したよりも早く顔面に向けて突進してきた。思わず右側に飛んでさける。避けて着地した瞬間に、兎Bが顔面に向かって飛んでくる。うおっと、更に右側に飛んで避ける。

 避けて着地した瞬間に、更に兎Cが同様に顔面に飛んでくる。

飛んで避ける余裕もない、思わず腰が引けてしまい、結果、体をひねって避けれた。


 兎との距離を取るために、前に数歩走って振り返る。三羽は他の兎の方を向いて、アイコンタクトをしているように見える。なんだなんだ、この兎達は。


 今は場所が入れ替わって、左から兎C,B,Aだ。なぜこのような状態になったのか。昨日との違いといえば、AIを弄ったせいで? 調整が失敗したのかもしれない。


 新しいモーションなんて試す余裕がなかった。とりあえず発動はしたので登録は出来ているらしい。このままではまずい。とりあえず一羽を仕留めないと。


 兎Cの更に左側に走る。兎Cだけ走ってきた、B,Aはゆっくり走ってきてる。しかし、距離を取ろうにも兎Cが更に速度をあげて、今度は胴体に向けて突っ込んでくる。


 攻撃する余裕もなく、今度は左側に飛んで避ける。こちらの動きを見ていた兎Bが猛スピードで胴体に向かって突っ込んでくる。少し距離があったので、右手の杖を使っていなす。


 兎Bの側面に杖を押し付けて、兎Bを軸に自分の体を横にし、兎Bは押し出されて私の左方向に飛んでいった。よし!

 いや良しじゃない。兎Aは、多分私の右側にいるはず。兎Aの突進してくる音が聞こえる。


 体も杖も横を向いてしまっている。多分兎Aは直ぐ近くにいるはずだ。とりあえず杖の先端を、ノールックで私の顔の右横に思いっきり突き出す。顔面にくればこれで避けれるはず。


 杖に凄い衝撃が走る……。杖が重い。杖を見ると兎が口から杖を飲み込んでいる。兎はヒクヒクしており、まだ生きているようだが、ほぼ体全体に杖が刺さっている。


 刺突剣のモーションでも働いたのだろうか? とりあえず一羽を無効化した。杖を構えて、戦闘体勢を継続する。


「やられた。まさかラビットストリームアタックをすり抜けるなんて、信じられん」

 と兎が言ってたりして。


 しかし、兎の二羽は動揺しているようだ。私も仲間が生きたまま串刺しになっている槍とか構えられてたら嫌だな。


 今度は二羽同時に突進してきた。どちらに避けても攻撃を喰らってしまうだろう。それなら……杖を自分の前に横にしながら前に飛び出した。


 兎Cは私の左側を走って抜けた。兎Bは飛びかかろうしてたため、杖にあたってひっくり返った。チャンス! とりあえず兎Bをドリブルしてから、大きく蹴り上げる。


 兎Aの体を両手で強く握り締め[もうやめてー、とっくに兎Aのライフはゼロよー]、兎Bを思いっきり杖で叩きつける。握りやすいからダメージがいつも以上に入った気がする。このまま兎使おうかな?


 兎Cの足音が聞こえる。視界には見えないので多分後ろだろう。まずは左に飛び体をひねってみる。先ほどいた場所に兎Cが突進しているのが見えた。


 体勢を整えて、兎Aをしっかり握る。正面に兎Cが飛んできたので、杖をそのまま振り、兎Cの顔面に叩きつける。兎がひっくり返ったので、さらに追撃を加える。


「ジャイアントラビットエリートを倒しました。経験値百八十が入りました」


 エリート? こいつら普通の兎じゃなかったのか。道理で強いと思った。一羽あたり六十か。兎二十匹分って凄い強かったんじゃないのか。


 兎Cに剥ぎ取りナイフを刺したら、皮二十、肉二十になった。どうみても一羽のサイズ以上だ。おかしいと思ったらだめだ、ゲームなんだから。これはゲーム、これはゲーム、これはゲーム。よし。


 兎Bも同様に、皮二十、肉二十だ。兎Aは勿体無いけど、剥ぎ取ることにした。おや肉と皮以外が出たぞ。


 兎の涙……兎から極希に出る。透明の石。宝石としての価値が有る。レア度:五


 よっし!! これは高そうだな。兎から出る理由は全く理解できないが、有り難くいただくとします。


 しかし戦闘してわかったが、いくらモーションを設定しても、それを出すタイミングというか、どのような時にどんな動きをすればいいのかなんて、戦闘慣れしていない私には無理だ。

 素早い判断が出来るわけがない。なるほど。体全体が避けるにはこんな理由があったのか。


 初戦から驚いてしまって疲れたな。しかしまだゲーム時間で七時半だ。もう少しだけ狩りをして経験値を稼ごう。


 ゲーム時間が十時近かったので狩りをやめた。エリートはあれから現れず只の兎を五十七匹倒して、追加で肉と皮を五十七ずつ手に入れた。


 西門をくぐり、屋台で兎串焼きを二本購入して食べながら移動していたら、掃除のおばさんが目に付いた。ゲームだからと普段は気にせずその辺に串を捨てていたが、目の前でゴミを拾っている人の前で捨てる程非常識ではない。しかし、この串はどうしよう。


「こんにちは。お掃除ご苦労様です」

 と話しかけたら、


「あら、えーすさん。こんにちは」

 ヒー、何で知っているの怖いんですけど。どうやらスラム街の住人でエルドワ経由で知ったらしい。で、ゴミについて聞いてみた。


・地面に捨てて構わない。拾うのが私達の仕事。


・アルバイトで、最近外人[プレイヤー]が増えてゴミが増えたので役所が動いた。失業者対策も兼ねているらしい。


・価値があるものを拾った場合は、役所が買取、拾った人と折半。


 ほおー。私たちが来たことで新たな雇用が生まれたのか。


 ちなみに家庭ごみはどうしているかと聞いたら、ゴミ箱に捨てたら自動で消えるそうです。……ゲームだ。ゲーム。月曜と金曜は燃えるゴミの日ですとか、そんなのは再現しなくていい。


 西側ギルド出張所でクエストの報告をし、兎討伐のクエ十匹*六回分の三千をいただいた。エリートも兎のようだ。

 買取価格は更に上がって、死体七十、肉と皮が四十二になっていたが、それでも安いので売らなかった。

 兎の涙は百万マールとのこと。相場変動や別の街で高くなる可能性を考え、売らないで取っておくことにした。


 そろそろ十時になる、スキルを覚えるために薬局に向かう。


「あらいらっしゃい。おはようございます。ローラントは奥に居るからどうぞ」

 ソフィさんに挨拶して奥に向かう。


「おはよう。え? お金がたまったのかい? それは良かった、でももう少し勉強した方が良いね、もう少しお手伝いを頼めるかな?」

 屋上にあがり薬草:乾燥、合わせ草:乾燥、毒消し草:乾燥を回収し、工房まで降ろして、屋上に上がって、薬草:生、合わせ草:生、毒消し草:生を並べる。水を汲んできて瓶に貯める。いつもは二時間だが、理解できるまでという事で四時間働いた。

 ローラントが作業する工程を眺める、なんか分かってきた気がする。草も良く良く見なくても、生なのか乾燥なのかも分かってきた気がするし、大分勉強になったな。


「うん、大分飲み込んできたみたいだね。じゃあスキルを教えよう」

 代金七万を払い、日当の二千を貰い、調合スキルを教えてもらった。必要経験値は九十だった。本当に良い獣人だな。

 ローラントさんとソフィーさんにお礼を伝えたら、ニッコリ笑って送り出してもらった。今日でお店は卒業だ。

 

 そろそろ武器を買い換えよう。良い武器があるといいのだが。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る