011

 ダークエルフの集落がある〈東の森〉周辺は〈西つ国〉でも特に不毛の土地だ。竜の財宝には心惹かれるものの、リスクを考慮するとさしたる旨味はない。それゆえ現状セルジオ王国には放置されており、長年目立った争いは起きていない。

 けれども、ある意味で平和を享受していると言えるこの地に、騒乱の種が持ち込まれようとしていた。

 そんなコトを知るよしもなく、畑仕事をサボって世間話に興じるダークエルフの男たち。「聞いたかオイ? サンチョに続いて、弟のチュンチョまで殺されたらしいぜ。しかもヤったのは勇者ジャンゴだってウワサだ」

「もしホントだったら、兄貴のドゥッチョがだまってねえだろ」

「それどころか、なんとあのボダロが動いたってよ」

「ボダロ将軍が? そいつはやべえ。ジャンゴのヤツは終わったな。将軍が動くってことは、ダークエルフの半分を敵にまわしちまったようなもんだ」

「いや、わからねえぜ。なんたってジャンゴには〈聖なる機関銃〉があるし、われらが女王陛下とは古い仲だ。オレはジャンゴが生き延びるほうに100ダリオ賭けるね」

「いいぜ。のった」

「――その賭け、アタシも交ぜてくれない?」

 第三者の声にダークエルフたちは振り返る。おどろくべきコトに、そこには若い人間グリンゴの女が立っていた。

 しかも、たったひとりで。

 ひどい偏見だが、人間グリンゴどもの常識では、ろくでなしのダークエルフどもは人間グリンゴの女を見たら犯して殺さずにはいられない、というコトになっているらしい。実に失礼なハナシだ。彼らにもブスを拒否する権利はある。もっともその点、目の前の女は、種族の差を乗り越えて子づくりに励みたくなる女だが。

 そんな危険な場所へひとりノコノコやって来るとは、むしろ怪しすぎて、男たちは据え膳に手をつけられずにいた。毒が盛られているかどうか警戒するように。

「おいテメエ、いったい何者だ?」

 見るからにガラの悪い男の恫喝に、女は怖じるコトなく、「アタシが何者かなんてコトはどうでもいい。それよりも重要なのは、アタシがアンタらダークエルフにとって、耳寄りなネタを教えてあげられるってことさ」

 当惑するダークエルフたちをよそに、女は大胆な要求を告げた。

「“時計が叱っているわ、時間をむだにするなって。”アタシをさっさと女王のところへ案内しな」

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